クメン法(フェノールの工業的製法)を3ステップで理解する

工業的製法
工業的製法

高校化学で特に重要な工業的製法は5つあります.

そのうちの1つであるクメン法フェノール$\mrm{CH_5OH}$の製法で,主な原料はベンゼン$\mrm{C_6H_6}$とプロピレン$\mrm{CH_3-CH=CH_2}$です.

クメン法は

ベンゼンとプロピレン → クメン → クメンヒドロペルオキシド → フェノール

という流れでフェノールをつくります.

ガスバーナー程度しか使わない「実験室的製法」に対して,「工業的製法」はビジネス用の製法で利益の上がるように物質を作るのが目標です.そのため「無駄なく,安くを目指した製法」となっており,ガンガン圧力をかけたり,高温にすることができるのも特徴です.

この記事では

  • クメン法で必要な物質と生成物
  • クメン法の考え方と流れ

を順に説明します.

クメン法で必要な物質と生成物

クメン法と名前が付いていますが,クメン法はベンゼンとプロピレンをもとにした「フェノールの製法」であることに注意してください.

ベンゼン$\mrm{C_6H_6}$

ベンゼンは最も簡単な芳香族炭化水素ですね.構造式は

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=-=-=)}\end{align*}

です.6個の炭素$\mrm{C}$が環状に繋がっていて,各炭素$\mrm{C}$から1個ずつ水素$\mrm{H}$が生えているような形ですね.

プロピレン$\mrm{CH_3-CH=CH_2}$

プロパン$\mrm{CH_3-CH_3-CH_3}$の1つの単結合が2重結合になった物質をプロピレンと呼びます.構造式は

    \begin{align*}\chemfig{CH_2 =[:90,.6,1] CH -[:90,.6,1]CH_3}\end{align*}

です.

プロピレンは2重結合を1つ含む炭化水素なので「プロペン」と呼んでも間違いではありませんが,普通はプロピレンと呼びます.

フェノール$\mrm{C_6H_5-OH}$

ベンゼンに$\mrm{OH}$が付加した物質をフェノールと呼びます.構造式は

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]OH)-=-=)}\end{align*}

です.このフェノールを作るがクメン法の目的ですね.

クメン法の考え方と流れ

気持ちとしてはベンゼンに酸素$\mrm{O}$を割り込ませて

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=-=-=)}\qquad\raisebox{.7cm}{$\longrightarrow$}\qquad\chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]OH)-=-=)}\end{align*}

とフェノールを生成したいのですが,ベンゼン単体ではうまくいきません.

そこで,プロピレンを併せて用意することで,うまくフェノールを作ることができます.

ステップ1(クメンをつくる)

最初にベンゼンにプロピレンを付加させると,次の反応が起こります.

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=-=-=)}\qquad\raisebox{.7cm}{$+$}\qquad \chemfig{CH_2 =[:90,.6,1] CH -[:90,.6,1]CH_3}\qquad\raisebox{.7cm}{$\longrightarrow$}\qquad \chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]CH (-[90,.6]CH_3) -[-90,.6]CH_3)-=-=)}\end{align*}

このときにできる物質をクメンといいます.

クメンはプロピレンの2重結合$=$のうちの1本がベンゼンと繋がり,ベンゼンの水素$\mrm{H}$が1個プロピレンの方に移った形になっていますね.

ステップ2(クメンヒドロペルオキシドをつくる)

クメンを空気酸化すると,次の反応が起こります.

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]CH (-[90,.6]CH_3) -[-90,.6]CH_3)-=-=)}\qquad\raisebox{.7cm}{$\overset{\mrm{O}}{\longrightarrow}$}\qquad \chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]C (-[90,.6]CH_3) (-[-90,.6]CH_3) -[,.6]O -[,.6]OH)-=-=)}\end{align*}

このときにできる物質をクメンヒドロペルオキシドといいます.

クメンヒドロペルオキシドはクメンの側鎖の中央の炭素と水素の間に$\mrm{-O-O-}$結合ができた形になっていますね.

$\mrm{-O-O-}$結合をもつ化合物を「ペルオキシド」といい,クメンヒドロペルオキシドは「クメン」と「ヒドロ(水素)」の「ペルオキシド」という意味です.

ステップ3(フェノールをつくる)

クメンヒドロペルオキシドを希硫酸で分解するとフェノールアセトンができます.

    \begin{align*}\chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]C (-[90,.6]CH_3) (-[-90,.6]CH_3) -[,.6]O -[,.6]OH)-=-=)}\qquad\raisebox{.7cm}{$\longrightarrow$}\qquad \chemfig{[:30,.8]*6(-=(-[,.6]OH)-=-=)}\qquad\raisebox{.7cm}{$+$}\qquad \chemfig{CH_3-[:90,.6,1]C(-[:90,.6,1]CH_3)=[,.6]O}\end{align*}

アセトンはケトン基$\mrm{-(C=O)-}$をもつ物質の典型的な例で,有機化学ではよく現れる物質です.

この反応は「クメンヒドロペルオキシドからアセトンがぽろっと離れてそのままフェノールになる」という単純なものではありませんが,少々複雑な反応になり高校範囲を超えるのでここでは触れません.

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プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.

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