この記事では,2017年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問1」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 複素数の絶対値,偏角が与えられたとき,正しく複素数を考えられるか.
- 「軌跡を求めよ」と問われたときに何をすれば良いか.
- 定義域を忘れず処理できるか.
です.
軌跡の方程式を求めることはそれほど難しくはありませんが,定義域は見落としがちです.
定義域まで考えられていない答案は大きく減点されるかもしれません.
2017年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問1】←今の記事
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問2】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問3】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問4】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問5】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問6】
問題
2017年京都大学前期入試の「理系数学の問1」は以下の通りです.
問題
$w$を0でない複素数,$x$, $y$を$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$を満たす実数とする.
- 実数$R$は$R>1$を満たす実数とする.$w$が絶対値$R$の複素数全体を動くとき,$xy$平面上の点$(x,y)$の軌跡を求めよ.
- 実数$\alpha$は$0<\alpha<\dfrac{\pi}{2}$を満たす実数とする.$w$が偏角$\alpha$の複素数全体を動くとき,$xy$平面上の点$(x,y)$の軌跡を求めよ.
「複素数」と「軌跡」の複合問題です.
しかし,やることは明確なので,定義域の考察が必要なことを落とさなければ,それほど難しくはないでしょう.
問題のイメージ
(1)も(2)も$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$のもとで考えていますが,違う点は
- (1)では$w$の絶対値$|w|$が与えられている
- (2)では$w$の偏角$\arg{w}$が与えられている
という点ですね.
例えば,(1)で$R=2$の場合を考えてみます.
$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$から
- $w=2$のときは$\dfrac{5}{2}=x+yi$なので,$(x,y)=\bra{\dfrac{5}{2},0}$.
- $w=2i$のときは$\dfrac{3}{2}i=x+yi$なので,$(x,y)=\bra{0,\dfrac{3}{2}}$.
- $w=\sqrt{2}+\sqrt{2}i$のときは$\dfrac{3\sqrt{2}}{2}+\dfrac{\sqrt{2}}{2}i=x+yi$なので,$(x,y)=\bra{\dfrac{3\sqrt{2}}{2},\dfrac{\sqrt{2}}{2}}$.
となります.
このように,$w$が絶対値$R$のまま変化すると,点$(x,y)$が変化します.このとき点$(x,y)$がどのような軌跡を描くのか,ということが問われているわけですね.
(2)は絶対値ではなく,偏角が$\alpha$と与えられていますが,動く曲線が異なるだけで考え方は同じですね.
解法と考え方
やることは明確で,ほとんど一本道です.
何を求めるか
まず,「何を問われているか」ということを確認しておきます.
問われていることは,点$(x,y)$の軌跡です.
点$(x,y)$の軌跡とは「$x$と$y$がどのような関係をもって$xy$平面上を動いているのか」ということですから,要するに$x$と$y$の関係式を求めれば良いわけですね.
さて,$x$と$y$の情報は$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$でしか与えられていないので,この式をどう扱うのかがポイントになります.
複素数が等しいとは
「複素数$\alpha$と$\beta$が等しい」の定義は「$\alpha$と$\beta$の実部どうし,虚部どうしが等しい」であったことを思い出しておきましょう.
$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$ですから,$w+\dfrac{1}{w}$の実部が$x$で,虚部が$y$であることになります.
よって,$w+\dfrac{1}{w}$の実部と虚部が分かれば,$x$と$y$が式で表せることになり,$x$と$y$の関係式が作れる可能性がありますね.
さて,$w$のままで実部と虚部を表すのは不可能ではないですが,式がややこしくなってしまいます.
そのため,$w$の実部と虚部を文字でおいてみようと考えます.
複素数の極形式
さて,いま$w$は(1)で絶対値$R$が与えられ,(2)で偏角$\theta$が与えられています.絶対値や偏角が分かっているときには,極形式で表す方法が便利なことを確認しておきましょう.
$w$の絶対値を$r$($0<r$),偏角を$\theta$とすると,$w=r(\cos\theta+i\sin\theta)$となりますね.
このとき,
であることに注意すると,
となります.よって,$w+\dfrac{1}{w}=x+yi$から
となります.
なお,極形式の積,逆数,商の計算については,以下の記事で詳しく説明しています.
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
$a+bi$ ($a$, $b$は実数)の形で複素数を考えていては,複素数の積,逆数,商の計算をする際には面倒な計算をすることになります.そこで,複素数を極形式に変形すると,複素数の積,逆数,商は瞬時に計算することができます.
軌跡を求める
$x$と$y$を実際に式で表すことができたので,ここから$x$と$y$の関係式を求めたいところです.
(1)では$r=R$と与えられていますから,
となります.
よって,この式の中から自分で勝手に決めたパラメータ$\theta$を消して,$x$と$y$の関係式を求めることができれば勝ちですね.
(2)では$\theta=\alpha$と与えられていますから,
となります.
よって,この式の中から自分で勝手に決めたパラメータ$r$を消して,$x$と$y$の関係式を求めることができれば勝ちですね.
その際,$x$の範囲,$y$の範囲に注意してください.
解答
以下,解答例です.
(1)の解答
(1) $w=R(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$とおける.ただし,$0\le\theta<2\pi$とする.
ド・モアブルの定理から
だから,$w+\frac{1}{w}=x+iy$より
となる$R$, $\cos\theta$, $\sin\theta$, $x$, $y$は実数だから,左辺の実部と虚部を比較して
を得る.よって,$(*)$と同値な$x$と$y$の関係式が求める軌跡である.
$R>1$から$R+\frac{1}{R}\neq0$, $R-\frac{1}{R}\neq0$なので,
となって,
が成り立つ.よって,$(*)$から楕円
が得られる.
逆に,$(**)$が成り立つとする.このとき,$0\le\theta<2\pi$なる実数$\theta$によって
と表せるから,$(*)$が得られる.すなわち,$(**)$ならば$(*)$が成り立つ.
以上より,$(*)\iff(**)$だから,求める軌跡は楕円$(**)$である.
(2)の解答
(2) $w=r(\cos\alpha+i\sin\alpha)$とおける.ただし,$0<r$とする.(1)と同様にして,
を得る.よって,$(\star)$と同値な$x$と$y$の関係式が求める軌跡である.
$0<\alpha<\frac{\pi}{2}$から$\cos\alpha\neq0$, $\sin\alpha\neq0$なので,
となって,
が成り立つ.よって,$(\star)$から双曲線
が得られる.また,相加平均と相乗平均の関係から,
だから,$x\ge2\cos\alpha\dots(\star\star\star)$である.すなわち,$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$が成り立つ.
逆に,$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$が成り立つとする.このとき,$\dfrac{y}{\sin\alpha}$は$y$を動かせば全ての実数を取り,また$r-\dfrac{1}{r}$も$r>0$を動かせば全ての実数を動かせば全ての実数を取るから,
とおける.よって,$(\star\star)$から
が成り立つ.$(\star\star\star)$より$\dfrac{x}{2\cos{\alpha}}>0$なので,
となるから,$(\star)$が得られる.すなわち,$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$ならば$(\star)$が成り立つ.
以上より,$(\star)$は「$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$」と同値だから,求める軌跡は双曲線$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$である.
解答の補足
「解法と考え方」のところで書かなかった部分について補足しておきます.
パラメータの消し方
(1)も(2)も$x$と$y$を$\theta$と$r$で表すところまでは特に問題はないと思います.
しかし,そこで「$r$や$\theta$をどのように消すのか」というところで詰まる人はいると思います.
(1)で$\cos\theta$と$\sin\theta$が出てきたときに,$1=\cos^2\theta+\sin^2\theta$を用いて$\theta$を消す方法としてよくあるので知っておくべきでしょう.
また,(2)では$r+\dfrac{1}{r}$と$r-\dfrac{1}{r}$は2乗することで,共に$r^2$の項と$\dfrac{1}{r^2}$の項のみとなり,
をが成り立ちます.このことも使うことがあるので,知っておくとよいでしょう.ただ,この方法は少しうまい方法なので気づかない人もいると思います.
その場合は,地道に$r$を消しても良いです.例えば,$\dfrac{x}{\cos\alpha}=r+\dfrac{1}{r}$と$\dfrac{y}{\sin\alpha}=r-\dfrac{1}{r}$の和と差を考えることで,
が得られ,ここから$r$を消しても同じく双曲線$(\star\star)$が得られます.
なんにせよ,(1)では「パラメータ$\theta$を消したい」,(2)では「パラメータ$r$を消したい」という意識は必ず持っていたいところです.
条件と軌跡の同値性
軌跡は「$x$と$y$の関係式を求めれば良い」と書きました.
詳しくは,「軌跡は『もともとの$x$と$y$と同値な』$x$と$y$の関係式を求める」ことになります.
(1)は単に$\theta$を消して求まる関係式$(**)$が,$(*)$と同値なのでそれでよかったのですが,(2)では単に$r$を消しても同値にはなりません.
(2)での$x$と$y$の式
から求まる軌跡は双曲線
の$x\ge2\cos\alpha\dots(\star\star\star)$の部分です.
双曲線$(\star\star)$は$x\ge2\cos\alpha(>0)$の部分の曲線と$x<-2\cos\alpha(<0)$の部分の曲線からできています.そのため,$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$とは,双曲線$(\star\star\star)$の$x>0$の部分ということになります.
つまり,$(\star)$で$\theta$を動かしてできる軌跡は,双曲線$(\star\star\star)$の一部にしかならないのです.
したがって,$(\star)$と$(\star\star)$とは同値ではなく,必ず$(\star\star\star)$が必要なのです.
逆の確認
「軌跡を求めよ」という問題では,「もともとの$x$と$y$と同値な$x$と$y$の関係式を求める」と書きました.
ですから,軌跡を求める問題では「もともとの$x$と$y$」と「$x$と$y$の関係式」が同値であることを確認して初めて完全な解答になります.
もし最初から最後まで全て同値で繋げていれば,もちろん最初と最後は同値なので,逆を確認する必要はありません.
しかし,上の解答では「もともとの$x$と$y$」から「$x$と$y$の関係式」を導きました.もしここで解答をやめていると,逆を確認していないので同値性がまだ言えていないので,減点の対象となります.
つまり,$P\iff Q$が欲しいのに,$R\Ra Q$しか示していないことになっています.
ですから,逆が成り立つ,すなわち「確かに$Q\Ra R$も成り立つ」ということを最後に示しているのです.
ただ,私の解答例ほどきっちり示す必要があるのかどうかは分かりません.採点官の裁量によると思います.
ただ,(1)では「逆に,軌跡が$(**)$なら,$(*)$が得られる.」を,(2)では「逆に,軌跡が$(\star\star)$かつ$(\star\star\star)$なら,$(\star)$が得られる.」程度の記述は少なくとも必要でしょう.
なお,(2)では双曲線$(\star\star\star)$だけから,もともとの$x$と$y$の式$(\star)$を導くことはできません.
例えば,$x$の符号を逆にした
も双曲線の式に当てはまってしまいます.
しかし,$x\ge2\cos\alpha\dots(\star\star\star)$があることによって,$(\star)’$は$x$が負なので不適であることが分かります.
(2)の解答において,逆の確認の時に
で2乗を外していますが,条件$(\star\star\star)$によって$(\star)’$はあり得ず$(\star)$が成り立つわけです.
このように,式としても条件$(\star\star\star)$がなくてはならないことが分かりますね.
なお,$(\star)’$の軌跡も同様に求めることができ,$(\star)’$の軌跡は双曲線$(\star\star)$の$x<0$となります.
複素数のまま考えると
複素数ままの計算で(1)が楕円になること,(2)が双曲線になることは確認できます.なかなか思い付かない方法なので,この計算は観賞用として複素数の考え方の一つの参考にしてください.
や
のように,和も差も分子が2乘になるという意味で,「$w+\dfrac{1}{w}$と2の相性が良い」ことがポイントとなります.
なお,以下では逆の確認をしていないので,解答にするには逆の確認をする必要がありますが,逆の確認は面倒なので解答としてはあまりオススメしません.
(1)の楕円の導出
$z=x+iy$とおく.$w+\dfrac{1}{w}=x+iy$と$|w|=R$から
を満たす.よって,複素数平面上の$z$の軌跡は$\pm2$を焦点とし,$z$と焦点それぞれとの距離の和が$2\bra{R+\dfrac{1}{R}}$であるような楕円となる.
複素平面上の$z=x+iy$と,$xy$平面上の点$(x,y)$は同一視できるので,点$(x,y)$の軌跡は$(\pm2,0)$を焦点とし,点$(x,y)$と焦点それぞれとの距離の和が$2\bra{R+\dfrac{1}{R}}$であるような楕円となる.
すなわち,
となる.
(2)の双曲線の導出
$z=x+iy$とおく.$w+\dfrac{1}{w}=x+iy$と$\dfrac{\operatorname{Re}{w}}{|w|}=\cos{\alpha}$から
を満たす.よって,複素数平面上の$z$の軌跡は$\pm2$を焦点とし,$z$と焦点それぞれとの距離の差が$4\cos\alpha$であるような双曲線の実部が正の部分となる.
(実部が負の部分の双曲線は$-|z+2|+|z-2|=4\cos\alpha$によって,双曲線全体は$\big||z+2|-|z-2|\big|=4\cos\alpha$によって表される.)
複素平面上の$z=x+iy$と,$xy$平面上の点$(x,y)$は同一視できるので,点$(x,y)$の軌跡は$(\pm2,0)$を焦点とし,点$(x,y)$と焦点それぞれとの距離の和が$2\bra{R+\dfrac{1}{R}}$であるような楕円となる.
すなわち,
となる.
【次問の解説:解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問2】
コメント