この記事では,2017年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問3」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは
- 「加法定理」と「2倍角の公式」を正しく用いることができるか.
- 不定方程式のよくある考え方がきちんと適用できるか.
です.
$\tan$の加法定理と2倍角の公式は正しく使えてほしいところです.
そのあとは不定方程式に帰着します.少し見た目は複雑ですが,怯まずによくある考え方をしっかり適用できるかが鍵になります.
2017年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問1】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問2】
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【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問6】
目次
問題
2017年京都大学前期入試の「理系数学の問3」は以下の通りです.
問題
$p$, $q$を自然数,$\alpha,\beta$を
を満たす実数とする.このとき,
を満たす$p$, $q$の組$(p,q)$をすべて求めよ.
三角関数が絡んでいますが,加法定理を用いることで整数問題となります.
問題のイメージ
$\sin(\theta+\phi)$や$\cos(\theta+\phi)$や$\tan(\theta+\phi)$といった形は加法定理で,$\theta$と$\phi$の三角関数で表せることを用いるのが定石ですね.
とくに,この問題は$\tan{\alpha}$と$\tan{\beta}$に関する条件があるので,加法定理を用いることは自然に思い付きたいところです.
$\tan(\alpha+2\beta)$を加法定理で$\tan{\alpha}$と$\tan{\beta}$に書き直すと,整数$p$と$q$の関係式になるので,整数問題に帰着します.
整数問題のよくあるパターンとして,
- 因数分解と素因数分解を用いる
- 余りを用いる
- 取りうる値の範囲を絞る
は意識しておいてよいでしょう.
解法と考え方1
整数問題に帰着するまでは,パッとできてほしいところです.
加法定理と2倍角の公式
$\tan$の加法定理が
であることは確実にしておきましょう.ただ,$\tan$の加法定理は$\tan\theta\tan\phi=1$の場合には分母が0になってしまうため,使うことができないことに注意してください.
$\tan(\alpha+2\beta)$に加法定理を用いると$\tan2\beta$が出てくるので,この$\tan2\beta$を$\tan\beta$で表す必要があります.
これは加法定理で$\theta=\phi$とおくことで,2倍角の公式
が得られ,これを用います.2倍角の公式も$\tan^2\theta=1$の場合には分母が0になってしまい,使うことができません.
加法定理は三角関数の公式の中でも,中心的な存在です.加法定理を用いると,2倍角の公式,3倍角の公式,半角の公式,積和の公式,和積の公式を示すことができます.この記事では,加法定理を中心としてこれらの公式をまとめます.
因数分解と素因数分解を用いる
$\tan$を全て$p$と$q$で置き換えると,$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)\dots(*)$となります.
不定方程式の整数解を考えるとき,「因数分解と素因数分解を用いる方法」はよく用いられます.
例えば,$0=3p+4q+2pq\dots(\star)$のような不定方程式は素因数分解を用いることで整数解が求まる典型的な例ですね.実際,$(\star)$を$6=(p+2)(2q+3)$と変形することで,$p+2$と$2q+3$は6の素因数となり,
となります.このうち,$p$と$q$が整数となるものが不定方程式$(\star)$の整数解です.
このように,部分的に因数分解をして,残りが単項になっていれば約数の議論が使えるわけですね.
さて,$(*)$を見ると,右辺$q^2-q-1$と左辺の$q^2+4q-1$は2次の項と定数項が同じですから,左辺の$q^2+4q-1$を$q^2-q-1$と$5q$に分解することで,$(*)$は$5q=(2p-1)(q^2-q-1)$となります.
これは$6=(p+2)(2q+3)$と似た状況になっています.
候補を減らす
「因数分解と素因数分解を用いる方法」では,全てのパターンを考えるのは非常に大変なことも少なくありません.
例えば,上で挙げた例$0=3p+4q+2pq\dots(\star)$の整数解の候補は
ですが,これを全て計算して$p$と$q$を求めるのは面倒ですね.
そこで,あり得ない候補を最初から消すことができることもあります.この$(\star)$の場合,$2q+3$は「偶数と奇数の和」なので,奇数ですから$\pm6$や$\pm2$にはなり得ません.
よって,ありうる候補は
とずいぶん減りますね.
さて,$(*)\iff5q=(2p-1)(q^2-q-1)$でも,候補を絞ることを考えます.ここで,以下が成り立つことは当たり前にしておきましょう.
連続する2自然数は互いに素である.
例えば
- 2と3は互いに素
- 6と7は互いに素
ですね.証明は次のように簡単です.
[証明]
背理法により示す.
すなわち,任意の連続する2整数$n$と$n+1$の共通素因数$r(\ge2)$が存在すると仮定して,矛盾を導く.
このとき,仮定から$r$は$(n+1)-n$を割り切るが,$(n+1)-n=1$だから2以上である$r$が1を割り切ることになり矛盾する.
よって,仮定は誤りで$n$と$n+1$は互いに素である.
[証明終]
このことは,念のため答案の中で証明しておくのが無難でしょう.
同様に考えれば,「任意の自然数$n$に対して,$n$と『($n$の倍数)$\pm1$』は互いに素である」も証明できます.
このことを用いると,$q$と$q^2-q-1$は互いに素なので,$q$は$2p-1$を割り切るしかありません.
したがって,$2p-1=\pm q,\pm5q$に限られます.
解答
まず,$q\neq1$であることを背理法により示す.すなわち,$q=1$と仮定して矛盾を導く.
このとき,$1=\dfrac{1}{q}=\tan\beta$だから,$\beta=\dfrac{\pi}{4}+n\pi$と表せる($n$は整数).よって,
であるが,これは$0<p$に矛盾する.したがって,仮定は誤りで$q\neq1$である.
よって,$q\neq1$で考えれば十分である.$q$は整数だから,$q\ge2$である.
このとき,$\tan\beta=\dfrac{1}{q}$, $q\neq\pm1$より$\tan^2\beta\neq1$だから,2倍角の公式より,
が成り立つ.
ここで,$q=2$のときは
である.
さらに,$f(q)=q^2-2q-1$とすると,$f(q)=(q-1)^2-2$だから$q\ge2$において単調増加かつ$f(3)=2$だから,$q\ge3$のときは
だから,
となって$\tan{\alpha}\tan{2\beta}\neq1$である.
よって,加法定理より,
となる.$\tan(\alpha+2\beta)=2$より,
となる.よって,求めたい組は$(*)$の整数解$(p,q)$である.
ここで,$q$と$q^2-q-1$の共通素因数$r(\ge2)$が存在すると仮定する.
このとき,$q’=q^2-q-1$とおくと,仮定から$r$は$q’$を割り切るので$q^2-q-q’$を割り切るが,$q^2-q-q’=1$だから2以上である$r$が1を割り切ることになり矛盾する.
よって,仮定は誤りで$q$と$q^2-q-1$は互いに素である.
したがって,$(*)$から
である.
[1] $q^2-q-1=5$のとき
だから,$q\ge2$より$q=3$である.このとき,$2p-1=q\iff p=2$となって適する.
[2] $q^2-q-1=-5$のとき
となって,$q$は実数にならないから不適である.
[3] $q^2-q-1=1$のとき
だから,$q\ge2$より$q=2$である.このとき,$2p-1=5q$より$p=\frac{11}{2}$となって$p$は整数にならないから不適である.
[4] $q^2-q-1=-1$のとき
となって,$q$は実数にならないから不適である.以上より,求める組は$(p,q)=(2,3)$である.
解答の補足
「解法と考え方」のところで書かなかった部分について補足しておきます.
加法定理と2倍角の公式
$\tan$の2倍角の公式や加法定理では,分母が0にならないように注意しなければならないことは「解法と考え方」で書きました.
$\tan2\beta$に2倍角の公式を用いたときの分母$1-\tan^2\beta$が0になってはいけません.
$1-\tan^2\beta=0\iff q=\pm1$なので,$q=\pm1$の場合には2倍角の公式が使えません.もともと$q>0$なので$q=1$だけを別に考えているわけですね.
同様に,$\tan(\alpha+2\beta)$に加法定理を用いたときも同様で,分母$1-\tan\alpha\tan2\beta$が0になってはいけません.すなわち,
が0になってはいけません.
イメージとしては,$q$が十分大きければ$\dfrac{2q}{p(q^2-1)}$の分母の方が大きくなるので,
になるだろうという考え方です.
ですから,$q$が小さいとき(2に近いとき)は$\dfrac{2q}{p(q^2-1)}$が1になる可能性があります.実際には,$p\ge1$から
ですから,$q$が3以上では1未満となって$0<1-\dfrac{2q}{p(q^2-1)}<1$が満たされるので,後の問題は$q=2$のときです.
そのため,$q=2$のときは別に考えて,$1-\dfrac{2q}{p(q^2-1)}\neq0$を導いています.
この問題では,たまたま$1-\tan\alpha\tan2\beta$が0になることはありませんでしたが,もし$1-\tan\alpha\tan2\beta$が0になることがあれば$q=1$のときと同じく加法定理は使えないので,別に考える必要があります.
次数の小さい文字に注目する
加法定理を用いて$\tan(\alpha+2\beta)=2$を単純に書き直すと,
となり,ここから部分的な因数分解を目指すわけですが,そもそも$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)$の形に式変形できなければ,「$q^2+4q-1$と$q^2-q-1$が似てるぞ」ともならず,因数分解が見えません.
因数分解を考えるときには,「次数の小さな文字に関してまとめる」が有効なことが多いことは意識しておきましょう.
これを意識すると,分母を払った$q^2-1+2pq=2(pq^2-p-2q)$を見てみると,次数の最も小さい文字は$p$ですね.そのため,$p$についてまとめると,$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)$となります.
解法と考え方2
2倍角の公式と加法定理を用いるところまでは同じで,不定方程式$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)$は次のように考えることもできます.
取りうる値の範囲を絞る
不定方程式は「因数分解と素因数分解を用いる方法」の他に「取りうる値の範囲を絞る方法」もよく用いられます.
$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)$は$p$について1次方程式ですから,$p$については
と簡単に解くことができます.これは「(2次式)/(2次式)」ですから,
と変形できます.よって,両辺に2をかけて
となります.このとき,$2p$と1は整数なので,$\dfrac{5q}{q^2-q-1}$も整数でなければなりません.
「解答1の補足」でも書いたように,$\dfrac{5q}{q^2-q-1}$は$q$が大きければ1未満となるので,整数ではなくなります.これから,$q$の候補が絞られます.
このように,分母を全て払ってしまうのではなく,部分的に残すことで範囲を絞る方法もよくあるので知っておいて良いでしょう.
解答
$q^2+4q-1=2p(q^2-q-1)$を導出するまでは同じ.これより,
である.よって,
である.左辺は整数だから,右辺も整数である.
$p\ge1$より$2p-1\ge1>0$だから,$\dfrac{5q}{q^2-q-1}>0$なので,$\dfrac{5q}{q^2-q-1}\ge1$となる.
である.$3<\sqrt{10}<4$だから,$q=2,3,4,5,6$に限られる.
[1] $q=2$のとき,
$\dfrac{5q}{q^2-q-1}=10$より,$2p-1=10\iff p=\dfrac{11}{2}$となって$p$は整数でないから不適.
[2] $q=3$のとき,
$\dfrac{5q}{q^2-q-1}=3$より,$2p-1=3\iff p=2$となって適する.
[3] $q=4$のとき,
$\dfrac{5q}{q^2-q-1}=\dfrac{20}{11}$より,$2p-1=\dfrac{20}{11}\iff p=\dfrac{31}{22}$となって$p$は整数でないから不適.
[4] $q=5$のとき,
$\dfrac{5q}{q^2-q-1}=\dfrac{25}{19}$より,$2p-1=\dfrac{25}{19}\iff p=\dfrac{22}{19}$となって$p$は整数でないから不適.
[5] $q=6$のとき,
$\dfrac{5q}{q^2-q-1}=\dfrac{30}{29}$より,$2p-1=\dfrac{30}{29}\iff p=\dfrac{59}{58}$となって$p$は整数でないから不適.
以上より,求める組は$(p,q)=(2,3)$である.
【関連記事:解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問4】
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