この記事では,2018年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問2」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 具体的な$n$で実験して性質に気付けるか
- 実験して気付いた規則性を証明できるか
です.
普段から,このような問題で実験する習慣が身についていれば,さほど難しい問題ではないでしょう.
2018年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問1】
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問題
2018年京都大学前期入試の「理系数学の問2」は以下の通りです.
$n^{3}-7n+9$が素数となるような整数$n$を全て求めよ.
整数問題です.
このような問題では,具体的にどのような状況なのか,実際にいろんな$n$を代入して性質を調べたいところです.
具体的な整数$n$で実験すると
- $n=-2$のとき,$n^{3}-7n+9=15$
- $n=-1$のとき,$n^{3}-7n+9=15$
- $n=0$のとき,$n^{3}-7n+9=9$
- $n=1$のとき,$n^{3}-7n+9=3$
- $n=2$のとき,$n^{3}-7n+9=3$
となります.
このように,具体的に整数$n$を代入して考えると,$n=1,2$で条件を満たすことが分かります.
しかし,$n^{3}-7n+9$は3次式なので,$n$が大きくなると$n^{3}-7n+9$が大きくなり,素数になることは少なそうです.
また,$n$が小さくなると$n^{3}-7n+9$が負となり,この場合にも素数とはならなさそうです.
解法と考え方
上のように実験できていれば,性質に気付くでしょう.
実験する
数学では実験が非常に重要です.抽象的な問題を考えるとき,考え方まで抽象的になる必要は全くありません.
抽象的なら,分かりやすいところまで,具体的にすればよいのです.
抽象的でよく分からない問題も,具体的に見直すことでいろんな性質が見えてくることは多いです.
本問では,$n$は整数ですから,$n$に具体的な整数を代入してどのような法則があるか観察します.
本問も実際に$n$に整数を代入してみると,全て3の倍数であることに気付きますね.
3の倍数であることの証明
実験から,「任意の整数$n$に対して,$n^{3}-7n+9$が3の倍数になっているのではないか」と予想できるので,これを実際に示す方法を考えます.
3の倍数であることを証明するためには,3を法として$n^{3}-7n+9\equiv0$となることを示せば良いですね.
合同式を知らない人も,$n=3k$, $n=3k+1$, $n=3k-1$ ($k$は整数)などと場合分けして考え,いずれも3の倍数になることを示せます.
これが証明できれば,$n^{3}-7n+9$が素数となるのは$n^{3}-7n+9=3$となるときに限るので,この$n$の方程式$n^{3}-7n+9=3$を解くことで,$n^{3}-7n+9$が素数となるような整数$n$が全て求まりますね.
解答
以下,解答例です.
[解答]
3を法とすると,
- $n\equiv-1$のとき,
- $n\equiv0$のとき,
- $n\equiv1$のとき,
となるから,任意の自然数$n$に対して$n^{3}-7n+9$は3の倍数である.
よって,$n^{3}-7n+9$が素数となるなら,$n^{3}-7n+9=3$となるしかない.
だから,求める整数$n$は$-3,1,2$である.
3の倍数であることの別証明
$n^{3}-7n+9$が3の倍数であることを示す際には,
- 因数分解して,連続3整数の積は3の倍数であることを用いる
- $n=3k$, $n=3k+1$, $n=3k-1$ ($k$は整数)の場合に分ける
を用いても示すことができる.
ただし,後者は合同式と本質的には同じである.
連続3整数の積
$N$個の連続する整数の積について,以下の性質は知っておきたいところです.
$N$個の連続する自然数の積は$N!$の倍数である.
$N$個の連続自然数の中には,必ず$N$の倍数が存在するので,$N$個の連続自然数の積は$N$の倍数であることは簡単に分かります.
実は$N$の倍数よりも強く,$N!$の倍数とまでいうことができるのがこの定理です.
ただし,「$N$以下の任意の自然数$n$に対して,連続$N$自然数の積は$n$の倍数だから,連続$N$自然数の積は$n$の倍数である.」とするのは間違いです.
これでは,「連続$N$自然数の積は$n$の倍数」→「連続$N$自然数の積は$n$の倍数」の間にギャップがあります.
というのは,$N$個の連続自然数の中の$1,2\dots,N$の倍数が,別々にとれることが言えればよいのですが,残念ながらこれだけでは言えていないからです.
そこで,次が正しい証明です.
[証明]
連続$N$整数の積$k(k-1)(k-2)\dots(k-N+1)$ ($k\geqq N$)が$N!$の倍数であることを示す.
組み合わせ$\Co{k}{N}$は
だから,分母を払って$\Co{k}{N}\cdot N!=k(k-1)(k-2)\dots(k-N+1)$である.
$\Co{k}{N}$は整数だから,$k(k-1)(k-2)\dots(k-N+1)$は$N!$の倍数である.
[証明終]
これを用いれば,
で,$n-1$, $n$, $n+1$は連続3整数だから,第1項$(n-1)n(n+1)$は3の倍数となります.
また,第2項$3(-2n+3)$も3の倍数だから,結局$n^{3}-7n+9$も3の倍数となります.
場合分け
合同式を用いた解法と本質は同じですが,$n$を3で割った余りで場合分けしてもよいでしょう.
つまり,$n=3k$, $n=3k+1$, $n=3k-1$ ($k$は整数)の場合に分けて考えます.
[1] $n=3k$のとき,
だから,$n^{3}-7n+9$は3の倍数です.
[2] $n=3k+1$のとき,
だから,$n^{3}-7n+9$は3の倍数です.
[3] $n=3k-1$のとき,
だから,$n^{3}-7n+9$は3の倍数です.
合同式の方が圧倒的にスッキリしていますね.
合同式の議論も場合分けの議論も本質的には同じことですし,是非とも合同式を身につけてください.
【問3の解説:解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問3】
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