この記事では,2018年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問4」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 複素数上の点の移動を理解できているか
- 確率漸化式を立式できるか
です.
複素数の部分は基本的な考え方で十分なので,確率漸化式に慣れていればそれほど難しくない問題でしょう.
とくに京都大学では確率漸化式の問題は頻出なので,確実に流れを掴んでおいてください.
2018年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問1】
【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問2】
【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問3】
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【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問5】
【解答例と考え方|2018年度|京都大学|理系数学問6】
問題
2018年京都大学前期入試の「理系数学の問4」は以下の通りです.
コインを$n$回投げて複素数$z_{1}$, $z_{2}$, $\dots$, $z_{n}$を次のように定める.
(i) 1回目に表が出れば$z_{1}=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}$とし,裏が出れば$z_{1}=1$とする.
(ii) $k=2$, 3, $\dots$, $n$のとき,$k$回目に表が出れば$z_{k}=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}z_{k-1}$とし,裏が出れば$z_{k}=\overline{z_{k-1}}$とする.ただし,$\overline{z_{k-1}}$は$z_{k-1}$の共役複素数である.
このとき,$z_{n}=1$となる確率を求めよ.
確率と複素数の複合問題ですが,メインは確率です.
$\alpha=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}$を極形式で表すと
なので,$\alpha$をかけることで複素平面上の点の原点中心$\dfrac{2\pi}{3}$回転が起こります.
また,コインが裏のときは共役複素数を考えるので,これも複素平面上の点の実軸に関する対称移動に相当しますね.
よって,$z_k$は複素平面上の3点を移ることが分かります.
また,この点の移動がコインの表裏で動き方が変わります.具体的には,
- $z_k$が上図のAにいるときに表が出ればBに移り,裏が出ればAに留まる.
- $z_k$が上図のBにいるときに表が出ればCに移り,裏が出てもCに移る.
- $z_k$が上図のCにいるときに表が出ればBに移り,裏が出ればAに移る.
となりますね.
解法と考え方
複素数をかけたり,複素共役をとることを複素平面上の移動で考えるのは基本です.
また,確率漸化式という発想もこの手の問題では常套手段です.
複素平面上の移動
複素平面上において,複素数$z$が点Aを表すとする.このとき,複素数
は点Aを原点中心で偏角$\theta$回転させ,原点中心に$r$倍した点を表す.
本問では,コインが表の時に$\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}$をかけるわけですが,これは
と極形式に変形できるので,単なる$\dfrac{2\pi}{3}$回転ですね.
よって,3回$\cos{\dfrac{2\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{2\pi}{3}}$をかければ,元の複素数に戻ります.
また,互いに共役な複素数$z$と$\bar{z}$は虚部の符号が逆になっているだけですから,複素平面上では実軸に関して対称な位置にあることになります.
確率漸化式
$z_k$は$z_{k-1}$から帰納的に定まります.このように,帰納的に状況が定まる問題では確率漸化式の考え方を用いるのが定石です.
本問では,$z_k$が複素平面上の3点を動くので,$z_k$の位置で確率$P_k$, $Q_k$, $R_k$を定め,これらの漸化式を作り解くという方針が思い付きます.
多くの場合,この漸化式は$z_k$がある位置によって1つずつ場合分けして考えれば得られ,本問もその例外ではありません.
また,確率漸化式を考える際には「全ての確率の和が1」という情報は基本的ですが非常に便利なことが多く,また忘れられがちなのでしっかり意識しておきたいところです.
解答例
$\alpha=\dfrac{-1+\sqrt{3}i}{2}$とすると,
だから,コインが表なら$z_{k}$は$z_{k-1}$が表す複素平面上の点を原点0中心に反時計回りに$\dfrac{2\pi}{3}$回転させた点を表す複素数である.
一方,コインが裏なら$z_{k}$は$z_{k-1}$が表す複素平面上の点を実軸に関して対称移動させた点を表す複素数である.
よって,$k=1,2,\dots,n$に対して,$z_{k}$は$1(=\alpha^{0})$, $\alpha$, $\alpha^{2}$のいずれかに一致する.
ここで,$k=1,2,\dots,n$に対して,$z_{k}=1,\alpha,\alpha^{2}$となる確率をそれぞれ$P_{k}$, $Q_{k}$, $R_{k}$とする.
表が出て$z_{k+1}$が定まる場合と裏が出て$z_{k+1}$が定まる場合を考えれば,
が成り立つ.
式$(*)$と,自明な等式$P_{k}+Q_{k}+R_{k}=1$を併せて,
を得る.
ここで,式$(*)$, $(\star)$から,$k=1,2,\dots,n$に対して$P_{k}=Q_{k}$が成り立ち,また$P_{1}=\dfrac{1}{2}=Q_{1}$も成り立つ.
以上より,
を得る.
繰り返しになりますが,帰納的に状況が定まる問題では確率漸化式は定石です.
確率漸化式の流れにしっかり慣れておけば,本問のように比較的簡単に解けることも多いです.
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