この記事では,2019年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問2」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 具体的な$n$で実験して性質に気付けるか
- 実験して気付いた規則性を証明できるか
です.
普段から,このような問題で実験する習慣が身についていれば,方針を立てることはさほど難しくないでしょう.
2019年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問1】
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問題
2019年京都大学前期入試の「理系数学の問2」は以下の通りです.
$f(x)=x^3+2x^2+2$とする.$|f(n)|$と$|f(n+1)|$がともに素数となる整数$n$をすべて求めよ.
整数問題です.本問のような問題では,具体的に数を当てはめてず「実験」をして,様子をみてみましょう.
いくつか具体的に考えると,
- $|f(-4)|=|(-4)^3+2\cdot(-4)^2+2|=30$
- $|f(-3)|=|(-3)^3+2\cdot(-3)^2+2|=7$
- $|f(-2)|=|(-2)^3+2\cdot(-2)^2+2|=2$
- $|f(-1)|=|(-1)^3+2\cdot(-1)^2+2|=3$
- $|f(0)|=|0^3+2\cdot0^2+2|=2$
- $|f(1)|=|1^3+2\cdot1^2+2|=5$
- $|f(2)|=|2^3+2\cdot2^2+2|=18$
- $|f(3)|=|3^3+2\cdot3^2+2|=47$
- $|f(4)|=|4^3+2\cdot4^2+2|=98$
となり,偶数と奇数が交互に現れる様子が見てとれます.
このように具体的に考えられる問題では,実験して考えることはとても重要です.問題が抽象的であっても,それに合わせる必要はありません.
整数問題など具体的に考えられる問題では,具体的に実験することで性質が見えることはとてもよくあります.
なお,京都大学ではこの手の問題は頻出で,実際にこの前年にも類問が出題されています.
解法と考え方
偶奇が交互に現れることをどう示すかがポイントです.
周期で場合分け
上で見た実験から,偶数と奇数が交互に繰り返しそうなので,この周期2で$n$を場合分けしましょう.
2を法として
- $n\equiv0$のとき,$f(n)\equiv0$
- $n\equiv1$のとき,$f(n)\equiv1$
となるので,確かに
- $n$が偶数のときに$f(n)$は偶数
- $n$が奇数のときに$f(n)$は奇数
と分かりました.
よって,$|f(n)|$と$|f(n+1)|$が同時に素数となるには,一方が2(偶数の素数)になる必要があります.
合同式が分からない場合は,単純に整数$k$を用いて
- $n=2k$のとき
- $n=2k+1$のとき
と場合分けすればよい.
有理数解の候補
したがって,$|f(n)|=2$を満たす$n$を求め,それらが条件を満たすか個別に考えればよい.
ここで,$|f(n)|=2$は「$f(n)=2$または$f(n)=-2$」なので,この2つの$n$に関する方程式を解けばよい.
その際,$f(n)=2$は容易に因数分解できるが,$f(n)=-2$は$n^3+2n^2+4=0$となって因数分解できない.
ここで,整数係数の$n$次方程式の有理数解について,次が成り立つことは知っておくとよい.
整数係数$n$次方程式$a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0=0$が有理数解$\dfrac{q}{p}$ ($p$と$q$は互いに素な整数,$p\neq0$)をもつとき,
- $p$は$a_n$の約数
- $q$は$a_0$の約数
である.
[証明]
有理数解を方程式に代入すると,
となる.左辺は$p$の倍数だから,右辺$-a_nq^n$は$p$の倍数である.いま,$p$と$q$は互いに素だったから,$a_n$は$p$の倍数である.すなわち,$p$は$a_n$の約数である.
また,
となる.左辺は$q$の倍数だから,右辺$-a_0p^n$は$q$の倍数である.いま,$p$と$q$は互いに素だったから,$a_0$は$q$の倍数である.すなわち,$q$は$a_0$の約数である.
[証明終]
例えば,$x$の2次方程式$6x^2+11x-10=0$は
と解ける.さて,解$\dfrac{2}{3}$について
- 分母の3は$6x^2+11x-10=0$の2次の係数6に由来し,
- 分子の2は$6x^2+11x-10=0$の定数項-10に由来する.
これを知っていれば,整数係数の$n$次方程式の有理数解の候補をかなり絞ることができる.
さて,先ほどの$n^3+2n^2+4=0$が整数解(有理数解)をもてば,定理より$n=\pm1,\pm2$に限ることになる.
しかし,これらはいずれも$n^3+2n^2+4=0$を満たさないので不敵となる.
この定理を何も言わずに使うのは怖いので,解答の中では適当な説明を書いた方がよい.
解答
以下,解答例です.
[解答]
2を法とすると,
- $n\equiv0$のとき
- $n\equiv1$のとき
である.よって,$|f(n)|$は$n$が1増加するごとに偶奇が交互に現れる.
偶数の素数は2に限るから,$|f(n)|$と$|f(n+1)|$がともに素数となるとき,一方は2でなければならない.
ここで,整数$n$が$|f(n)|=2$を満たすとき,$f(n)=\pm2$である.$f(n)=2$のとき,
である.また,$f(n)=-2$のとき,
なので,$n^2$は4の約数だから$n=\pm1,\pm2$である.加えて,$n^2(n+2)=-4<0$より$n+2<0\iff n<-2$となるから,$f(n)=-2$を満たす整数$n$は存在しない.
以上より,$|f(n)|=2$を満たす整数$n$は$n=0,-2$である.
- $|f(-3)|=|(-3)^3+2\cdot(-3)^2+2|=7$
- $|f(-1)|=|(-1)^3+2\cdot(-1)^2+2|=3$
- $|f(1)|=|1^3+2\cdot1^2+2|=5$
はいずれも素数だから,$|f(n)|$と$|f(n+1)|$がともに素数となる整数$n$は$n=-3,-2,-1,0$である.
[解答終]
【次問の解説:解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問3】
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