この記事では,2019年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問6」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 複素数の$n$乗を計算できるか
- 必要条件から求めるという発想ができるか
です.
必要な知識は基本的なものばかりですが,必要条件から求める$n$がどのあたりか「アタリ」をつけて泥臭く考える問題なので,試験場では敬遠しがちな問題かもしれません.
2019年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問1】
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問2】
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問3】
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問4】
【解答例と考え方|2019年度|京都大学|理系数学問5】
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問題
2019年京都大学前期入試の「理系数学の問6」は以下の通りです.
問題
$i$は虚数単位とする.$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$をみたす最小の正の整数$n$を求めよ.
(※問題用紙で,小数第5位を四捨五入した,小数第4位までの常用対数表が与えられている)
複素数が含まれていますが,メインは桁数を求める問題です.
$1+i$と$1-i$は互いに複素共役なので,任意の正の整数$n$に対して$(1+i)^n$と$(1-i)^n$も互いに複素共役となります.
そのため,$(1+i)^n+(1-i)^n$は実数となり,これが$10^{10}$より大きくなるような最小の$n$を求める問題です.
また,$|1+i|=|1-i|=\sqrt{2}$なので,ド・モアブルの定理から$|(1+i)^n|=|(1-i)^n|=2^{n/2}$ですから,だいたい
となる$n$あたりに求める$n$がありそうですね.
解法と考え方
複素数に指数・対数と使う知識はいくつかありますが,どれも基本的なものです.
ド・モアブルの定理
複素数の$n$乗は[ド・モアブルの定理]を使うのが定石ですね.
[ド・モアブルの定理] 複素数$z$を極形式で表して$z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$となるとき,任意の整数$n$に対して
が成り立つ.
ド・モアブルの定理を使うと,
なので,
が成り立ちますね.
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
[極形式の積]の公式を理解していれば,[ド・モアブルの定理]は当たり前に成り立つことが分かります.この記事では,極形式の計算として重要な[極形式の積],[極形式の逆数],[極形式の商]の公式から[ド・モアブルの定理]を説明しています.
概算
本問のように「〜を満たす最小の$n$を求める」といった問題では,概算で考えることは大切です.
いま考えたことから,与えられた条件は
であり,$\cos{\dfrac{n\pi}{4}}\le1$ですから,少なくとも
を満たしている必要があります.この式を変形すると,
となるので,$\dfrac{20}{\log_{10}{2}}-2$の概数を求めることにより,$n$の必要条件が得られるわけですね.
あとはゴリゴリと必要条件を満たす$n$を代入して確かめていけば,答えが得られます.
解答
以下,解答例です.
[解答]
ド・モアブルの定理を用いると,
となる.$\cos{\dfrac{n\pi}{4}}\le1$だから,$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$となるためには,
が必要である.
常用対数表より,$\log_{10}{2}$を小数第5位で四捨五入すると0.3010となるから,
である.計算により
だから,
が成り立つ.よって,$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$となるためには,$n\geqq65$が必要である.
$n=65$のとき,
なので,$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$を満たさない.
$66\leqq n\leqq70$のとき,$\cos{\frac{65\pi}{4}}\leqq0$なので,$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$を満たさない.
$n=71$のとき,
なので,$(1+i)^n+(1-i)^n>10^{10}$を満たす.
以上より,求める最小の$n$は$n=71$である.
[解答終]
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