この記事では,2021年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問6」の考え方と解法を説明します.
この問6は2問の小問からなり,そのうちの1問目のポイントは
- $x^n-y^n$の因数分解が見えるか
で,2問目のポイントは
- 平均値の定理の形が見えるか
です.
2問目はなまじ図形が見えてしまうと,場合分けが見えて手をつけにくかったかもしれません.「同じ形の差」に注目するのがポイントです.
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問題
2021年度京都大学前期入試の「理系数学の問6」は以下の通りです.
次の各問に答えよ.
問1 $n$を$2$以上の整数とする.$3^{n}-2^{n}$が素数ならば$n$も素数であることを示せ.
問2 $a$を$1$より大きい定数とする.微分可能な関数$f(x)$が$f(a)=af(1)$を満たすとき,曲線$y=f(x)$の接線で原点$(0,0)$を通るものが存在することを示せ.
問1は例えば
- $n=2$なら$3^n-2^n=5$は素数 → 確かにこのとき$n=2$は素数
- $n=3$なら$3^n-2^n=19$は素数 → 確かにこのとき$n=3$は素数
- $n=4$なら$3^n-2^n=65$は非素数 → どうでもよい
- $n=5$なら$3^n-2^n=211$は素数 → 確かにこのとき$n=5$は素数
- $n=6$なら$3^n-2^n=665$は非素数 → どうでもよい
- $n=7$なら$3^n-2^n=2059(=29\times71)$は非素数 → どうでもよい
というように,$n=2,3,\dots$と$3^n-2^n$を計算していって,$3^n-2^n$が素数なら$n$も素数であることを示す問題ですね.
問2は$f(a)=af(1)$という条件は$1:f(1)=a:f(a)$と同値なので,曲線$y=f(x)$上の2点$(1,f(1))$, $(a,f(a))$を結ぶ直線が原点を通りますね.
微分可能な関数$f(x)$のグラフ$y=f(x)$がこのような2点を通りさえすれば必ずどこかの接線が原点を通ることを示せ,という問題ですね.
曲線$y=f(x)$の$x=t$での接線は
ですから,問2では$tf(t)-f'(t)=0$となる実数$t$が存在することを示せば良いですね.
考え方
問1は解きたいところですが,問2は存在証明なので平均値の定理か中間値の定理を使うことは思い付いても,使い方が分からなかった人も少なくないかもしれません.
$x^n-y^n$の因数分解
因数分解
- $x^2-y^2=(x-y)(x+y)$
- $x^3-y^3=(x-y)(x^2+xy+y^2)$
からの類推でも理解できるように,2以上の整数$n$に対して$x^n-y^n$は
と因数分解できます.なお,$x^n-y^n$が$x-y$を因数にもつことは,$x=y$のとき$x^n-y^n=0$となることから因数定理より分かりますね.
問1では「$3^n-2^n$が素数」という条件は扱いにくいので,扱いやすい「$n$は素数」を用いたいところで,そのために背理法か対偶を示す方法を採ると良いですね.
$n$が素数でなければ$n=ab$ ($a$, $b$は2以上の整数)と表せるので,$3^{ab}-2^{ab}=(3^a)^b-(2^a)^b$と考えれば$x^b-y^b$の因数分解が使えますね.
平均値の定理
同じ形の差があれば平均値の定理を思い出したいところです.
[平均値の定理] $a\leqq x\leqq b$で微分可能な関数$f(x)$に対して,$a\leqq c\leqq b$かつ
を満たす実数$c$が存在する.
「同じ形の差」というのは$f(b)-f(a)$の部分のことですね.
本問では,与えられている$f(a)=af(1)$から$\dfrac{f(a)}{a}-\dfrac{f(1)}{1}=0$が成り立つので,$g(x)=\dfrac{f(x)}{x}$という関数に$x=a$と$x=1$を代入したものの差が$0$という式になっています.
つまり,$g(a)-g(1)=0$なので$1\leqq c\leqq a$かつ$g'(c)=\dfrac{g(a)-g(1)}{a-1}=0$を満たす実数$c$が存在します.
$g'(c)=\dfrac{cf'(c)-f(c)}{c^2}$なので$cf'(c)-f(c)=0$となり,曲線$y=f(x)$の$x=c$での接線は原点を通ることが分かりますね.
発想としては
- 存在を証明するから,中間値の定理か平均値の定理あたりを意識する
- 与えられてる条件$f(a)=af(1)$を「同じ形の差」に変形できないか考える
- $a$が右辺と左辺の両方にあるので,両辺を$a$で割って$a$をまとめる
- $\dfrac{f(a)}{a}=f(1)$で$f(1)=\dfrac{f(1)}{1}$と見れば「同じ形の差」になるので,平均値の定理が使える
という感じですね.
解答例
以下,解答例です.
(1) 対偶を示す.すなわち,$n$が素数でないとき,$3^{n}-2^{n}$が素数でないことを示す.
$n$が素数でなければ,$n=ab$ ($a$, $b$は$2$以上の整数)と表せるから
となる.$3^{a}-2^{a}$と$(3^{a})^{b-1}+(3^{a})^{b-2}(2^{a})+\dots+(2^{a})^{b-1}$はいずれも整数である.さらに
と
を併せると,$3^{n}-2^{n}$が$2$以上の整数の積で表せることになり,素数でないことが分かる.
(2) $g(x)=\dfrac{f(x)}{x}$とおく.$f(x)$は微分可能だから$g(x)$も微分可能なので,平均値の定理より$1<c<a$かつ
を満たす実数$c$が存在し
だから,$cf'(c)-f(c)=0$が成り立つ.よって,曲線$y=f(x)$の$x=c$での接線の方程式は
となって原点を通る.
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