「条件付き確率」は直感に合わない人が少なくないようで,確率を勉強するときに避けられがちです.
直感に合わない上に,追い打ちをかけるように「公式が~」と言われるともう嫌になってしまう人が多いようです.
この記事では条件付き確率の具体的な問題を扱い,その「間違った考え方」と「正しい考え方」を解説します.そして,「間違った考え方」が間違っている理由を,他の分かりやすい例を用いて説明します.
また,同時に多くの人が苦手とする「同様に確からしい」という概念についても説明します.
目次
条件付き確率の例
「条件付き確率」とは,ある条件下での確率のことを言います.
条件付き確率について,先日次のような問題を見かけたので,この問題を例に「条件付き確率」を考えてみます.
3枚のカードS,T,Uがあり,それらの両面は赤または青で次のように塗られているとする.
S:両面とも赤,T:両面とも青,U:片面が赤で他面が青
このとき,S,T,Uを箱に入れ無作為に1枚選ぶ.
(1) Uを選ぶ確率を求めよ.
(2) 机に置くと上面が赤であった.このとき,このカードの裏が青である確率を求めよ.
(1)も(2)も結局はUのカードを選ぶ確率ですが,(2)は「条件付き確率」です.
どういうことかというと,(2)は「机に置くと片面が赤であった」という条件のもとでの,Uを選ぶ確率なわけです.
「何か分からないけど,とりあえず上面は赤でした.」までが条件で,「では,このときの裏が青である確率はどれくらいですか?」という問題なわけです.
一方,(1)は何も条件がないので,単に3枚のうちからUを選ぶ確率というわけです.
したがって,(1)の答えが$\dfrac{1}{3}$なのは良いでしょう.
以下,この記事では(2)について考えます.
条件付き確率の考え方
クラス授業でこの類の問題を解いてもらうと,答えはたいてい$\dfrac{1}{2}$と答える人と$\dfrac{1}{3}$と答える人に分かれます.
実は,答えは$\dfrac{1}{3}$なのですが,「正しい考え方」を見る前に,$\dfrac{1}{2}$ではなぜ間違いなのかを解説します.
間違った考え方
間違った答え$\dfrac{1}{2}$を導いてしまう人は次のように考える人が多いようです.
片側が赤のとき,その裏は「赤」か「青」の2通り.よって$\dfrac{1}{2}$である.
しかし,これは間違いです.
これは,「片面が赤のとき,その裏が『赤』であることと,『青』であることが同様に確からしくない」ことが間違いの原因です.
「出た!同様に確からしい!」
と思った人もいるかもしれません.詳しいことはひとまずおいて,次に正しい考え方を説明します.
正しい考え方
正しい答え$\dfrac{1}{3}$を導くには次のように考えます.
上面が赤なら,この赤は「Sの表」,「Sの裏」,「Uの赤面」の3通り.このうち,裏が青なのは1通り.
よって,$\dfrac{1}{3}$である.
「片面が赤であった」という条件がありますが,この赤が「Sの表」の赤なのか,「Sの裏」の赤なのか,「Uの赤面」の赤なのかが分かりません.
ですが,「Sの表」,「Sの裏」,「Uの赤面」のどれであるのかは当確率です.ですから,この3通りの中で裏が青であるのは1通りなので,求める確率は$\dfrac{1}{3}$となるわけです.
「間違った考え方」が間違っている理由
「間違った考え方」では「片側が赤のとき,裏は『赤』か『青』の2通り.」と考えました.
これは正しいです.
しかし,これから「よって$\dfrac{1}{2}$である.」と結論付けたところが問題なのです.
場合の数が2通りであっても,確率が$\dfrac{1}{2}$とは限らないのです!
このことは次の例を見れば納得してもらえると思います.
まず,いびつなコインを考えます.このコインを投げると,コインの歪みのせいでほとんどの確率で表が出るとします.
このとき,「コインで『表』の出る場合と『裏』の出る場合の2通り」です.これは間違っていません.
しかし,「よって,表が出る確率は$\dfrac{1}{2}$である!」と結論付けるのは明らかに間違いですね.というのは,ほとんどの確率で表が出るはずだからです.
場合が2通りであっても,その2通りのそれぞれが均等に出ない場合には,それぞれの確率が$\dfrac{1}{2}$とはならないのです.
(2)の「間違った考え方」はこれと同じ間違いをしているのです.
「同様に確からしくない」からの説明
さて,この(2)の例においては「表が出ることと裏が出ることは同様に確からしくない」と言います.
さて,「同様に確からしい」という言葉はあまり詳しく習わないがために,よく分からないという人が多い概念でもあります.ですが,上のコインの例で「表の出る確率が$\dfrac{1}{2}$ではない」ことが理解できていれば,すぐに分かるはずです.
簡単に言えば,「同様に確からしい」とは
「どの場合が起こる確率も同じやで!」
ということです.
いびつなコインでは「表の出る確率」と「裏の出る確率」が異なりますから,「表が出ることと裏が出ることは同様に確からしくない」と言えるわけです.
同様に,片面が赤のときに「裏が赤である確率」と「裏が青である確率」は等確率ではないのです.つまり,「間違った考え方」で書いたように,片面が赤のときに「裏が赤であること」と「裏が青であること」は同様に確からしくないので,「確率が$\dfrac{1}{2}$である」とするのは間違いだというわけです.
一方,「正しい考え方」では,「Sの表」,「Sの裏」,「Uの赤面」のどれである確率も同様に確からしいので,「それぞれの確率は$\dfrac{1}{3}$である」とできるわけです.
条件付き確率の公式
さて,ここで一度具体例から離れて,次の「条件付き確率」を求める公式を導出します.
公式とその導出
まず記号ですが,事象Sが起こる場合の数を$n(\mrm{S})$,事象$S$が起こる確率を$P(\mrm{S})$と書きます.
[条件付き確率の公式] 全事象を$\mrm{X}$とし,それぞれの場合は同様に確からしいとする.事象Aと事象Bに対し,Aが起こった後にBが起こる条件付き確率$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})$は次で表される.
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})=\dfrac{P(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{P(\mrm{A})}$
イメージとしては,分母を払った
$P(\mrm{A})P_{\mrm{A}}(\mrm{B})=P(\mrm{A}\cap\mrm{B})$
をみると,左辺は「Aが起こった後に,Bが起こる確率」,右辺は「AとBが同時に起こる確率」ですから,確かに正しそうです.
これを条件付き確率の観点から見ると,次のように説明できます.
[公式の証明]
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})$はAが起こったことが確定したあとにBが起こる確率を考えます.
まず,「全体の場合の数」は下図の灰色部分で$n(\mrm{A})$です.
「Aが起こったことが確定したあとにBが起こる場合の数」は下図の濃い灰色部分で$n(\mrm{A}\cap\mrm{B})$です.
よって,
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})=\dfrac{n(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{n(\mrm{A})}$
ということになります.
さて,この右辺が$\dfrac{P(A\cap B)}{P(A)}$と一致して欲しいわけですが,
$P(A\cap B)=\dfrac{n(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{n(\mrm{X})}$,
$P(\mrm{A})=\dfrac{n(\mrm{A})}{n(\mrm{X})}$
だったので,分母分子を$n(\mrm{X})$で割れば良さそうです.こうして,
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})$
$=\dfrac{n(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{n(\mrm{A})}$
$=\dfrac{\dfrac{n(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{n(\mrm{X})}}{\dfrac{n(\mrm{A})}{n(\mrm{X})}}$
$=\dfrac{P(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{P(\mrm{A})}$
が得られました.
[証明終]
問題の(2)では,事象Aを「上面が赤である」,事象Bを「裏が青である」として,$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})$を求めれば良いことが分かります.
まず,カードS,T,Uの選び方が3通り,裏表の選び方が2通りで,全ての場合の数は6通りです.
$\mrm{A}\cap\mrm{B}$は「上面が赤で,裏面が青である事象」です.これはカードTが赤を上向きにして机に置かれた場合にしかありえませんから1通り.よって,
$P(\mrm{A}\cap\mrm{B})=\dfrac{1}{6}$
となります.
また,Aはそのまま「上面が赤である事象」です.これはカードSの裏と表の2通りと,カードTが赤を上向きにして机に置かれた1通りの合わせて3通り.よって,
$P(\mrm{A})=\dfrac{3}{6}=\dfrac{1}{2}$
です.したがって,求める確率は
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})$
$=\dfrac{P(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{P(\mrm{A})}$
$=\dfrac{\dfrac{1}{6}}{\dfrac{1}{2}}=\dfrac{1}{3}$
となって,確かに初めの答えと一致しています.
補足
さて,公式を使うために公式に沿って丁寧に求めましたが,実は$P(\mrm{A}\cap\mrm{B})$と$P(\mrm{A})$まで求める必要はありません.
公式の証明を読めば分かるように,
$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})=\dfrac{n(\mrm{A}\cap\mrm{B})}{n(\mrm{A})}$
ですから,実は$n(\mrm{A}\cap\mrm{B})$と$n(\mrm{A})$さえ分かっていれば(2)の確率は求まります.
$n(\mrm{A}\cap\mrm{B})=1$,
$n(\mrm{A})=3$
でしたから,確かに,$P_{\mrm{A}}(\mrm{B})=\dfrac{1}{3}$となりますね.
条件付き確率は少し慣れが必要なので,実際に問題を解いて感覚を身に付けてください.