この記事では,2017年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問4」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは
- 内心の定義を知っているか.
- 内接円の半径を表せるか.
- 積和の公式を使えるか.
です.
幾何の問題では,なんとなく解いていると,何をしていいのか分からないという状況に陥りかねません.
何が分かっていて,何を求めたいのかなど,しっかり方針を立てて考えてください.
2017年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問1】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問2】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問3】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問4】←今の記事
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問5】
【解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問6】
目次
問題
2017年京都大学前期入試の「理系数学の問4」は以下の通りです.
問題
$\tri{ABC}$は鋭角三角形であり,$\ang{A}=\dfrac{\pi}{3}$であるとする.また,$\tri{ABC}$の外接円の半径は1であるとする.
- $\tri{ABC}$の内心をPとするとき,$\ang{BPC}$を求めよ.
- $\tri{ABC}$の内接円の半径$r$の取りうる値の範囲を求めよ.
初等幾何の問題です.
$\ang{A}$は固定なので,$\ang{B}$と$\ang{C}$が動きますね.内接円の半径$r$をどう表すかが問題となります.
問題のイメージ
図は以下の通りです.
$\ang{A}$は$\dfrac{\pi}{3}$で一定なので,円周角の定理より点B,Cを固定して,点Aが優弧BC(弧BCの長い方)上を動くイメージですね.
このとき,$\ang{B}$と$\ang{C}$は変化しますが,$\ang{BPC}$は変化せず,この$\ang{BPC}$を求めるのが(1)ですね.
AがBやCに近づくほど三角形が”潰れる”ので,内接円の半径$r$も小さくなります.一方,AがBやCから遠いほど内接円の半径$r$は大きくなります.
この内接円の半径$r$がどの範囲を動くのか,というのが(2)ですね.
また,内心の定義は,各頂点の内角の2等分線の交点ですから,$\ang{PBA}=\ang{PBC}$と$\ang{PCA}=\ang{PCB}$が成り立っています.
解法と考え方1
(1)は基本的なので,確実に解きたいところです.
(2)は$r$をどのように表すかがポイントとなります.
とりあえず表してみる
(1)では$\ang{BPC}$が欲しいのですから,とりあえず$\ang{BPC}$を表してみます.
$\ang{BPC}$は$\tri{BPC}$の内角の一つなので,
です.ここで,$\ang{PBC}$と$\ang{PCB}$の値は変化するので,それぞれを求めようとしても値が定まりません.
しかし,(ずるい考え方ですが,)「$\ang{BPC}$の値を求めよ」と問われているということは,$\ang{BPC}$はBとCの位置によらず一定の値になるはずで,だとすると$180^{\circ}-\ang{PBC}-\ang{PCB}$が一定,すなわち$\ang{PBC}+\ang{PCB}$が一定ということになります.
ですから,「$\ang{PBC}+\ang{PCB}$の値を出せば勝ちだなあ」という考えに至ります.
さて,もしPが$\tri{ABC}$の内心でなければ,$\ang{BPC}$が一定になるはずがありません.というのは,Pが弦BCに近いときと遠いときで$\ang{BPC}$の値が変わるからです.
ということは,Pが$\tri{ABC}$の内心であることを使わなければ,解けるはずがありません.
Pが$\tri{ABC}$の内心であることから,$\ang{PBA}=\ang{PBC}$と$\ang{PCA}=\ang{PCB}$が成り立つので,$\tri{ABC}$の内角の和を考えることにより,
が成り立ちます.ここから,$\ang{PBC}+\ang{PCB}$が得られますね.
パラメータでおく
例えば,$\ang{ABC}$の値を決めると,$\tri{ABC}$の形が一つに決まります.
ということは,$\ang{PBC}=\theta$などとパラーメータ$\theta$をおくことにより,$r$を$\theta$で表せるはずです.
なお,$\ang{ABC}=\theta$とおいても問題ありませんが,$r=\mrm{BH}\tan\dfrac{\theta}{2}$と分数になるのが嫌なので,もとから$\ang{ABC}=2\theta$とおいています.
これまでで,外接円の半径が1であることは全く用いていません.外接円の半径が変化すれば全体的にも辺の長さが変化するので,辺の長さを考えるときに外接円の半径の大きさを考えることは必要です.
「外接円」と言われると,「正弦定理かな?」とピンときて欲しいところです.
「三角形の向かい合う角の大きさ,辺の長さが絡む問題」と「三角形の外接円の半径が絡む問題」では正弦定理を考えるのが定石です.
$\tri{ABC}$に正弦定理を用いると,
が分かります.
なお,$\theta$は$\tri{ABC}$が鋭角三角形であるという条件を満たすように動きます.
内接円の半径の求め方
辺BHは$\tri{PBC}$の点Pから対辺BCに下ろした垂線で,$\mrm{PH}=r$です.
よって,$r=\mrm{PB}\sin\theta$なので,$r$を$\theta$で表すためには,辺PBの長さを$\theta$で表せることができればよいですね.
いま,$\tri{PBC}$において$\ang{BPC}=\dfrac{2\pi}{3}$, $\mrm{BC}=\sqrt{3}$が分かっています.
このように,「三角形の向かい合う角の大きさと辺の長さが分かっているとき」にも,正弦定理がピンときて欲しいところです.
$\tri{PBC}$で正弦定理により,
が成り立知ます.いま,$\ang{PCB}$の大きさは,$\theta$で表せるので,辺PBの長さを$\theta$で表すことができます.
あとは$\theta$に関する$r$の増減を調べれば良いですね.
解答
以下,解答例です.
(1)の解答
Pが$\tri{ABC}$の内心であることから,$\ang{PBA}=\ang{PBC}$と$\ang{PCA}=\ang{PCB}$が成り立つので,$\tri{ABC}$の内角の和を考えることにより,
が成り立つ.$\tri{BPC}$の内角の和を考えることにより,
を得る.
(2)の解答1
$\ang{PBC}=\theta$とおく.$\tri{ABC}$が鋭角三角形であることと,
は同値である.また,$\tri{ABC}$で正弦定理より,
が成り立つ.よって,さらに$\tri{PBC}$で正弦定理より,
が成り立つ.よって,積和の公式より,
$\dfrac{\pi}{12}<\theta<\dfrac{\pi}{4}$より$-\dfrac{\pi}{6}<\dfrac{\pi}{3}-2\theta<\dfrac{\pi}{6}$だから,
である.以上より,$r$の取りうる値の範囲は
である.
解答の補足
積和の公式
では,差$\alpha-\beta$と和$\alpha+\beta$が出てきます.
この問題では,$\alpha=\dfrac{\pi}{3}-\theta$, $\beta=\theta$ですから,$\alpha+\beta$の方には$\theta$が残らず,$\theta$が$\alpha-\beta$の方のみとなります.
このように,三角関数の積は積和の公式を使うことで,最大と最小が求まることも多いことは知っておいてください.
積和の公式は加法定理からすぐに求めることができるので,覚えるものではありません.この記事では,三角関数の中心的な公式である加法定理から,2倍角の公式,23倍角の公式,半角の公式,積和の公式,和積の公式を導出します.
解法と考え方2
(2)について,「求め方1」よりも計算が面倒にはなりますが,垂線の長さを求める次の方法も有効な場合が多いので知っておいてよいでしょう.
垂線の長さの求め方
辺BHは$\tri{PBC}$の点Pから対辺BCに下ろした垂線で,$\mrm{PH}=r$です.
「垂線の長さを求める」という考え方では,$r$を2通りで表す方法も知っておいてよいでしょう.
つまり,$r$は
と2通りで表せるので,$r$を消去して
となります.$\ang{BPC}$は(1)から分かっていますし,$\mrm{BH+BC}=\mrm{BC}=\sqrt{3}$ですから,BHの長さが$\theta$で表せます.
このBHを,$r=\mrm{BH}\tan\theta$に代入すれば$r$が$\theta$で表せたことになりますね.
あとは$\theta$に関する$r$の増減を調べます.
解答
(1)は「解法と考え方1」と同じです.
(2)の解答
$\ang{PBC}=\theta$とおいて,$\dfrac{\pi}{12}<\theta<\dfrac{\pi}{4}$を導出するまでは,「解法と考え方1」と同じ.
$\tri{ABC}$の内接円と辺BCが接する点をHとすると,PHの長さは次の2通りで表せる.
よって,
が成り立つ.
$\dfrac{\pi}{12}<\theta<\dfrac{\pi}{4}$より$\tan\theta\neq>0$だから$\tan\dfrac{\pi}{3}\tan\theta\neq-1$である.よって,加法定理より,
である.よって,三角関数の合成と積和の公式より,
となる.あとは「解法と考え方1」と同じ.
【関連記事:解答例と考え方|2017年度|京都大学|理系数学問5】