この記事では,2020年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問1」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,問1は
- $n$次方程式の虚数解の性質を適用できるか
- 複素平面上の正三角形を正しく捉えられるか
です.
複素共役や極形式など,複素平面上の考え方に慣れておかないと少し手こずるかもしれません.
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問題
2020年度京都大学前期入試の「理系数学の問1」は以下の通りです.
$a$, $b$は実数で,$a>0$とする.$z$に関する方程式
は3つの相異なる解を持ち,それらは複素数平面上で一辺の長さが$\sqrt{3}a$の正三角形の頂点となっているとする.このとき,$a$, $b$と$(*)$の3つの解を求めよ.
複素数解をもつ方程式に関する問題です.
一般に,$z^n=c$型の方程式の解の表す複素数平面上の点は,原点中心,半径$\sqrt[n]{|c|}$の円周上に等間隔に並ぶことは知っておいて良いでしょう.
このことから,方程式$(*)$が$(z-\gamma)^3=c$の形に変形できれば,$\gamma$中心,半径$\sqrt[n]{|c|}$の円周上に等間隔に並ぶことになります.
こう考えると,$z^3+3az^2+bz+1=0$の左辺は部分的に3乗の因数分解ができて,$(z+a)^3=k$となることが期待されます.
もしこのように変形できたとすると,
となり,これを解くと$a=\sqrt[3]{\frac{1}{2}}$, $b=3\sqrt[3]{\frac{1}{4}}$, $k=-\frac{1}{2}$となります.
この考え方をすれば答えを求めるだけなら簡単に得られますが,「$z^n=c$型の方程式の解が,原点中心,半径$\sqrt[n]{c}$の円周上に等間隔に並ぶ」ことを証明なしに用いるのは怖いですし,証明するにしても少々面倒です.
そのため,実際の解答ではもっと平易な方法で解くのが無難でしょう.
なお,$z^n=c$型の方程式については,以下の記事で詳しく説明しています.
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】
$z^n=c$型の方程式は[ド・モアブルの定理]を用いることで解くことができます.この記事では,具体例を用いて$z^n=c$型の方程式をときます.
考え方
方程式$(*)$の虚数解の扱いがポイントです.
虚数解
まず,3つの複素数の表す複素平面上の点が正三角形をなすことから,このうちの少なくとも1つは実数ではありません.
したがって,条件から3次方程式$(*)$は虚数解をもちます.
ここで,実数係数の$n$次方程式の虚数解に関して,次の定理が成り立つことは大切ですね.
実数係数の$n$次方程式が虚数解$\alpha$をもてば,その共役複素数$\overline{\alpha}$も解となる.
「実数係数の」という部分は欠かせません.たとえば,複素数係数の方程式$x^2+ix=0$は
となって,虚数解$-i$をもちますが,この共役複素数$i$は解ではありませんから,定理が成り立っていません.
このように,この定理は「実数係数の」$n$次方程式にしか成り立たないので,答案の中でこの定理を用いる際には「実数係数だから」と一言書いておくべきでしょう.
この実数係数$n$次方程式の虚数解に関する定理は重要です.また,高校数学では1でない1の3乗根$\omega$に関する問題もよく扱います.この記事では,これらについて解説しています.
この定理から,方程式$(*)$の虚数解を$\alpha$とすると,$\alpha$の共役複素数$\overline{\alpha}$も方程式$(*)$の解であることが分かりますね.
また,残りの方程式$(*)$の解$p$は実数となります.
解と係数の関係
方程式$(*)$の係数は全て分かっており,3つの解も$\alpha$, $\overline{\alpha}$, $p$と表せているので,解と係数の関係から
が成り立つことはパッと思い付きたいところです.
2次方程式でも,3次方程式でも,それ以上の次数の方程式でも,[解と係数の関係]はほとんど瞬時に導くことができるので,覚える必要はありません.この記事では,[解と係数の関係]の考え方を説明しています.
複素数平面と共役複素数
いま未知数は$\alpha$, $p$, $a$, $b$の4つなので,[解と係数の関係]から得られた3つの等式からでは解くことができません.
そこで,まだ使っていない条件である3解が表す複素数平面上の点が正三角形を成すことから,もう1つ等式を作ることを考えましょう.
一般に,複素数平面上の互いに共役な複素数$z$, $\overline{z}$の表す点は実軸対称ですから,3解の表す複素数平面上の点は正三角形をなすので,例えば下図のようになります.
複素数$z=a+bi$とその共役複素数$\overline{z}=a-bi$は,実部が等しく,虚部の符号が逆になっているので,複素平面上では実軸対象となります.この記事では,複素平面の基本を説明しています.
この図の場合,正三角形の一辺の長さが$\sqrt{3}a$なので,
となって,4つ目の等式が得られましたね.
ただ,実際には$\alpha$の虚部が正の場合もありうるので,見落とさないように注意してください.
解答
以下,解答例です.
方程式$(*)$の相異なる3解の表す複素数平面上の3点が正三角形をなすことから,少なくとも1解は虚数解である.
この虚数解を$\alpha$とすると,方程式が実数係数であることから$\alpha$の共役複素数$\overline{\alpha}$も解となる.
また,もし残りの1解が虚数なら,その共役複素数も解となって解を4つもつことになり矛盾するから,残りの1解は実数である.
この実数解を$p$とする.
ここで,複素数平面上の3点A, B, Cを以下のようにとる.
- $\mrm{A}(p)$
- $\mrm{B}(\alpha)$
- $\mrm{C}(\overline{\alpha})$
- $\Ve{AB}$を正方向に$60^\circ$回転させて$\Ve{AC}$になる
このとき,以下の[1], [2]のいずれかとなる($\operatorname{Im}(\alpha)$は$\alpha$の虚部を表す).
[1] $\operatorname{Im}(\alpha)<0$のとき
[2] $\operatorname{Im}(\alpha)>0$のとき
ここで,解と係数の関係より,
が成り立つ.ただし,$\operatorname{Re}(\alpha)$は$\alpha$の実部である.
[1] $\operatorname{Re}(\alpha)<0$のとき,$\tri{ABC}$の一辺の長さは$\sqrt{3}a$だから,
なので,
となる.これより,
となるから,$|\alpha|=|-a|=a$である.よって,
を得る.また,
であり,$p=-2a=-2\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}$である.
[2] $\operatorname{Re}(\alpha)>0$のとき,$\tri{ABC}$の一辺の長さは$\sqrt{3}a$だから,
なので,
となるが,このとき
だから,$p$は方程式$(*)$の解になり得ず不適である.
以上より,
- $a=\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}$
- $b=3\sqrt[3]{\dfrac{1}{4}}$
であり,方程式$(*)$の解は
- $-2\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}$
- $-\dfrac{1}{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}i$
- $-\dfrac{1}{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}\sqrt[3]{\dfrac{1}{2}}i$
である.
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