この記事では,2020年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問2」の考え方と解法を説明します.
この問題のポイントは,
- 数学的帰納法の発想から$\alpha^n+\beta^n$をうまく変形できるか
- $\sin$の極限の公式を適用できる形に持っていけるか
です.
(1)の数学的帰納法はすぐに思い付きたいところで,(2)は$\sin$の極限の公式を使いそうだとは瞬時に思いたいところです.
いずれにしても,慣れていないと式変形は思い付きにくいかもしれません.
2020年度の理系数学の解説はこちら
【解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問1】
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【解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問3】
【解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問4】
【解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問5】
【解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問6】
問題とイメージ
2020年度京都大学前期入試の「理系数学の問2」は以下の通りです.
$p$を正の整数とする.$\alpha$, $\beta$は$x$に関する方程式$x^2-2px-1=0$の2つの解で,$|\alpha|>1$であるとする.
(1) すべての正の整数$n$に対し,$\alpha^n+\beta^n$は整数であり,さらに偶数であることを証明せよ.
(2) 極限$\lim\limits_{n\to\infty}(-\alpha)^n\sin{(\alpha^{n}\pi)}$を求めよ.
単純に方程式$x^2-2px-1=0$を解くと,
で,$p>0$であることから
- $-1<p-\sqrt{p^2+1}<0$
- $1<p+\sqrt{p^2+1}$
が成り立つので,
となります.
$|\beta|<1$より$\lim\limits_{n\to\infty}\beta^n=0$なので,$\alpha^n+\beta^n$が整数であれば$n$が十分に大きいとき$\alpha^n$はほとんど整数となり,したがって$\sin{(\alpha^n \pi)}$はほとんど0となります.
これより$\lim\limits_{n\to\infty}(-\alpha)^n\sin{(\alpha^{n}\pi)}$は
- $\alpha^n$の大きくなる力
- $\sin{(\alpha^n \pi)}$の0に近付く力
の極限がどうなるか問われているわけですね.
解法と考え方
(1)は任意の自然数$n$に対する証明,(2)は$\sin$の極限が絡んでいることに注目したいところです.
数学的帰納法
任意の正の整数$n$に対して$\alpha^n+\beta^n$が成り立つことを示すので,$\alpha^{n}+\beta^{n}$を$\alpha^k+\beta^k$ ($k=1,2,\dots,n-1$)で表し,数学的帰納法を用いたいところです.
例えば,
- $\alpha^3+\alpha^3=(\alpha^2+\beta^2)(\alpha+\beta)-\alpha\beta(\alpha+\beta)$
- $\alpha^4+\alpha^4=(\alpha^3+\beta^3)(\alpha+\beta)-\alpha\beta(\alpha^2+\beta^2)$
- $\alpha^5+\alpha^5=(\alpha^4+\beta^4)(\alpha+\beta)-\alpha\beta(\alpha^3+\beta^3)$
なので,任意の正の整数$n$に対して,
が成り立つことに気付きます.
【漸化式の基本3|数学的帰納法はイメージは「ドミノ倒し」!】
数学的帰納法の基本的な考え方をイメージから解説しています.また,具体例を用いて,実際の数学的帰納法の使い方も説明しています.
対称式と解と係数の関係
また,$\alpha^n+\beta^n$は$\alpha$, $\beta$の対称式なので,基本対称式$\alpha+\beta$, $\alpha\beta$の和,差,積で表すことができるのでした.
いま,2次方程式の係数と解が分かっているので,[解と係数の関係]より
が成り立ちます.よって,$\alpha+\beta$, $\alpha\beta$はともに整数なので,$\alpha^{n-1}+\beta^{n-1}$, $\alpha^{n-2}+\beta^{n-2}$が偶数なら,$\alpha^n+\beta^n$も偶数になりますね.
このように,[対称式]と[解と係数の関係]の相性が良いことは意識しておきたいところです.
対称式を見た瞬間に「対称式は基本対称式の和,差,積で表せる」という定理を第一候補として思い付きたいところです.この記事では,対称式のコツを具体例から解説しています.
sinの極限
$sin$が絡む極限では,
が瞬時に思いつきたい公式です.
ただし,本問の$\sin{(\alpha^n\pi)}$において,$\alpha^n\pi$は0に収束しないのですぐには使えません.
そこで,(1)より$\alpha^n+\beta^n=2p$ ($p$は整数)と表せることから,
となり,$\lim\limits_{n\to\infty}\beta^n=0$であることと併せて,公式が使えます.
解答
以下,解答例です.
[解答]
(1) 解と係数の関係より,
が成り立つ.
ここで,任意の正の整数$n$に対して$\alpha^n+\beta^n$が偶数であることを数学的帰納法により示す.
[1] $n=1$のとき,$p$が整数であることから,
は整数である.
[2] $n=2$のとき,$p$が整数であることから,
は整数である.
[3] $n=k,k+1$のとき$\alpha^n+\beta^n$が偶数であると仮定すると,$p$が整数であることから,
は偶数である.
[1]-[3]より,任意の正の整数$n$に対して$\alpha^n+\beta^n$が偶数である.
(2) $\alpha\beta=-1$の両辺で絶対値をとると,$|\alpha||\beta|=1$となる.$1<|\alpha|$と併せると
となる.よって,$\lim\limits_{n\to\infty}\beta^n=0$となる.
(1)より任意の正の整数$n$に対して$\alpha^n+\beta^n$が偶数であることと併せて,
を得る.
[解答終]
【次問の解説:解答例と考え方|2020年度|京都大学|理系数学問3】