この記事では,2021年2月25日に行われた京都大学前期入試の「理系数学の問3」の考え方と解法を説明します.
この問3のポイントは
- ド・モアブルの定理が見えるか
- 複素数の無限等比級数を適切に処理ができるか
です.
また,単純に実数の無限級数として解くこともでき,この場合のポイントは
- $n$によって各項がどのように変化するか
- 和を分解して考えられるか
ですが,式が長くなってしまい処理が重くなってしまうのでおすすめはできません.
「2021年度 京都大学 理系数学」の一連の記事はこちら
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問題
2021年度京都大学前期入試の「理系数学の問3」は以下の通りです.
無限級数$\dsum_{n=0}^{\infty}\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の和を求めよ.
$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}=\cos{\dfrac{(n+12)\pi}{6}}$なので,$n$が12ごとに$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の部分が同じ値をとります
そのため,$n\equiv0,1,\dots,11\pmod{12}$でまとめて考えるのが素朴な方法です.
例えば$n=0,12,24,\dots$の部分だけ取り出すと,$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}=1$なので
となり,$n=1,13,25,\dots$の部分だけ取り出すと,$\cos{\dfrac{n\pi}{6}}=\dfrac{\sqrt{3}}{2}$なので
となり,……と無限級数の極限の計算が使えます.
しかし,場合分けが多くなり書く量が少なくないので,この素朴な方法で解こうとすると試験場では焦ってしまいかねません.
考え方
この記事では,場合分けをしない方法で解きましょう.
ド・モアブルの定理
$\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の形を見て,ド・モアブルの定理の実部を思い付きたいところです.
つまり,$\alpha=\dfrac{1}{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{\pi}{6}}}$とおくと,ド・モアブルの定理より,任意の整数$n$に対して
が成り立ちます.
よって,無限級数$\dsum_{n=0}^{\infty}\bra{\dfrac{1}{2}}^{n}\cos{\dfrac{n\pi}{6}}$の第$(k+1)$項目までの部分和は
の実部に一致するので,この和の実部の極限$k\to\infty$を考えればよいですね.
複素数の等比数列の和
無限等比級数$\dsum_{n=0}^{\infty}r^n$ ($r$は実数)の部分和$1+r+r^2+\dots+r^{k}$は,$r\neq1$なら因数分解
の両辺を$1-r$で割ることで
と得られます.この議論は$r\neq1$であれば複素数でも問題なくできますね.
いま$|\alpha|=\dfrac{1}{2}$より$\alpha\neq1$なので,さきほどの部分和は
となります.
この式で$\alpha$を$n$を用いて表し直して,実部と虚部に分ければ部分和$\alpha^0+\alpha^1+\alpha^2+\dots+\alpha^k$の実部が得られますね.
解答例
以下,解答例です.
$\alpha=\dfrac{1}{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{\pi}{6}}}$とおくと,ド・モアブルの定理より,任意の整数$n$に対して
だから,問の無限級数は
となる.ただし,複素数$z$に対して$\operatorname{Re}z$で$z$の実部を表す.
$\dsum_{n=0}^{k}\alpha^n$は初項$1$,公比$\alpha$の等比数列の和で,$|\alpha|=\dfrac{1}{2}$だから$\alpha\neq1$なので
である.分母が実数なので,$\dsum_{n=0}^{k}\alpha^n$の実部は
である.
任意の実数$\theta$に対して$|\cos{\theta}|\leqq1$だから,この最後の2項は極限$k\to\infty$を考えると$0$に収束するから
となる.
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