「場合の数」は樹形図を考えるのが最も基本的で,樹形図から[和の法則]と[積の法則]は簡単に説明できることを前回の記事で解説しました.
[積の法則]の最も簡単な応用は順列です.
「モノを一列に並べること」を順列といい,「$n$個のものから$r$個選んで並べる場合の数」を$\Pe{n}{r}$で表します.
「順列」は場合の数の中で最も基本的といってよい考え方なので,しっかりフォローしておきたいところです.
この記事では,
- 順列$\Pe{n}{r}$
- 階乗$n!$
の考え方について説明します.
一連の記事はこちら
【場合の数1|[和の法則]と[積の法則]は超アタリマエ!】
【場合の数2|[順列]のnPrの考え方と公式は超カンタン!】←今の記事
【場合の数3|実はカンタンな円順列と数珠順列の考え方】
【場合の数4|[組み合わせ]のnCrの求め方から性質まで攻略】
【場合の数5|同じものを含むと順列の場合の数はどう変わる?】
【場合の数6|[重複組み合わせ]は2パターンでOK!】
【場合の数7|二項定理を理解しよう!場合の数を使って導出!】
【場合の数8|展開が楽にできる「パスカルの三角形」の考え方】
【場合の数9|多項定理とは?実は二項定理と同じ考え方!】
順列の考え方
まずは問題をときながら考え方を見ていきましょう.
$\fbox{1}$から$\fbox{9}$までのいずれかの数字が書かれたカードが1枚ずつ合計9枚ある.このとき,次の場合の数を求めよ.
- 9枚のカードから2枚を並べて整数を作る場合の数
- 9枚のカードから3枚を並べて整数を作る場合の数
- 9枚のカードから$r$枚を並べて$r$桁の整数を作る場合の数
(1) 9枚のカードから2枚を選んで並べる場合の数を考えれば良いですね.
たとえば,1の位の数が$\fbox{2}$なら,10の位の数は$\fbox{2}$以外の8通りあります.
このように,1の位の数のカードの選び方は「$\fbox{1}$から$\fbox{9}$まで」の9通りあり,このそれぞれに10の位の数のカードの選び方は8通りあります.
[積の法則]から,求める場合の数は
となります.
(2) (1)では1の位の数と,10の位の数の選び方の場合の数を考えました.
このそれぞれに100の位の数のカードの選び方は7通りあるので,求める場合の数は[積の法則]から
となります.
(3) (1),(2)の考え方と同様に,求める場合の数は[積の法則]から
となります.
この問題のように,「いくつかのものから,いくつか選んで並べること」を順列 (permutation)といいます.
いまの問題で見たように,順列は樹形図を考えれば[積の法則]を使って計算できますね.
【前回の記事:場合の数1|[和の法則]と[積の法則]は超アタリマエ!】
[和の法則]と[積の法則]は場合の数の分野で最も基本的であり,他の公式などは全てこの2つの原理に帰着されます.[和の公式]も[積の公式]も樹形図を考えれば簡単に分かり,とてもシンプルです.当たり前に扱えるように理解しておいてください.
「いくつかのものから,いくつかを選んで並べること」を「順列」という.「順列」の場合の数は,[積の法則]から考えるのが基本である.
順列の公式
次に,[順列の公式]について説明します.
順列の公式
順列は場合の数を考えるときによく現れるので,順列の場合の数には次のように記号があります.
$n$個のものから$r$個選んで並べる場合の数を$\Pe{n}{r}$で表す.ただし,$\Pe{n}{0}=1$とする.
たとえば,上の問題の(1), (2), (3)はそれぞれ$\Pe{9}{2}$, $\Pe{9}{3}$, $\Pe{9}{r}$ですね.
なお,$\Pe{n}{r}$のPは「順列」という意味の”Permutation”の頭文字”P”に由来します.
さて,問題と同じように樹形図を考えると,[積の法則]から$\Pe{n}{r}$は次のように式で表すことができます.
[順列の公式] 正の整数$n$, $r$は$r\leqq n$を満たすとする.このとき,
である.
例えば,5個から3個選んで並べる場合の数は,
となります.
[順列の公式]は樹形図から[積の法則]を考えれば簡単に分かる.
階乗
「順列」の記号$\Pe{n}{r}$に関して,特に$n=r$の場合には「階乗」の記号$!$があります.
[階乗] $n$を正の整数とする.1から$n$までの整数全部の積を$n!$で表す.すなわち,
である.これを$n$の階乗 (factorial)という.また,$0!=1$とする.
したがって,$n!$は「$n$個のものから$n$個選んで並べる場合の数」,すなわち「$n$個のものを並べる場合の数」を表します.
ただし,$n=0$の場合には例外的に$0!=1$と定めると色々と都合が良くなるのですが,これについてはあとで説明します.
さて,$\Pe{n}{r}$は階乗の記号!を用いると,次のようにスッキリ表せます.
[順列と階乗] 正の整数$n$と負でない整数$r$は$r\leqq n$を満たすとする.このとき,
が成り立つ.
これは$r$が$0<r<n$を満たすときは,
であることから分かりますね.
要するに,$\Pe{n}{r}=n(n-1)\dots(n-r+1)$を階乗で表すために,$n!$になるために足りない分の$(n-r)!=(n-r)(n-r-1)\dots2\cdot1$をかけたわけですね.
ただし,ただ$(n-r)!$を勝手にかけるのは等しくないため,分母にも同じく$(n-r)!$をかけたというわけですね.
「階乗」は$\Pe{n}{r}$の特別な場合であるが,頻繁に用いられる.また,$\Pe{n}{r}$も階乗を用いて表せる.
nP0=1と0!=1と定義することの補足
さて,上で説明したように順列と階乗について
- $\Pe{n}{0}=1$
- $0!=1$
と定義しますが,不思議な気がする人は少なくないと思います.
nP0=1であること
$r$が$0<r<n$をみたす正の整数のときは,$\Pe{n}{r}$を階乗を使って
となるわけですが,この等式が$r=0$でも成り立っていて欲しいと思うのは当然ですね.
そこで,実際に右辺に$r=0$を代入すると,
となるので,$\Pe{n}{0}=1$と定義しておくと$r=0$でも等式$(*)$が成り立って都合が良いわけですね.
0!=1であること
また,等式$\Pe{n}{r}=\frac{n!}{(n-r)!}$で$r=n$の場合を考えると,
が成り立っていて欲しいわけですね.
いま,階乗の定義から$\Pe{n}{n}=n!$ですから,これと併せると$0!=1$となっていると都合が良いことになります.
以上のことから,
$0<r<n$のときに$\Pe{n}{r}=\dfrac{n!}{(n-r)!}$が成り立つ
↓
$r=0,n$のときに$\Pe{n}{r}=\dfrac{n!}{(n-r)!}$が成り立っていて欲しい
↓
$\Pe{n}{0}=1$, $0!=0$とすると都合が良い
↓
もとから$\Pe{n}{0}=1$, $0!=0$と定義しておこう!
ということになっているわけですね.
【次の記事:場合の数3|実はカンタンな円順列と数珠順列の考え方】
本記事で扱った「順列」は「一列にものを並べる場合の数」でした.これに関連して,「円状にものを並べる場合の数」を「円順列」といいます.円順列では,場合の数で広く使われる「重複で割る」という考え方を用いて公式を導出することができます.