小学校の算数では計算ができればよかったものが,中学校の数学は途中から証明が現れてそのギャップに怯んでしまう人は少なくありません.
しかし,証明は「〜を示せ」というように結論が分かっているので,この結論から「逆算」することによって考えるととても見通しよく解くことができます.
この意味で,証明問題ほどやることは明確で考えやすいと言えます.
さて前回の記事ではこの「逆算の考え方」を丁寧に説明しながら,1問問題を解きました.
今回の記事では少し難しめの問題を,同じく「逆算の考え方」を用いて考えます.
一連の記事はこちら
【ひねられても応用できる勉強法|常に意識すべき2つのこと】
【ひねられても応用できる数学の勉強法1|証明編1】
【ひねられても応用できる数学の勉強法2|証明編2】
【ひねられても応用できる数学の勉強法3|証明編3】←今の記事
【ひねられても応用できる数学の勉強法4|数学は暗記か?】
解答を思いつくまでのプロセス
今回の記事の問題は以下の通りです.
実数$x$, $y$, $z$が$x+y+z=a$かつ$x^3+y^3+z^3=a^3$をみたすとき,$x$, $y$, $z$のうち少なくとも1つは$a$であることを示せ.
いろいろ条件が目につきますが,「逆算の考え方」に限らず最初に確認することは[仮定]と[結論]ですね.
- 仮定:実数$x$, $y$, $z$が$x+y+z=a$かつ$x^3+y^3+z^3=a^3$をみたす
- 結論:$x$, $y$, $z$のうち少なくとも1つは$a$である
「逆算の考え方」では,[結論]から出発して考えるのでしたから,「$x$, $y$, $z$の少なくとも1つは$a$である」から出発して考えます.
Step 1
考えることは「[結論]を証明するには,何を言えばいいのだろう?」です.
文字通りの式に起こせば
A:$x=a$または$x=a$または$x=a$
を示すことになります.
つまり,この3つの等式のいずれかを示せばよいわけですが,P「$A=B$の証明は$A-B=0$を示せば良い」というのは定石の1つですね.
この[定石P]から「Aを証明するには,
B:$x-a=0$または$y-a=0$または$z-a=0$
を言えばいいな」と考えることができます.
Step 2
さて,ここ数記事を読んでくださっている人はそろそろ逆算の考え方に慣れてきたでしょうか?
次に考えることは「Bを証明するには,何を言えばいいのだろう?」です.
色々な方針が考えられますが,いくつかの実数の少なくとも1つが0であることを示す際には,Q「$pqr=0$が成り立つならば$p$, $q$, $r$の少なくとも1つは0である.」というのが定石ですね.
確かに$p$, $q$, $r$のどれも0でなければ積$pqr$は0になるはずがありませんから,その対偶からどれかが積$pqr$が0なら$p$, $q$, $r$のどれか1つは0になりますね.
この[定石Q]から「Bを証明するには,
C:$(x-a)(y-a)(z-a)=0$
を言えばいいな」と考えることができます.
Step 3
A, Bで数式でなかったものが,Cで数式になって計算すれば何とかなりそうな気配がしてきました.
さて,Cを証明するには,左辺を変形して0を目指します.
いま,$a=x+y+z$だったので,$x-a=y+z$, $y-a=z+x$, $z-a=x+y$です.
R「文字の数は少ない方が見やすくなることが多い」というのも定石で,これらを用いて$a$を消去して変形すると,
となります.展開は実際に確かめてみてください.
よって,「Cを証明するには
D:$x^2y+y^2z+z^2x+xy^2+yz^2+zx^2+2xyz=0$
を言えば良い」と分かります.
Step 4
邪道な考え方ではありますが,基本的に受験数学では不要な条件はなく,提示されている条件は基本的にすべて使います.
ここで問題文を見ると,条件「$x^3+y^3+z^3=a^3$」はまだ一度も使っていませんので,$x^3+y^3+z^3=a^3$を考えてみます.
やはり$x^3+y^3+z^3=a^3$も$a=x+y+z$を用いて$a$を消去して展開すると,
となります.これを整理すると,
が従います.これはDそのものなので,Dが示されたことになります.
さて,これで解答が書けますね.
解答は「[仮定]からDなのでCである.よって,Bとなるので[結論]が示された」といった風に書けばOKです.
解答
$x+y+z=a$と$x^3+y^3+z^3=a^3$から,$a$を消去すると,
が従う.これより,
となる.よって,$x-a$, $y-a$, $z-a$の少なくとも1つは0だから,$x$, $y$, $z$の少なくとも1つは$a$である.
まとめ
前の記事でも書いたことですが,「解答」はこれだけ短いのに「解答」を書くまでの準備はとても長いのです.
ですから,「『解答を思いつくまでのプロセス』と『解答』の間にはギャップがある」ことに気付いていなければ,この短い解答を見ても,なぜこのような解答を思いつくのか分からないのも当然と言えるでしょう.
「こんなもん,無理や!」となっても不思議ではありません.
解答を見たときに,「この解答を書いた人は逆から考えてこの解答を書いたんだろうな」と考えることができれば,その解答が飛躍した解答ではないことに気付けるはずです.
もちろん,解法はこれだけでなく,因数分解
を用いる方法や,3次方程式の解の公式を使う方法なども考えられますが,どの解法を採用するにしても「解答を思いつくまでのプロセス」をしっかり考えて「解答」を書くことが重要です.
なお,この問題は何十年か前の京都大学の入試問題ですから,この問題を解けなくても落ち込む必要はありません.
ここで言いたいのは,たとえ東大の入試だろうが京大の入試だろうが,解答を思い付くまでのプロセスがちゃんとあって,天才的ひらめきが必要な問題ではないということです.
逆算の過程で「~を証明するには,なにを言えばいいのだろう?」を考えるためには,考え方の中で出てきたPやQなどの「セオリー(定石)」が大切なのです.
使える「セオリー」をもっているほど,数学はできるようになっていきます.
ただ思いつくままに解こうとするのではなく,「解答を思いつくまでのプロセス」をしっかり考えて「解答」を書く.
【次の記事:ひねられても応用できる数学の勉強法4|数学は暗記か?】
「数学は暗記」と言う人がいますが,これは正しいです.しかし,言葉足らずでもあります.実際に解答を片っ端から暗記していっても,パターンで問題は解けるかもしれませんが,未知の問題に出会うともうお手上げです.次の記事では「数学は暗記」の意味を説明します.