三角関数の加法定理とは
- $\sin{(\alpha+\beta)}$
- $\sin{(\alpha-\beta)}$
- $\cos{(\alpha+\beta)}$
- $\cos{(\alpha-\beta)}$
を$\sin{\alpha}$, $\cos{\alpha}$, $\sin{\beta}$, $\cos{\beta}$で表す4つの公式と
- $\tan{(\alpha+\beta)}$
- $\tan{(\alpha-\beta)}$
を$\tan{\alpha}$, $\tan{\beta}$で表す2つの公式のことをいいます.また,加法定理を使えば,
- 2倍角の公式
- 3倍角の公式
- 半角の公式
- 積和の公式
- 和積の公式
を簡単に導くことができるので,三角関数に関する多くの公式の中でも加法定理は中心的な存在といえます.
この記事では,加法定理を説明したのち,加法定理から導かれる公式をまとめます.
一連の記事はこちら
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
【三角関数2|偏角の変換公式は覚えるな!簡単に導く方法!】
【三角関数3|「ラジアン」の考え方,公式はシンプル!】
【三角関数4|有名角の三角関数は覚えるな!図で判断するコツ】
【三角関数5|三角関数のグラフは縦や横から見るべし!】
【三角関数6|三角関数の方程式や不等式は,点をグルグル回せ!】
【三角関数7|三角関数の加法定理の周辺を総まとめ】←今の記事
【三角関数8|Asinθ+Bcosθの形は三角関数の合成!】
目次
加法定理
早速,三角関数の加法定理を紹介します.
加法定理の6つの公式
[加法定理] 実数$\alpha$, $\beta$に対して,以下が成り立つ.
加法定理を用いることで,有名角($\dfrac{\pi}{6}$, $\dfrac{\pi}{4}$, $\dfrac{\pi}{3}$の整数倍)以外の場合の三角関数の値も求めることができる場合があります.
例えば,
などとなります.
【三角関数4|有名角の三角関数は覚えるな!図で判断するコツ】
有名角の三角関数の値はほんの一部さえ理解していれば,残りはそこから瞬時に求めることができます.なお,度数法と弧度法が$180^\circ=\pi$であることを念頭に置いておけば,半分にして$90^\circ=\frac{\pi}{2}$, $\frac{1}{3}$にして$60^\circ=\frac{\pi}{3}$, $\frac{1}{4}$にして$45^\circ=\frac{\pi}{4}$, $\frac{1}{6}$にして$30^\circ=\frac{\pi}{6}$が分かります.
高校数学の多くの公式は覚えなくても瞬時に導けるものが多いですが,三角関数の加法定理の証明は少々面倒なので,三角関数の加法定理は覚えるようにしてください.
加法定理の証明
4つの公式を順に証明しましょう.
cos(α+β)の加法定理
まずは$\cos{\alpha+\beta}=\cos{\alpha}\cos{\beta}-\sin{\beta}\sin{\alpha}$を示します.
$xy$平面の単位円上に,2点$\mrm{P}(\cos{(\alpha+\beta)},\sin{(\alpha+\beta)})$, $\mrm{Q}(1,0)$を考えます.
このとき,
ですね.次に,$xy$平面の単位円上に,2点$\mrm{A}(\cos{(-\alpha)},\sin{(-\alpha)})$, $\mrm{B}(\cos{\beta},\sin{\beta})$を考えます.
このとき,$\mrm{A}(\cos{\alpha},-\sin{\alpha})$だから,
ですね.ここで,
- 1つ目の図の線分PQ
- 2つ目の図の線分AB
は原点中心に回転させて移り合うので,$\mrm{PQ}=\mrm{QB}$です.よって,
が成り立つことが示されました.
なお,点A, B, Pが単位円上にあることは三角関数の定義から明らかですね.
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
直角三角形から定義する三角比では,$0^\circ<\theta<90^\circ$なる$\theta$に対してしか$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を定義できませんでした.一方,全ての実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考える際には,$xy$直交座標上の偏角$\theta$の単位円上の点を$(\cos{\theta},\sin{\theta})$と表すのでした.
残りの$\sin$と$\cos$の加法定理は$\cos{(\alpha+\beta)}$を基にして導くことができます.
cos(α-β)の加法定理
$\cos{(\alpha+\beta)}$の加法定理で,$\beta$は任意の実数だったので,$\beta$の代わりに$-\beta$を用いても良いですね.こうすると,
が成り立つことが示されました.
sin(α-β)の加法定理
$\cos{(\alpha+\beta)}$の加法定理で,$\alpha$は任意の実数だったので,$\alpha$の代わりに$90^\circ-\alpha$を用いてもよく,このとき
が成り立つことが示されました.
sin(α+β)の加法定理
$\sin{(\alpha-\beta)}$の加法定理で,$\beta$は任意の実数だったので,$\beta$の代わりに$-\beta$を用いてもよく,このとき
が成り立つことが示されました.
tan(α+β)の加法定理
一般に,任意の実数$\theta$に対して,$\tan{\theta}=\dfrac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}}$だったので,$\theta=\alpha+\beta$とすると,
が成り立つことが示されました.
なお,2行目の等号では,分母分子を$\cos{\alpha}\cos{\beta}$で割っています.
tan(α-β)の加法定理
$\tan{(\alpha+\beta)}$の加法定理で,$\beta$は任意の実数だったので,$\beta$の代わりに$-\beta$を用いてもよく,このとき
が成り立つことが示されました.
加法定理の証明の中で$(90^\circ-\theta)$型や$(-\theta)$型の三角関数の変換公式を用いたが,これら瞬時に導くことができる.そのため,覚えておく必要はないどころか,頑張って覚える方がむしろ圧倒的に労力がかかってしまう.他にも$(90^\circ+\theta)$型や$(180^\circ-\theta)$型などの変換公式も簡単に導くことができる.
加法定理は他の公式の基となる公式なので確実に覚える.
2倍角の公式と3倍角の公式
$(\alpha+\beta)$型の加法定理を用いると,2倍角の公式と3倍角の公式が得られます.
2倍角の公式
$(\alpha+\beta)$型の加法定理で$\alpha=\beta=\theta$とおくと,以下の2倍角の公式が得られます.
[2倍角の公式] 実数$\theta$に対して,以下が成り立つ.
$\cos{2\theta}$は3種類の表し方が頻繁に用いられます.
その3種類とは
です.1つ目の等号は上の[2倍角の公式]で書いたものですね.
2つ目の等号は$\cos{2\theta}=\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta}$に$\cos^2{\theta}=1-\sin^2{\theta}$を代入すると得られ,3つ目の等号は$\cos{2\theta}=\cos^2{\theta}-\sin^2{\theta}$に$\sin^2{\theta}=1-\cos^2{\theta}$を代入すると得られます.
これら3つは自在に使い分けられるようになっておきましょう.
2倍角の公式は加法定理から瞬時に導けるようにしておく.
3倍角の公式
$\sin$と$\cos$の$(\alpha+\beta)$型の加法定理で$\alpha=\theta$, $\beta=2\theta$とおくと,以下の3倍角の公式が得られます.
[3倍角の公式] 実数$\theta$に対して,以下が成り立つ.
2倍角ほど簡単に得られるものではないので,実際に計算して確認しておきましょう.
となって,[3倍角の公式]が得られましたね.
なお,$tan$の3倍角の公式も同様にして得られますが,あまり登場する機会は少ないため敢えて書きませんでした.ただ,結果は
となるので,興味のある方は是非計算してみてください.
3倍角の公式は$\theta+2\theta$に関する加法定理を考えることで得られる.なお,3倍角の公式の公式は瞬時に得られるものではないので,覚えておくことが望ましい.
半角の公式
半角の公式は以下の通りです.
[半角の公式] 実数$\theta$に対して,以下が成り立つ.
これらは$\cos$の2倍角の公式を変形するだけで得られます.2倍角の公式のところで
- $\cos{2\theta}=1-2\sin^2{\theta}$
- $\cos{2\theta}=2\cos^2{\theta}-1$
の表し方ができることを説明しましたが,これらを式変形すると
となります.ここで$\theta$を$\dfrac{\theta}{2}$に置き換えれば,[半角の公式]となりますね.
半角の公式は$\cos$の2倍角の公式から導ける.
積和の公式と和積の公式
三角関数の加法定理から,積和の公式と和積の公式が得られる.
積和の公式
$\sin{\alpha}$, $\cos{\alpha}$, $\sin{\beta}$, $\cos{\beta}$の積は,$\sin$と$\cos$の和や差に書き直すことができます.
この公式を[積和の公式]といいます.
[積和の公式] 実数$\alpha$, $\beta$に対して,以下が成り立つ.
積を和に直すという意識から[積和の公式]は左辺が右辺になると見てしまいがちですが,左辺に[加法定理]を用いると当たり前に成り立つことが分かります.
というのは,加法定理から,
となって,両辺を2で割れば1つ目の等式が得られます.
他の式も同様に,左辺に加法定理を用いることで簡単に得られます.
実戦では,例えば$\sin{\alpha}\cos{\beta}$を和の形に変形したければ,$\sin{\alpha}\cos{\beta}$が現れる加法定理
- $\sin{(\alpha+\beta)}=\sin{\alpha}\cos{\beta}+\sin{\beta}\cos{\alpha}$
- $\sin{(\alpha-\beta)}=\sin{\alpha}\cos{\beta}-\sin{\beta}\cos{\alpha}$
を並べ,いらない$\sin{\beta}\cos{\alpha}$が消えるように和または差を取れば完成です.
$\sin{\alpha}\cos{\beta}$の場合は,これらを足し合わせれば良いですね.
[積和の公式]は加法定理の公式を足し合わせれば直ちに得られる.
和積の公式
積和の公式とは逆に,$\sin{\alpha}$, $\cos{\alpha}$, $\sin{\beta}$, $\cos{\beta}$の和や差を,$\sin$と$\cos$の積に書き直すことができます.
この公式を[和積の公式]といいます.
[和積の公式] 実数$\alpha$, $\beta$に対して,以下が成り立つ.
この[和積の公式]は[積和の公式]で
- $A=\alpha+\beta$
- $B=\alpha-\beta$
とおくことによって,導くことができます.$A=\alpha+\beta$, $B=\alpha-\beta$から,
- $\alpha=\dfrac{A+B}{2}$
- $\beta=\dfrac{A-B}{2}$
となるので,例えば[積和の公式]の1つ目の公式
を$A$と$B$で置き換えて,
となって,両辺に2をかければ[和積の公式]の1つ目の公式が得られます(原理的には加法定理からもすぐに求まる).
他の式も同様に,[和積の公式]から簡単に得られます.
[積和の公式]は[和積の公式]で$A=\alpha+\beta$, $B=\alpha-\beta$とおくことで直ちに得られる.
【次の記事:三角関数8|Asinθ+Bcosθの形は三角関数の合成!】
$A\sin{\theta}+B\cos{\theta}$の形の式は$C\sin{(\theta+\alpha)}$と1つの三角関数でまとめることができ,この変形のことを三角関数の合成といいます.三角関数の合成は公式だけを見ると複雑で敬遠されがちですが,実は加法定理から簡単に導くことができます.