前の記事では,等加速度直線運動の具体例として
- 自由落下
- 鉛直投げ下ろし
- 鉛直投げ上げ
を考えました.
その際,真っ先に「『鉛直下向き』を正方向とします.」と書いてきましたが,もし「鉛直上向き」を正方向にとるとどうなるでしょうか?
一般に,物理では座標をおいて考えることはよくあります.
この記事では,
- 最初に向きを決める理由
- 向きを変えるとどうなるのか
を説明します.
一連の記事はこちら
【運動の基本1|「速さ」と「速度」の違いと等速直線運動】
【運動の基本2|加速度と等加速度直線運動】
【運動の基本3|等加速度直線運動の3つの公式】
【運動の基本4|重力加速度とは?等加速度直線運動の具体例】
【運動の基本5|軸の向きはどう定めるべき?正しい向きは?】←今の記事
最初に向きを決める理由
「速度」,「加速度」,「変位」などは
- 大きさ
- 向き
を併せたものなので,「速度」や「変位」はベクトルを用いて表すことができるのでした.
さて,東西南北でも上下左右でも構いませんが,何らかの向きの基準があるからこそ「北向き」や「下向き」などと表現できるのであって,何もないところにポツンと「矢印」を置かれても,「どっちを向いている」と説明することはできません.
このように,速度にしろ変位にしろ,「向き」を表現するためには何らかの基準がなければなりません.
そこで,矢印を置いたところに座標が書かれていれば,矢印の向きを座標で表現できます.
このように,最初に座標を決めておくと「向き」を座標で表現できて便利なわけですね.
前もって座標を定めておくと,「速度」,「加速度」,「変位」などの向きが座標で表現できる.
向きを変えるとどうなるか
前回の記事の「鉛直投げ上げ」の例をもう一度考えてみましょう.
重力加速度は$9.8\mrm{m/s^2}$であるとし,空気抵抗は無視する.ある高さから小球Cを速さ$19.6\mrm{m/s}$で鉛直上向きに投げ,小球Cを落下させると地面に到達したとき小球Cの速さは$98\mrm{m/s}$であることが観測された.このとき,
- 小球Cを投げ上げた地点の高さを求めよ.
- 地面に小球Cが到達するのは,投げ上げてから何秒後か求めよ.
前回の記事では,この問題を鉛直下向きに軸をとって考えました.
しかし,初めに決める「向き」は「鉛直上向き」だろうが,「鉛直下向き」だろうが構いませんし,なんなら斜めに軸をとっても構いません.
とはいえ,鉛直投げ上げの問題では,物体は鉛直方向にしか運動しませんから,「鉛直上向き」か「鉛直下向き」に軸をとるのが自然でしょう.
「鉛直下向き」で考えた場合
[解答]
「鉛直下向き」を正方向とし,原点を小球Aを離した位置とます.また,
- 小球Cを投げ上げた地点の高さを$x[\mrm{m}]$
- 小球Cが地面に到達するまでの時間を$t[\mrm{s}]$
としましょう.
分かっている条件は
- 初速度:$v_{0}=+19.6[\mrm{m/s}]$
- 地面に到達したときの速度:$v=-98[\mrm{m}]$
- 重力加速度:$g=+9.8[\mrm{m/s^2}]$
ですね.
(1) 変位$x$が欲しいので,変位$x$と速度$v$の関係式である$v^2-{v_0}^2=2ax$を使うと,
を得ます.
すなわち,小球Bを投げ下ろした高さは$470.4[\mrm{m}]$です.
(2) 時間$t$が欲しいので,時間$t$と速度$v$の関係式である$v=v_0+at$を使うと,
を得ます.
すなわち,手を離して12秒後に小球Cは地面に到達することが分かります.
「鉛直上向き」で考えた場合
[解答]
「鉛直上向き」を正方向とし,原点を小球Aを離した位置とます.また,
- 小球Cを投げ上げた地点の高さを$x[\mrm{m}]$
- 小球Cが地面に到達するまでの時間を$t[\mrm{s}]$
としましょう.
分かっている条件は
- 初速度:$v_{0}=+19.6[\mrm{m/s}]$
- 地面に到達したときの速度:$v=-98[\mrm{m}]$
- 重力加速度:$g=-9.8[\mrm{m/s^2}]$
ですね.先ほどと軸の向きが逆なので,これらの正負がすべて逆になるのがポイントです.
(1) 変位$x$が欲しいので,変位$x$と速度$v$の関係式である$v^2-{v_0}^2=2ax$を使うと,
を得ます.
$x<0$となりましたが,「鉛直上向き」に軸をとっていますから,地面が負の位置になっているのが正しいですね.
すなわち,小球Bを投げ下ろした高さは$470.4[\mrm{m}]$です.
(2) 時間$t$が欲しいので,時間$t$と速度$v$の関係式である$v=v_0+at$を使うと,
を得ます.
すなわち,手を離して12秒後に小球Cは地面に到達することが分かります.
軸を「鉛直下向き」「鉛直上向き」にとってときましたが,同じ答えが求まりましたね!
「鉛直下向き」の場合と「鉛直上向き」の場合では,向きが全て逆になることにより,向きを持つ量の正負が全て逆になるだけで結局考え方は同じである.軸の向きはどのようにとってもよいが,考えやすいように設定するのがよい.
そのため,軸の向きの設定を曖昧にするとプラスマイナスを混同してしまい,誤った答えになるので最初に軸の向きを明確に定めておくことが大切である.