等加速度直線運動を考える際は
- 速度$v$と時間$t$の関係式
- 変位$x$と時間$t$の関係式
- 速度$v$と変位$x$の関係式
の3つの基本公式が大切で,「何が分かっていて,何が欲しいのか」を意識できていれば,どの公式を使えば良いかが自然に見えてきます.
この記事では
- 等加速度直線運動の3つの基本公式
- 等加速度直線運動の3つの基本公式の導出
を順に解説します.
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等加速度直線運動の3つの基本公式と具体例
等加速度直線運動に関する3つの基本公式は以下のとおりです.
これらの公式は等加速度直線運動の命とも言えるような非常に重要な式です.それぞれ
- $v$と$t$の関係式
- $x$と$t$の関係式
- $v$と$x$の関係式
となっていることに注目すると,例えば「$v$が分かっていて$t$が欲しいときには1つ目の公式を使う」といったように,どの公式を使えば良いのか分かりますね.
また,最初の速度$v_0$を初速度と呼びます.
具体例1(速度と時間)
静止している物体を押して,東向きに大きさ$2\mrm{m/s^2}$の加速度で等加速度直線運動をさせた.3秒後の物体の速度を求めよ.
3秒後の速度を求めるので,速度$v$と時間$t$の関係式である$v=v_{0}+at$を使えば良いですね.
また,速度や加速度は向きも込みで考えるので,東向きを正方向として考えましょう.
東向きを正方向とし,3秒後の速度を$v[\mrm{m/s}]$とする.
初速度は$0\mrm{m/s}$である.また,加速度は正方向(東向き)に$2\mrm{m/s^2}$である.
このとき,
なので,3秒後に物体は東向きに$6\mrm{m/s}$の速度で運動している.
速度は向きも込めて考えるので,この問題では「東向きに」のように向きも含めて答えなければならないことに注意しましょう.
具体例2(変位と時間)
東向きに$3\mrm{m/s}$で運動している物体を押して,西向きに大きさ$2\mrm{m/s^2}$の加速度で等加速度直線運動をさせた.4秒後の物体の位置を求めよ.
4秒後の位置を求めるので,変位$x$と時間$t$の関係式である$x=v_{0}t+\dfrac{1}{2}at^2$を使えば良いですね.
この問題でも東向きを正方向として考えましょう.このとき,西向きの速度や加速度は負とみなすことができますね.
東向きを正方向とし,最初の位置を$0\mrm{m}$,4秒間での変位を$x[\mrm{m}]$とする.
初速度は正方向(東向き)に$3\mrm{m/s}$である.また,加速度は正方向(東向き)に$-2\mrm{m/s^2}$である.
このとき,
なので,4秒後に物体は最初の位置から西向きに$4\mrm{m}$の位置にある.
速度・加速度などの向きを全て西向きに揃えても解けます.
具体例3(変位と速度)
東向きに$3\mrm{m/s}$で運動している物体を押して,西向きに大きさ$1\mrm{m/s^2}$の加速度で等加速度直線運動をさせた.最初の位置から西向きに$8\mrm{m}$の位置に物体がきたときの速度を求めよ.
西向きに$3\mrm{m}$の位置にきたときの速度を求めるので,変位$x$と速度$v$の関係式である$v^2-{v_0}^2=2ax$を使えば良いですね.
東向きを正方向とし,最初の位置を$0\mrm{m}$,$-8\mrm{m}$の位置(最初の位置から西向きに$8\mrm{m}$の位置)に物体がきたときの速度を$v[\mrm{m/s}]$とする.
初速度は正方向(東向き)に$3\mrm{m/s}$である.また,加速度は正方向(東向き)に$-1\mrm{m/s^2}$である.
このとき,
である.初速度は正で位置は$0\mrm{m}$であることに注意すると,$v<0$なので$v=-5$である.
よって,最初の位置から西向きに$8\mrm{m}$の位置に物体がきたときの速度は西向き$5\mrm{m/s}$である.
最初は東向きに運動しますが,加速度が西向きなのでどんどん減速し,折り返して西向きの運動を始めるわけですね.
もう一方の$v=5$は開始以前にも等加速度直線運動をしていたとしたときの,$-8\mrm{m}$の位置を通過したときの速度となっています.
等加速度直線運動の3つの基本公式の導出
速度$v_0$の時刻を$0$とし,等加速度直線運動の公式を導出しましょう.
速度と時間の関係式の導出
つまり,加速度が$a$であるとは「時間が1経過するごとに速度が$+a$される」ということなので,「時間が$t$経過すると速度が$at$増加する」ということになります.
いま,加速度$a$の物体は時間$t$経過して速度が$+at$されます.
これを初速度$v_0$に加えると,$t$秒後の速度$v=v_0+at$が得られますね.
変位と時間の関係式の導出
公式$x=v_0t+\dfrac{1}{2}at^2$はいま導出した$v=v_0+at$から導くことができます.
まずは時間$t$を$n$分割した時間幅$\varDelta{t}=\dfrac{t}{n}$を用意します.
物体の初速度は$v_0$なので,$\varDelta{t}$が微小なら,時刻0から時刻$\varDelta{t}$の間の速度はほぼ$v_0$といえます.
よって,この間に進む距離はほぼ$v_0\times\Delta t$なので,下図の$vt$平面上の長方形の面積だけ移動しているとみなせます.
時刻$\varDelta{t}$での物体の速度は$v_0+a\varDelta{t}$なので,$\varDelta{t}$が微小なら,時刻$\varDelta{t}$から時刻$2\varDelta{t}$の間の速度はほぼ$v_0+a\varDelta{t}$といえます.
よって,この間に進む距離はほぼ$(v_0+a\varDelta{t})\times\varDelta{t}$なので,下図の$vt$平面上の長方形の面積だけ移動しているとみなせます.
これを繰り返すと,時刻$t$までに下図の$vt$平面上の台形の面積だけ移動しているとみなせます.
よって,時間$t$経過したときの変位$x$は
と近似できることになります.
この式$(*)$は$x$の近似ですが,$\varDelta{t}$をどんどん小さくしていけば,近似との誤差はどんどん小さくなり本当の$x$に近付きますね.
そこで,$\varDelta{t}$を$0$に近づけると$(*)$は下図の台形の面積に近付きます.
よって,この台形の面積は
なので,公式$x=v_0t+\dfrac{1}{2}at^2$が得られます.
数学ではいまの考え方を「区分求積法」と言いますが,数学IIIの内容なのでここでは説明しません.
変位と速度の関係式の導出
公式$v^2-{v_0}^2=2ax$は上の2つの公式から$t$を消去すれば得られます.つまり,1つ目の$t$と$v$の関係式$v=v_0+at$から
が成り立ち,これを2つ目の$t$と$x$の関係式$x=v_0t+\dfrac{1}{2}at^2$に代入すれば,
となり,この両辺に$2a$をかけて$v^2-{v_0}^2=2ax$が得られます.
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