ベクトル (vector)は図形的な要素を含むため図形が苦手な人がそのままベクトルも苦手になってしまう傾向にあります.
しかし,実はベクトルはそれほど深く図形的な考察をしなくても計算すれば解ける便利な道具です.
実際,図形の問題にベクトルに持ち込んで機械的に計算すれば解けることも多く,図形が苦手な人ほどベクトルをしっかり学びたいところです.
また,ベクトルの基礎事項はそれほど多くなく,それらを繰り返し使っていくだけなので,実はコストパフォーマンスの良い分野でもあります.
なお,高校物理ではベクトルは気持ち程度にしか扱いませんが,大学以上の物理ではベクトルを積極的に使って話を進めていきます.
そのため,とくに理系の人はしっかりベクトルをさっと扱えるようにしておくことはとても大切です.
一連の記事はこちら
【ベクトル1|「ベクトル」ってなに?ゼロから考え方を説明】←今の記事
【ベクトル2|ベクトルの[内積]は何がどう便利なのか?】
【ベクトル3|ベクトルの[内積]の基本性質のまとめ】
【ベクトル4|[位置ベクトル]と内分・外分に関するベクトル】
【ベクトル5|具体例から[ベクトル方程式]の考え方を理解する】
【ベクトル6|一次独立はベクトルの和の係数が等しい条件】
目次
ベクトルとは
まずはベクトルのイメージを掴みましょう.
ベクトルのイメージ
ボールを床で転がすと,そのボールの転がる向きを矢印で表現することがあります.
例えば,
- 下図では,矢印が長いAの方がの方が速く転がっているように感じます.
- 下図では,異なる方向にボールが転がっているように感じます.
このように,矢印1本で
- 大きさ
- 向き
を同時に表現できるわけですね.
ベクトル
実は,この矢印こそまさにベクトルなのです.
ベクトル (vector)とは
- 向き (direction)
- 長さ (length)
の2つを併せたものをいい,有向線分(矢印)で表す.点Aから点Bへ向かう有向線分(矢印)を$\Ve{AB}$と表し,Aを始点 (start point),Bを終点 (end point)という.
また,$\Ve{AA}$のように始点と終点が一致するベクトルを零ベクトル (zero vector)といい,$\Ve{0}$と表す.
ベクトルは「向き」と「長さ」をもっているものなので,平行移動して一致する矢印は同じベクトルとみなします.
つまり,下図においては$\Ve{AB}=\Ve{CD}$となるわけですね.
ベクトルの長さ
ベクトルの長さを以下の記号で表します.
ベクトル$\Ve{AB}$の長さを$|\Ve{AB}|$と表す.
また,長さが1のベクトルを単位ベクトル (unit vector)という.
$|\ve{a}|$は「ベクトル$\ve{a}$の長さ」と読みます.
絶対値の記号$|\quad|$と同じ記号ではありますが,(絶対値とイメージは同じですが)「絶対値」とは読まないのが普通です.
ベクトルは「向き」と「長さ」の2つの要素をもったもので,矢印(有向線分)を用いて図示する.
ベクトルの計算
次に
- ベクトルに実数をかける
- ベクトルの和と差
といったベクトルの計算について説明します.
ベクトルに実数をかける
ベクトルに実数をかけてできるベクトルを以下のように定義します.
正の数$k$とベクトル$\ve{a}$に対して,
- $k\ve{a}$を$\ve{a}$の向きはそのままにし,長さを$k$倍したベクトルと定め,
- $-k\ve{a}$を$\ve{a}$の向きを逆向きにし,長さを$k$倍したベクトルと定める.
また,$0\ve{a}=\ve{0}$と定める.さらに,$(-1)\ve{a}$を$-\ve{a}$と表し,$\ve{a}$の逆ベクトル (inverse vector)という.
例えば,
ですね.
平行なベクトル
また,2つのベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$について,一方のベクトルを引き伸ばしたり縮めたりして他方のベクトルと等しくなるとき,2つのベクトルは平行であるといいます.
きちんと定義を書くと以下のようになります.
零ベクトルでないベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$に対して,
を満たす実数$k$が存在するとき,$\ve{a}$と$\ve{b}$は平行 (parallel)であるという.
図形の平行と同じイメージですが,このように等式で表せるのがベクトルの良いところです.
単位ベクトル
零ベクトルでないベクトル$\ve{a}$のベクトルの長さは$|\ve{a}|$なので,$\ve{a}$に$\frac{1}{|\ve{a}|}$をかけると長さが1のベクトルとなります.
また,$\ve{a}$に平行な単位ベクトルは$\ve{a}$に同じ向きのものと逆向きのものがありますから,以下が成り立ちます.
零ベクトルでないベクトル$\ve{a}$に対して,$\ve{a}$平行な単位ベクトルは$\frac{1}{|\ve{a}|}\ve{a}$, $-\frac{1}{|\ve{a}|}\ve{a}$は$\ve{a}$である.
ベクトルの和と差
ベクトルの和は以下のように定義します.
ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$に対して,$\ve{a}$の終点と$\ve{b}$を一致させたとき,$\ve{a}+\ve{b}$を
- 「$\ve{a}$の始点」を$\ve{a}+\ve{b}$の始点
- 「$\ve{b}$の終点」を$\ve{a}+\ve{b}$の終点
とするベクトルと定める.また,$\ve{a}-\ve{b}=\ve{a}+(-\ve{b})$と定める.
つまり,
- 和$\ve{a}+\ve{b}$は$\ve{a}$の矢印と$\ve{b}$の矢印を繋げてできるベクトル
- 差$\ve{a}0\ve{b}$は$\ve{a}$の矢印と$\ve{b}$の逆ベクトル$-\ve{b}$の矢印を繋げてできるベクトル
と定義するわけですね.
ベクトルの基本計算は実数倍$k\ve{a}$と和$\ve{a}+\ve{b}$である.
直交座標上のベクトル
平面図形を適当に$xy$平面におくことで座標計算ができて便利になることも多かったように,平面上のベクトルも$xy$平面上で考えることで計算が便利になることはよくあります.
ベクトルの表し方
$xy$平面上のベクトルは次のように成分で表します.
$xy$平面上の2点$\mrm{A}(a_1,a_2)$, $\mrm{B}(b_1,b_2)$に対して,$\Ve{AB}$を
または
と表す.
高校数学の教科書では後者のように座標のように表すことが多いですが,大学以上では前者のように縦に成分を並べて表すことが普通になります.
ベクトルの計算をするときには縦に成分を並べた方が見やすいので,このブログの記事ではこの前者の縦に成分を並べてベクトルを表します.
さて,上の定義から分かるように,$xy$平面上のベクトル$\pmat{a\\b}$は
- $x$軸方向にちょうど$+a$の長さ
- $y$軸方向にちょうど$+b$の長さ
を持つベクトルというわけですね.
[三平方の定理]より,座標上のベクトルの長さについては,以下のようになりますね.
$xy$平面上のベクトル$\ve{x}=\pmat{a\\b}$に対して,
である.
ベクトルの計算
上でみた
- 実数をベクトルにかける
- ベクトルとベクトルの和,差をとる
ということを$xy$平面上で考えると,以下のようになります.
実数$k$と$xy$平面上のベクトル$\ve{a}=\pmat{x\\y}$に対して,
である.
$xy$平面上のベクトル$\ve{a}=\pmat{a_1\\a_2}$, $\ve{b}=\pmat{b_1\\b_2}$に対して,
である.
座標上で考えると,どちらもスッキリ表せますね.
座標上のベクトルは成分を用いて表すことができ,ベクトルの計算もしやすい.
ベクトルには「内積」というものを考えることがよくありますが,最初はどうして内積を定義するのか分からず困惑してしまう人が少なくありません.
次の記事では,「内積」を考えるとどのように便利なのか,というところから内積の定義を説明します.