2つのベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$の内積は,$\ve{a}$, $\ve{b}$のなす角$\theta$を用いて
と定義されるのでした.
内積はベクトルの計算で頻繁に現れるので,内積の性質を知っておくことは大切です.
記事では
- 内積の値
- 直交座標上の内積
- 内積の性質
を順に説明します.
「ベクトル」の一連の記事
内積の値
まずは内積の値について考えましょう.
内積のとりうる値の範囲
また,$\ve{a}=\ve{0}$または$\ve{b}=\ve{0}$なら全て$0$で等しく,$\ve{a}=\ve{0}$かつ$\ve{b}=\ve{0}$なら
なので,
- $\ve{a}\cdot\ve{b}\leqq|\ve{a}||\ve{b}|$の等号成立条件は,$\ve{a}$と$\ve{b}$が同じ向きであること
- $-|\ve{a}||\ve{b}|\leqq\ve{a}\cdot\ve{b}$の等号成立条件は,$\ve{a}$と$\ve{b}$が逆向きであること
となりますね.
ベクトルの長さと内積
同じベクトル$\ve{a}$と$\ve{a}$のなす角は$0^\circ$なので,ベクトルの長さ$|\ve{a}|$は以下のように内積を用いても表せます.
ベクトル$\ve{a}$に対して,$\ve{a}\cdot\ve{a}=|\ve{a}|^2$が成り立つ.
両辺で正の平方根をとれば$|\ve{a}|=\sqrt{\ve{a}\cdot\ve{a}}$とも書けますね.
内積の正負となす角の大きさ
ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$が零ベクトル$\ve{0}$でなければ,$|\ve{a}|$と$|\ve{b}|$がともに正なので,内積$\ve{a}\cdot\ve{b}=|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta}$の正負は$\cos{\theta}$の正負によって決まりますね.
$\theta$は$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$を動き,$\theta=90^\circ$で$\cos{\theta}$が正から負へと移りますから,以下のようにまとめることができます.
零ベクトル$\ve{0}$でないベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$のなす角$\theta$に対して,以下が成り立つ.
- $0^\circ\leqq\theta<90^\circ$であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}>0$は同値
- $\theta=90^\circ$であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}=0$は同値
- $90^\circ<\theta\leqq180^\circ$であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}<0$は同値
このことから,ベクトルの内積を考えれば,鋭角か直角か鈍角かが判定できるわけですね.
直交座標上の内積
$xy$平面上の成分で表されたベクトルの内積はとても簡単に計算することができます.
[直交座標上の内積] $xy$平面上のベクトル$\ve{a}=\pmat{a_1\\a_2}$, $\ve{b}=\pmat{b_1\\b_2}$に対して,
が成り立つ.
つまり,2つのベクトルの第1成分同士をかけたものと第2成分同士をかけたものを足せば,それが内積に一致するというわけですね.
$\ve{a}=\pmat{a_1\\a_2}$, $\ve{b}=\pmat{b_1\\b_2}$より
- $|\ve{a}|^2={a_1}^2+{a_2}^2$
- $|\ve{b}|^2={b_1}^2+{b_2}^2$
であり,$\ve{a}-\ve{b}=\pmat{a_1-b_1\\a_2-b_2}$より
である.これらを内積の展開公式$|\ve{a}-\ve{b}|^2=|\ve{a}|^2-2\ve{a}\cdot\ve{b}+|\ve{b}|^2$に代入して,
であり,整理すると$\ve{a}\cdot\ve{b}=a_1a_2+b_1b_2$となる.
例えば,次のような問題も簡単に解くことができますね.
$\ve{a}=\pmat{1\\3}$, $\ve{b}=\pmat{2\\-1}$に対して,$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角は鋭角,直角,鈍角のどれか.
[直交座標上の内積]より,
である.よって,$\ve{a}\cdot\ve{b}$の内積は負だから,$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角は鈍角である.
内積の計算
最後に,内積の計算で大切な公式を説明します.
この証明も[直交座標上の内積]の公式を使うと簡単です.
ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$, $\ve{c}$と実数$k$に対して,以下が成り立つ.
- $\ve{a}\cdot\ve{b}=\ve{b}\cdot\ve{a}$
- $k(\ve{a}\cdot\ve{b})=(k\ve{a})\cdot\ve{b}=\ve{a}\cdot(k\ve{b})$
- $\ve{a}\cdot(\ve{b}+\ve{c})=\ve{a}\cdot\ve{b}+\ve{a}\cdot\ve{c}$
ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$, $\ve{c}$を$xy$平面上におき,それぞれ
とする.
(1) [直交座標上の内積]の公式より
が成り立つ.
(2) [直交座標上の内積]の公式より
だから,まとめて$k(\ve{a}\cdot\ve{b})=(k\ve{a})\cdot\ve{b}=\ve{a}\cdot(k\ve{b})$が成り立つ.
(3) [直交座標上の内積]の公式より
だから,$\ve{a}\cdot(\ve{b}+\ve{c})=\ve{a}\cdot\ve{b}+\ve{a}\cdot\ve{c}$が成り立つ.
内積の定義$\ve{a}\cdot\ve{b}=|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta}$は図形的な考察をする際には有効ですが,実際に内積を計算する場合にはベクトルが$xy$平面上にあれば[直交座標上の内積]の公式の方が便利便利ですね.
コメント