ベクトル3|ベクトルの[内積]の基本性質の総まとめ

前回の記事では,内積を定義すると$|\ve{a}+\ve{b}|^2$を$(a+b)^2$と同じように展開することができて,とても便利なことを説明しました.

この記事では,前回の記事では説明しなかった内積が満たす性質を説明します.

ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$について,内積$\ve{a}\cdot\ve{b}$が分かれば,$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角が鋭角か直角か鈍角かが分かります.

また,内積は計算もしやすく

  • 交換法則
  • 分配法則

を満たすため,普通の掛け算のように扱えることも多いです.

内積の値

内積の定義については前回の記事を参照してください.

まずは内積の値について考えましょう.

内積のとりうる値の範囲

ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$の内積$\ve{a}\cdot\ve{b}$のとりうる値の範囲は以下のようになっています.

零ベクトルでないベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$に対して,

\begin{align*} -|\ve{a}||\ve{b}|\leqq\ve{a}\cdot\ve{b}\leqq|\ve{a}||\ve{b}| \end{align*}

が成り立つ.さらに,等号成立条件について

  • $\ve{a}\cdot\ve{b}\leqq|\ve{a}||\ve{b}|$の等号成立条件は,$\ve{a}$と$\ve{b}$が同じ向きであること
  • $-|\ve{a}||\ve{b}|\leqq\ve{a}\cdot\ve{b}$の等号成立条件は,$\ve{a}$と$\ve{b}$が逆向きであること

である.

$\ve{a}$, $\ve{b}$のなす角を$\theta$とすると,定義より

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b} =|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta} \end{align*}

であり,$-1\leqq\cos{\theta}\leqq1$なので

\begin{align*} -|\ve{a}||\ve{b}|\leqq|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta}\leqq|\ve{a}||\ve{b}| \end{align*}

である.よって,

\begin{align*} -|\ve{a}||\ve{b}|\leqq\ve{a}\cdot\ve{b}\leqq|\ve{a}||\ve{b}| \end{align*}

が成り立つ.

等号成立条件について

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b}=|\ve{a}||\ve{b}| \iff&\cos{\theta}=1 \\\iff&\theta=0^\circ \end{align*}

である.$\theta$は$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角だったから,$\ve{a}$と$\ve{b}$は同じ向きのベクトルである.

また,

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b}=-|\ve{a}||\ve{b}| \iff&\cos{\theta}=-1 \\\iff&\theta=180^\circ \end{align*}

である.$\theta$は$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角だったから,$\ve{a}$と$\ve{b}$は逆向きのベクトルである.

なお,$\ve{a}$, $\ve{b}$の少なくとも一方が零ベクトルなら,内積は常に0ですね.

ベクトルの長さと内積

同じベクトル$\ve{a}$と$\ve{a}$のなす角は$0^\circ$なので,ベクトルの長さ$|\ve{a}|$は以下のように内積を用いても表せます.

ベクトル$\ve{a}$に対して,$\ve{a}\cdot\ve{a}=|\ve{a}|^2$が成り立つ.

内積の定義より

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{a} =|\ve{a}||\ve{a}|\cos{0^\circ} =|\ve{a}|^2 \end{align*}

が成り立つ.

これは$|\ve{a}|=\sqrt{\ve{a}\cdot\ve{a}}$とも書けますね.

内積の正負となす角の大きさ

ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$が零ベクトルでなければ,内積$\ve{a}\cdot\ve{b}=|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta}$は,$|\ve{a}|$と$|\ve{b}|$がともに正であることから,$\cos{\theta}$によって正負が決まりますね.

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$\theta$は$0^\circ\leqq\theta\leqq180^\circ$を動き,$\theta=90^\circ$で$\cos{\theta}$が正から負へと移りますから,このことは以下のようにまとめることができます.

零ベクトルでないベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$に対して,以下が成り立つ.

  • $\ve{a}\cdot\ve{b}$のなす角が鋭角であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}>0$は同値
  • $\ve{a}\cdot\ve{b}$のなす角が直角であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}=0$は同値
  • $\ve{a}\cdot\ve{b}$のなす角が鈍角であることと,$\ve{a}\cdot\ve{b}<0$は同値

このことから,ベクトルの内積を考えれば,鋭角か直角か鈍角かが判定できるわけですね.

内積のとりうる値は$-|\ve{a}||\ve{b}|\leqq\ve{a}\cdot\ve{b}\leqq|\ve{a}||\ve{b}|$であり,$\ve{a}\cdot\ve{b}$の正負によって$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角が鋭角,直角,鈍角のいずれであるかが判断できる.また,$\ve{a}\cdot\ve{a}=|\ve{a}|^2$は内積とベクトルの長さの関係として基本的である.

直交座標上の内積

内積は$xy$平面などの座標がなくても定義することができますが,$xy$平面上の成分で表されたベクトルの[内積]は以下のようにとても簡単に計算することができます.

[直交座標上の内積] $xy$平面上のベクトル$\ve{a}=\pmat{a_1\\a_2}$, $\ve{b}=\pmat{b_1\\b_2}$に対して,

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b}=a_1b_1+a_2b_2 \end{align*}

が成り立つ.

$\ve{a}=\pmat{a_1\\a_2}$, $\ve{b}=\pmat{b_1\\b_2}$より

\begin{align*} &|\ve{a}|^2=a_1^2+a_2^2, \\&|\ve{b}|^2=b_1^2+b_2^2 \end{align*}

であり,$\ve{a}-\ve{b}=\pmat{a_1-b_1\\a_2-b_2}$なので,

\begin{align*} |\ve{a}-\ve{b}|^2 =&(a_1-b_1)^2+(a_2-b_2)^2 \\=&(a_1^2-2a_1b_1+b_1^2)+(a_2^2-2a_2b_2+b_2^2) \end{align*}

である.これらを内積の展開公式$|\ve{a}-\ve{b}|^2=|\ve{a}|^2-2\ve{a}\cdot\ve{b}+|\ve{b}|^2$に代入して,

\begin{align*} (a_1^2-2a_1b_1+&b_1^2)+(a_2^2-2a_2b_2+b_2^2) \\=&(a_1^2+a_2^2)-2\ve{a}\cdot\ve{b}+b_1^2+b_2^2 \end{align*}

であり,整理すると$\ve{a}\cdot\ve{b}=a_1a_2+b_1b_2$となる.

つまり,2つのベクトルの$x$成分同士をかけたものと$y$成分同士をかけたものを足せば,それが内積に一致するというわけですね.

この公式から内積はすぐに求まるので,以下のようになります.

$\ve{a}=\pmat{1\\3}$, $\ve{b}=\pmat{2\\-1}$に対して,$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角は鋭角,直角,鈍角のどれか.

[直交座標上の内積]より,

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b} =&\pmat{1\\3}\cdot\pmat{2\\-1} \\=&1\cdot2+3\cdot(-1) =-1 \end{align*}

である.よって,$\ve{a}\cdot\ve{b}$の内積は負だから,$\ve{a}$と$\ve{b}$のなす角は鈍角である.

このように,成分で表されている2つのベクトルの内積はとても簡単に求まりますね.

座標上の内積はベクトルの成分を用いて簡単に計算できる.

内積の計算

最後に,内積の計算で大切な公式を説明します.

この証明も[直交座標上の内積]の公式を使うと簡単です.

ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$, $\ve{c}$と実数$k$に対して,以下が成り立つ.

  • $\ve{a}\cdot\ve{b}=\ve{b}\cdot\ve{a}$
  • $k(\ve{a}\cdot\ve{b})=(k\ve{a})\cdot\ve{b}=\ve{a}\cdot(k\ve{b})$
  • $\ve{a}\cdot(\ve{b}+\ve{c})=\ve{a}\cdot\ve{b}+\ve{a}\cdot\ve{c}$

ベクトル$\ve{a}$, $\ve{b}$, $\ve{c}$を$xy$平面上におき,それぞれ

\begin{align*} \ve{a}=\pmat{a_1\\a_2},\quad \ve{b}=\pmat{b_1\\b_2},\quad \ve{c}=\pmat{c_1\\c_2} \end{align*}

とする.

(1) [直交座標上の内積]の公式より

\begin{align*} \ve{a}\cdot\ve{b} =&a_1b_1+a_2b_2 \\=&b_1a_1+b_2a_2 =\ve{b}\cdot\ve{a} \end{align*}

が成り立つ.

(2) [直交座標上の内積]の公式より

\begin{align*} k(\ve{a}\cdot\ve{b}) =&k(a_1b_1+a_2b_2) \\=&(ka_1)b_1+(ka_2)b_2 \\=&(k\ve{a})\cdot\ve{b}, \\k(\ve{a}\cdot\ve{b}) =&k(a_1b_1+a_2b_2) \\=&a_1(kb_1)+a_2(kb_2) \\=&\ve{a}\cdot(k\ve{b}) \end{align*}

だから,まとめて$k(\ve{a}\cdot\ve{b})=(k\ve{a})\cdot\ve{b}=\ve{a}\cdot(k\ve{b})$が成り立つ.

(3) [直交座標上の内積]の公式より

\begin{align*} \ve{a}\cdot(\ve{b}+\ve{c}) =&a_1(b_1+c_1)+a_2(b_2+c_2) \\=&(a_1b_1+a_2b_2)+(a_1c_1+a_2c_2) \\=&\ve{a}\cdot\ve{b}+\ve{a}\cdot\ve{c} \end{align*}

だから,$\ve{a}\cdot(\ve{b}+\ve{c})=\ve{a}\cdot\ve{b}+\ve{a}\cdot\ve{c}$が成り立つ.

内積の定義$\ve{a}\cdot\ve{b}=|\ve{a}||\ve{b}|\cos{\theta}$は図形的な考察をする際には有効ですが,実際に内積を計算する場合にはベクトルが$xy$平面上にあれば[直交座標上の内積]の公式がとても便利ですね.

内積は交換法則や分配法則を満たす.

次の記事では,図形の内分点や外分点に関するベクトルについて説明します.

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