複素数は$a+bi$ ($a$, $b$は実数,$i$は虚数単位)として表される数のことをいうのでした.
この$a+bi$という書き方は実部が$a$で虚部が$b$というシンプルな表現で和や差を考える際には便利ですが,積や商を求める際には$a+bi$の表現では和や差のように単純に計算はできませんでした.
そこで,複素数を「極形式」という表し方をすると,複素数の積や商を簡単に計算することができます.
とくに$(a+bi)^n$など複素数の指数を計算しようとすると計算は非常に面倒ですが,極形式の指数計算は非常に簡単で瞬時に答えが求まります.
この極形式の指数計算に関する定理を[ド・モアブルの定理]といいます.
この[ド・モアブルの定理]の説明は次の記事に回すとして,この記事では極形式の基本を具体例を用いて説明します.
一連の記事はこちら
【複素数1|虚数単位って一体なに?複素数の考え方と基礎知識】
【複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】
【複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】←今の記事
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】
【複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
【複素数7|複素平面上の拡大縮小/回転は複素数をかけろ!】
絶対値と偏角
極形式を説明するには,
- 絶対値
- 偏角
をしっかり理解しておく必要があります.
絶対値
絶対値については前回の記事で説明したので,ここでは詳しくは説明しませんが,重要事項を確認しておきましょう.
【前回の記事:複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】
複素数を「実数$a$, $b$を用いて$a+bi$と表される数」と定義しただけでは直感的に理解するのは難しいですが,複素数$a+bi$を$xy$平面上の点$(x,y)$と同一視することによって視覚的に理解できるようになります.これにより,複素数の絶対値も実数と同様に原点との距離として定義することができます.
まずは定義です.
複素数$z$に対して,複素平面上の0と点$z$の距離を$z$の絶対値といい,$|z|$で表す.
次に絶対値の値を求める公式です.
複素数$z=a+bi$に対して,
が成り立つ.
実数$a$に対しては$|a|^2=a^2$が成り立ちますが,複素数$z$に対しては$|z|^2=z\overline{z}$であって$|z|^2$と$z^2$は異なるのでしたね.
ともかく,極形式を考える際には,$|z|$は複素平面上の点$z$と原点の距離のことをいうことが重要です.
偏角
次に偏角について説明します.
「偏角」という言葉は三角関数を学んだ際に出てきましたが,この偏角と複素数で学ぶ偏角はほとんど同じです.
【三角関数1|三角関数/三角比の違いは?三角関数を定義しよう!】
直角三角形を用いて定義される三角比$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$は,三角形の内角の和が$180^\circ$であることから$0^\circ<\theta<90^\circ$でしか定義できませんでした.そこで,$xy$平面上で「偏角」を考えることにより&360^\circ&を超える角や負の角を定義でき,全ての実数$\theta$に対して$\sin{\theta}$, $\cos{\theta}$, $\tan{\theta}$を考えられるようになります.
それでは定義です.
複素平面上の原点0とは異なる点Pに対して,実軸の正方向からベクトル$\Ve{OP}$への有向角を(実軸正方向からの)点Pの偏角という.ただし,反時計回りを正とする.
「偏角」は単なる角度とは異なり,「向きがある」ということに注意してください.
そのため,偏角は
- $360^{\circ}$を超えるもの
- 負のもの
も考えることができるわけですね.
極形式
それでは本題の「極形式」の解説に移ります.
極形式の考え方
複素平面上に点$\mrm{P}(z)$をとったとき,どのように言えば点Pの位置が相手に伝わるでしょうか?
1つは前回の記事からここまでで見たように,
- $z$の実部$a$
- $z$の虚部$b$
を言えば下図の位置に点$\mrm{P}(z)$があることが分かります.
他に
- 点$\mrm{P}(z)$と原点0の距離$r$ ($r=|z|$)
- 点$\mrm{P}(z)$の偏角$\theta$
を言うことによっても,下図の位置に点Pがあることが分かります.
このとき,
- $z$の実部は$r\cos{\theta}$
- $z$の虚部は$r\sin{\theta}$
なので,
となることが分かりますね.これについて,以下のように定義します.
$r\geqq0$とし,$\theta$を実数とする.このとき,複素数の$r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$の表し方を極形式という.
極形式の例
それでは,極形式の例を考えましょう.
次の複素数$z$を極形式に書き直し,複素平面上に絶対値,偏角とともに点$\mrm{P}(z)$を図示せよ.
- $z=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $z=1-i$
- $z=-\sqrt{3}-3i$
問1
$z=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.なお,このような絶対値が1の場合は,単純に
と書いても構いません.さて,
- $z$は絶対値が1
- 偏角が$\dfrac{\pi}{3}$
と分かったので下図のようになります.
問2
$z=1-i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.
- $z$は絶対値が$\sqrt{2}$
- 偏角が$-\dfrac{\pi}{4}$
と分かったので下図のようになります.
問3
$z=-\sqrt{3}-3i$について,
なので,極形式に書き換えると,
となります.
- $z$は絶対値が$2\sqrt{3}$
- 偏角が$-\dfrac{2\pi}{3}$
と分かったので下図のようになります.
【次の記事:複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
極形式は複素数の積の計算と商の計算と非常に相性が良く,例えば$(1+i)^5$のような指数も慣れれば数秒で計算できます.次の記事では,極形式の計算の基本として[極形式の積]の公式,[極形式の逆数]の公式,[極形式の商]の公式を説明したのち,指数計算に関する[ド・モアブルの定理]を説明します.