前回の記事では
- 絶対値$r$(原点からの距離)
- 偏角$\theta$
の2つを用いて複素数を$r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$と表す方法である極形式を説明しました.
さて,極形式の良いところは
- 掛け算$r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})$
- 割り算$\dfrac{r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})}{s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})}$
が一瞬で計算できる点です.
この記事では
- 複素数の極形式の復習
- 複素数の極形式の積・商
- 複素数の極形式の積・商の証明
を順に説明します.
「複素数」の一連の記事
複素数の極形式の復習
複素数の極形式は次のように定義されるものでした.
複素数$z$について,絶対値を$r$,偏角を$\theta$とすると,
と表せる.この複素数の表し方を極形式(polar form)という.
詳しくは以下の記事を参照してください.

複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!
複素数の極形式の積・商
以下,複素数の極形式の掛け算・逆数・割り算を考えていきましょう.
極形式の積
極形式の積について,以下が成り立ちます.
[極形式の積] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
たとえば,複素数$z,w$が
と極形式で表されたとすると,積$zw$は
となります.
このように,
- 絶対値$r$, $s$の複素数をかければ,絶対値$rs$の複素数になる
- 偏角$\theta$, $\phi$の複素数をかければ,偏角$\theta+\phi$の複素数になる
というわけですね.
極形式の商
極形式の積と複素数の逆数を併せると,以下の極形式の商が成り立つことが分かります.
[極形式の商] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
たとえば,複素数$z,w$が
と極形式で表されたとすると,商$\dfrac{z}{w}$は
となります.
つまり,
- 絶対値$r$の複素数を,絶対値$s$の複素数で割れば,絶対値$\dfrac{r}{s}$の複素数になる
- 偏角$\theta$の複素数を,偏角$\phi$の複素数で割れば,偏角$\theta-\phi$の複素数になる
というわけですね.
なお,とくに$z=1$, $w=s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})$とすると,
と逆数もすぐに得られますね.
この逆数の公式を複素数の反転ということがあります.
複素数の極形式の積・商の公式の証明
上で紹介した2つの公式を証明しましょう.
極形式の積
三角関数の加法定理を使うことでシンプルに証明できます.
[極形式の積] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
三角関数の加法定理
より
を得る.
三角関数の加法定理について詳しくは以下の記事を参照してください.

加法定理の使い方を具体例から解説
極形式の商
商の公式は積の公式をもとに証明することができます.
[極形式の商] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
$u=\dfrac{z}{w}$とおいて$u$の極形式を
とする.このとき,$z=wu$なので,右辺で極形式の積の計算をすると
となって,$r=st$, $\theta=\phi+\psi$を得る.
よって,$t=\dfrac{r}{s}$, $\psi=\theta-\phi$なので,
を得る.
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