数学IIで2次方程式を解くためにちょこっと登場した複素数ですが,数学IIIではこの複素数が1つの大きな分野として登場します.
「複素数は存在しない数だ」という説明をする人もいますが,複素数は図示して「見る」ことができるので,一度イメージが分かってしまえば直感的に考えることができます.
しかし,複素数は現代科学ではなくてはならないものであり,たとえば身の回りのあらゆる電子機器は複素数の理論なくして作ることができないといって良いでしょう.
このように,複素数は存在しないどころか,非常に重要な役割を役割を担っています.
大学受験の先を見据えれば,複素数は大学以上の物理や数学では当たり前のように登場しますから,理系ならばしっかり扱えるようになっておきたい分野です.
一連の記事はこちら
【複素数1|虚数単位って一体なに?複素数の考え方と基礎知識】←今の記事
【複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】
【複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】
【複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
【複素数7|複素平面上の拡大縮小/回転は複素数をかけろ!】
複素数
さて,この分野の主役の複素数が何かをまず説明する必要がありますね.
虚数単位
正の数だろうが負の数だろうが,我々がこれまで触れてきた実数は2乗すると0以上の実数となるのでした.
そうすると,$x$の方程式$x^2=-1$の解はどのように考えれば良いでしょうか?
2乗して負の数$-1$になる実数はありませんから,方程式$x^2=-1$は実数解をもたないことは分かります.
そこで,「方程式$x^2=-1$の解を新たに定義しよう」と考えた人がいました.
$x$の方程式$x^2=-1$の解の1つを虚数単位 (imaginary unit)といい,$i$で表す.
要するに,$i^2=-1$となるような数$i$を新しく考えてやろうというわけです.
最初は虚数単位$i$がどういう数なのか直感的に理解することは難しいため,なんだか気持ち悪い印象をもってしまうのは,小学校以来ずっと実数に慣れ親しんできたことを考えると仕方がありません.
しかし,$i^2=-1$となる虚数単位$i$を定義するといいことはいくつかあります.
たとえば,実数の範囲で解をもたなかった$x$の方程式$x^2=-1$は虚数単位を用いて
と解くことができます.他にも,$x$の方程式$x^2-2x+2=0$は
と解くことができます.
このように,実数の範囲で解くことができなかった方程式の解も表せるようになるのが,虚数単位を定義する大きなメリットの1つです.
実数は2乗すると0以上の実数となる.そこで,2乗して$-1$となる数を$i$と定義し,虚数単位という.虚数単位を用いると,実数の範囲では表せない$n$次方程式の解を表すことができる.
複素数
さて,ここまでで虚数単位について少し考えましたが,この虚数単位を用いて「複素数」を次のように定義します.
実数$a$, $b$を用いて,$z=a+bi$と表される数$z$を複素数 (complex number)といい,$a$を$z$の実数部分 (実部,real part),$b$を$z$の虚数部分 (虚部,imaginary part)という.
ここで,$a$, $b$は0であってもよいことに注意しましょう.つまり,
などは全て複素数です.したがって,実数も複素数の一種です.
そこで,以下のように新たに「虚数」を定義します.
実数$a$と,0でない実数$b$を用いて,$z=a+bi$と表される数を虚数 (imaginary number)という.さらに$a=0$であれば,$z$を純虚数 (pure imaginary number)という.
つまり,虚部が0でない複素数を虚数といい,そのもとで実部が0であるような虚数を純虚数というわけですね.たとえば,
などは全て虚数で,このうちでは$3i$のみが純虚数です.
さて,実数は虚部が0の複素数ですから,次のことが分かりますね.
複素数は実数または虚数である.
つまり,$i$が残っていなければ実数で,$i$が残っていれば虚数というわけですね.
このように,虚数と複素数は別物ですので,はっきり区別して理解しておいてください.
複素数は虚部が0であるかないかで実数と虚数の2つに分けられ,さらに実部が0である虚数を純虚数という.
複素数の基礎知識
複素数を定義したので,次は複素数の基礎知識を整理していきましょう.
複素数の相等
さて,2つの複素数$z$, $w$があるとき,この2つが等しいとは以下のように定義します.
2つの複素数$z$, $w$に対して,これらの実部同士,虚部同士がそれぞれ等しいとき,$z$と$w$は等しいと定義し,$z=w$と表す.
すなわち,$z=a+bi$, $w=c+di$ ($a$, $b$, $c$, $d$は実数)とするとき,$a=c$かつ$b=d$が成り立てば$z=w$としましょう,というわけですね.
直感的にも変な感じはしないでしょう.
たとえば,実数$a$, $b$に対して,複素数$z=2+3ai$, $w=3b-6i$が$z=w$を満たせば,
となります.
2つの複素数の実部同士と虚部同士を見比べて,いずれも等しいときにそれら2つの複素数が等しいという.
複素数の四則演算
複素数$z=a+bi$, $w=c+di$ ($a$, $b$, $c$, $d$は実数)に対して,四則計算は$i^2=-1$に注意すれば単純な文字計算と同様です.
すなわち,
となります.ただし,実数の場合と同じく,0で割ることは定義できないので,最後の$\dfrac{z}{w}$では$w\neq0$の場合のみ考えます.
ここで,
- $z+w=w+z$
- $zw=wz$
と和と積に関して交換法則が成り立つことは大切です.
たとえば,$z=2+3i$, $w=3-2i$に対して,
となります.また,実数の場合と同様に,
- 自然数$n$に対して$z^{n}$は$n$個の$z$の積
- $z^{0}=1$
- $z^{-n}$は$z^{n}$の逆数
と定義します.
複素数の四則演算は$i^2=-1$に気を付ければ実数の場合と同様である.
共役複素数
最後に「共役複素数」を定義しましょう.
複素数$z=a+bi$ ($a$, $b$は実数)に対して,複素数$a-bi$を$z$の共役複素数といい,$\overline{z}$で表す.
要するに,虚部だけに$-1$をかけた複素数を共役複素数というわけですね.
たとえば,$z=1+3i$の共役複素数$\overline{z}$は$\overline{z}=1-3i$です.
複素数の実部と虚部
複素数$z$が与えられたとき,$z$と共役複素数$\overline{z}$を用いて$z$の実部と虚部を表すことができます.
複素数$z=a+bi$ ($a$, $b$は実数)に対して,
が成り立つ.
$z=a+bi$から$\overline{z}=a-bi$なので,
となるから,
が成り立つ.
虚部を消したければ$z+\overline{z}$を,実部を消したければ$z-\overline{z}$を考えればよいわけですから,覚えていなくても瞬時に導けますね.
$z$の実部と虚部は$z$と$\overline{z}$を用いて表せる.
共役複素数と四則演算
共役複素数は,四則演算に関してバラバラにできます.すなわち,以下が成り立ちます.
複素数$z$, $w$に対して,
が成り立つ.
$z=a+bi$, $w=c+di$ ($a$, $b$, $c$, $d$は実数)とすると,$\overline{z}=a-bi$, $\overline{w}=c-di$なので,
が成り立つことが分かります.
この定理から,任意の複素数$z_1,z_2,\dots,z_n$に対して,
が成り立ち,任意の自然数$n$と複素数$z$に対して,
が成り立つことが分かりますね(厳密には数学的帰納法).
共役複素数は四則演算に関して,いつでもバラバラにできる.
複素数$a+bi$ ($a$, $b$は実数)は$xy$平面上の点$(a.b)$と同一視することで,平面上に表すことができます.このように,$xy$平面に対応する複素数の平面を複素平面といい,複素平面を考えることで複素数を直感的に理解することができます.