前回の記事では,
- 2乗して$-1$になる虚数単位$i$
- $a$, $b$を用いて,$a+bi$と表される複素数
を定義しましたが,これだと直感的なイメージがわきにくいですね.
実は,複素数は平面上の点として表すことで,視覚的に理解できる「複素平面」というものがあります.
複素平面を考えて複素数を直感的に理解することで,複素数を使って様々なことができるようになります.
この記事では,複素平面の考え方を説明します.
一連の記事はこちら
【複素数1|虚数単位って一体なに?複素数の考え方と基礎知識】
【複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】←今の記事
【複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】
【複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
【複素数7|複素平面上の拡大縮小/回転は複素数をかけろ!】
複素平面
まずは複素平面の考え方から説明します.
複素平面の定義
複素平面は以下のように定義されます.
複素数$a+bi$を$xy$平面上の$(a,b)$と同一視して表す平面を複素平面(または複素数平面)という.複素平面では,$x$軸に対応する軸を実軸,$y$軸に対応する軸を虚軸という.
例えば,以下のようになります.
軸の“Re”を「実」と書いたり,“Im”を「虚」と書くことも多いです.
また,$xy$平面上の点Pが$(x,y)$を表すときに$\mrm{P}(x,y)$と書くように,複素平面上の点Pが複素数$z$を表すとき$\mrm{P}(z)$と書きます.
なお,本来は点と複素数は異なるものですが,複素平面上のすべての点は複素数と対応するので,「複素数$z$を表す点」を点$z$ということも多いです.
$a$, $b$を実数とするとき,$xy$平面上の点$(a,b)$を複素数$a+bi$と同一視することで,複素平面を考えることができる.また,$x$軸は実部に,$y$軸は虚部に対応するので,それぞれの軸を複素平面上では実軸,虚軸という.
例1(実軸対称)
例えば,$z=a+bi$とすると,$z$の共役複素数は$\overline{z}=a-bi$なので,
となり,複素平面上の複素数$z$の表す点と,$z$の共役複素数$\overline{z}$の表す点は実軸対称となります.
例2(原点対称)
例えば,$z=a+bi$とすると,$z$の$-1$倍は$-z=-a-bi$なので,
となり,複素平面上の複素数$z$の表す点と,$z$の$-1$倍の$-z$の表す点は原点対称となります.
例3(虚軸対称)
例えば,$z=a+bi$とすると,$z$の$-1$倍の共役複素数は$-\overline{z}=-a+bi$なので,
となり,複素平面上の複素数$z$の表す点と,$z$の$-1$倍の共役複素数$-\overline{z}$の表す点は原点対称となります.
複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,
- $\overline{z}$の表す点は,点Pと実軸対称
- $-z$の表す点は,点Pと原点対称
- $-\overline{z}$の表す点は,点Pと虚軸対称
である.
絶対値
実数にも「絶対値」というものがありましたが,複素数にも「絶対値」を考えることができます.
絶対値の定義
最初に,実数の場合の絶対値の定義を確認しておきましょう.
[実数の絶対値] 実数$a$に対して,数直線上の0と点$a$の距離を$a$の絶対値といい,$|a|$で表す.
このとき,絶対値の性質として
は成り立ちますが,こちらは定義ではないので注意してください.
例えば,「$x$の方程式$|x-2|+|x-4|=4$を解け」という問題は記述答案で書くならしっかり場合分けをするべきですが,答えを求めるだけなら絶対値を定義から数秒で求まります.
さて,この実数の絶対値と同様に,複素数の絶対値は以下のように定義されます.
[複素数の絶対値] 複素数$z$に対して,複素平面上の0と点$z$の距離を$z$の絶対値といい,$|z|$で表す.
実数も複素数も「絶対値」といえば,原点0との距離のことをいうわけですね.
絶対値の計算
それでは,複素数$z$の絶対値$|z|$がどのように計算できるのか考えましょう.
複素平面上の点$\mrm{P}(a+bi)$ ($a$, $b$は実数)は$xy$平面上の点$\mrm{P}(a,b)$と同一視されるのでした.
$xy$平面上の点$(a,b)$と原点$(0,0)$の距離は
なので,$|z|=\sqrt{a^2+b^2}$となります.両辺を2乗して$|z|^2=a^2+b^2$でもありますね.
さらに,$z$の共役複素数は$\overline{z}=a-bi$なので,
が成り立ちます.よって,$|z|^2=z\overline{z}$とも書くことができます.
以上をまとめると,以下のようになります.
複素数$z=a+bi$に対して,
が成り立つ.
ここで,$x$が実数なら$|x|^2=x^2$が成り立ちますが,$z$が複素数なら$|z|^2$と$z^2$は必ずしも等しくないということに注意してください.
また,等式$|z|^2=z\overline{z}$は$z$の実部,虚部が分かっていなくてもいつでも使えますね.
複素数$z=a+bi$ ($a$, $b$は実数)は$xy$平面上の点$(a,b)$と同一視されるので,0と$z$の距離$|z|$について$|z|^2=a^2+b^2$が成り立つ.また,$z\overline{z}=a^2+b^2$だから$|z|^2=z\overline{z}$でもある.
積の絶対値
実数$a$, $b$に対して$|ab|=|a||b|$が成り立つように,これは複素数に対しても同様に成り立ちます.
複素数$z$, $w$に対して,$|zw|=|z||w|$が成り立つ.
[証明]
$|zw|$, $|z||w|$はともに0以上なので,$|zw|^2=(|z||w|)^2$を示せば$|zw|=|z||w|$が成り立ちますね.
なので,$|zw|=|z||w|$が従います.
[証明終]
よって,$|z^n|$にこの公式を繰り返し用いれば,
となって,$|z^n|=|z|^n$が成り立つことも分かりますね(厳密に証明するには数学的帰納法を用いればよい).
【次の記事:複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】
複素数は$a+bi$ ($a$, $b$は実数)の形で表されるものですが,この形では積と商の計算が面倒なことが多いです.そこで,複素数を「極形式」の形に式変形すると,積と商の計算が簡単にできます.次の記事では,極形式の考え方を例を用いて説明します.