2つの複素数$z$, $w$について,
- $z$の絶対値は$r$,偏角は$\theta$
- $w$の絶対値は$s$,偏角は$\phi$
とすると,
- 積$zw$の絶対値は$rs$
- 積$zw$の偏角は$\theta+\phi$
となるのでした.
この[極形式の積]の公式の見方を少し変えることによって,複素平面上の[拡大縮小/回転]を考えることができます.
この記事では,複素平面上の
- 点の[拡大縮小/回転]
- ベクトルの[拡大縮小/回転]
について説明します.
一連の記事はこちら
【複素数1|虚数単位って一体なに?複素数の考え方と基礎知識】
【複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】
【複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】
【複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
【複素数7|複素平面上の拡大縮小/回転は複素数をかけろ!】←今の記事
点の拡大縮小と回転
複素平面上の点の[拡大縮小/回転]を
- 原点中心の場合
- 一般の点中心の場合
の2ステップで考えましょう.
原点中心の場合
冒頭で書いた[極形式の積]を公式の形で確認しておきましょう.
[極形式の積] 極形式で表された2つの複素数$z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$, $w=s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})$に対して,
が成り立つ.
この[極形式の積]の公式の見方を少し変えてみると,複素数$z$が表す点に対して,
- 原点$\mrm{O}(0)$からの距離を$s$倍
- 原点$\mrm{O}(0)$中心に偏角を$+\phi$
した点が複素数$zw$の表す点となっています.
このことは,以下のようにまとめることができますね.
[原点中心の点の回転] $s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,複素数
が表す点$\mrm{Q}(z’)$は
- 原点中心に$s$倍拡大
- 原点中心に$+\phi$回転
した点である.
要するに,複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,
- 原点からの距離を$s$倍したければ,$z$に$s$をかければよく
- 原点中心に偏角を$+\phi$したければ,$z$に$\cos{\phi}+i\sin{\phi}$をかければよい
というわけですね.
一般の点中心の場合
次に,複素平面上の原点とは限らない点$\mrm{A}(\alpha)$中心の[拡大縮小/回転]を考えましょう.
複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,
- 点$\mrm{A}(\alpha)$からの距離を$s$倍
- 点$\mrm{A}(\alpha)$中心に偏角を$+\phi$
した点を$\mrm{Q}(z’)$としましょう.
このとき,点Aが原点$\mrm{O}(0)$にくるように点A, P, Qを平行移動すると,点Pは点$\mrm{P’}(z-\alpha)$,点Qは点$\mrm{Q’}(z’-\alpha)$に移ります.
点$\mrm{Q’}(w-\alpha)$は,点$\mrm{P’}(z-\alpha)$に対して
- 原点$\mrm{O}(0)$からの距離を$s$倍
- 原点$\mrm{O}(0)$中心に偏角を$+\phi$
した点となっているので,先ほどみた原点中心の[拡大縮小/回転]の考え方から
が成り立ちます.以上をまとめると,以下のようになりますね.
[点$\mrm{A}(\alpha)$中心の点の回転] $s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の点$\mrm{A}(\alpha)$,点$\mrm{P}(z)$に対して,複素数
が表す点$\mrm{Q}(z’)$は
- 原点中心に$s$倍拡大
- 原点中心に$+\phi$回転
した点である.
点$\mrm{A}(\alpha)$が原点にくるように全体を平行移動し,原点中心の[拡大縮小/回転]を考えればよいので,
を覚える必要はありませんね.
また,当然のことながら,$\alpha=0$の場合には
となって,原点中心の[拡大縮小/回転]と一致しています.
ベクトルの拡大縮小と回転
いまみた点$\mrm{A}(\alpha)$中心の[拡大縮小/回転]の式は
でしたが,これは複素平面上のベクトルの[拡大縮小/回転]と考えると,すっきり説明ができます.
複素平面上のベクトル
$xy$平面は複素平面と同一視できるので,$xy$平面上のベクトルは複素平面上のベクトルと同一視できます.例えば,
- $xy$平面上の点$\mrm{A}(1,1)$, $\mrm{B}(4,3)$に対して,$\Ve{AB}=(3,2)$
- 複素平面上の点$\mrm{A}(1+i)$, $\mrm{B}(4+3i)$に対して,$\Ve{AB}=3+2i$
が対応します.
このように,複素平面上の2点$\mrm{A}(\alpha)$, $\mrm{B}(\beta)$があるとき,$\Ve{AB}$は複素数$\beta-\alpha$で表すことができます.
ベクトルの拡大縮小/回転
ここでもう一度,点$\mrm{A}(\alpha)$中心の[拡大縮小/回転]を考えます.
すなわち,複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,
- 点$\mrm{A}(\alpha)$からの距離を$s$倍
- 点$\mrm{A}(\alpha)$中心に偏角を$+\phi$
した点を$\mrm{Q}(z’)$とします.この状況は
- ベクトル$\Ve{AP}$の長さを$s$倍
- ベクトル$\Ve{AP}$の偏角を$+\phi$
したベクトルが$\Ve{AQ}$である,ということもできますね.
このように,
- 点$\mrm{A}(\alpha)$中心の回転
- 点Aを始点とするベクトルの回転
は同じものとみることができます.
さて,点$\mrm{A}(\alpha)$中心の回転であることから,
が成り立つわけですが,$\mrm{A}(\alpha)$, $\mrm{P}(z)$, $\mrm{Q}(z’)$であることから,
- 左辺の$z’-\alpha$は$\Ve{AQ}$を表し,
- 右辺の$z-\alpha$は$\Ve{AP}$を表す
ということが分かります.このことをまとめると,以下のようになります.
[ベクトルの回転] $s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の3点$\mrm{A}(\alpha)$, $\mrm{P}(z)$, $\mrm{Q}(z’)$に対して,
が成り立つとき,ベクトル$\Ve{AQ}$は
- ベクトル$\Ve{AP}$を$s$倍拡大
- ベクトル$\Ve{AP}$を$+\phi$回転
したベクトルである.
このように,ベクトルの回転とみると$z’-\alpha$と$z-\alpha$をまとめて考えることができ,すっきりと理解することができますね.