前回の記事では複素数の積・商が極形式を用いれば簡単に計算できることを説明しました.
このことを応用すると,複素数$z$の累乗$z^n$ ($n$は整数)も簡単に計算することができ,この定理をド・モアブルの定理といいます.
$z$の累乗$z^n$は大学以降では$z$の冪と呼ばれることも多いです.
ド・モアブルの定理を用いれば,$(1-i)^5$のような計算も慣れれば数秒で求めることができます.
この記事では,
- 極形式を用いた計算の復習
- ド・モアブルの定理
- ド・モアブルの定理の証明
を順に説明します.
「複素数」の一連の記事
極形式を用いた計算
前回の記事で説明した極形式を用いた複素数の積・商について復習しておきましょう.
極形式の積
[極形式の積] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
つまり,
- 絶対値$r$, $s$の複素数をかければ,絶対値$rs$の複素数になる
- 偏角$\theta$, $\phi$の複素数をかければ,偏角$\theta+\phi$の複素数になる
というわけですね.
極形式の商
[極形式の商] $r\geqq0$, $s\geqq0$とし,$\theta$, $\phi$を実数とする.複素数$z,w$が
と極形式で表したとき,
が成り立つ.
つまり,
- 絶対値$r$の複素数を,絶対値$s$の複素数で割れば,絶対値$\dfrac{r}{s}$の複素数になる
- 偏角$\theta$の複素数を,偏角$\phi$の複素数で割れば,偏角$\theta-\phi$の複素数になる
というわけですね.
また,$z=1$とすると,$w$の逆数が
と表せることに注意してください.
詳しくは以下の記事を参照してください.
ド・モアブルの定理の考え方
いま復習した複素数の極形式を用いた積と商をもとにして,複素数$z$の累乗$z^n$ ($n$は整数)がどのように計算できるか考えましょう.
2つの複素数$z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$と$z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$の積は,上で復習した極形式の積なので
が成り立つことが分かります.さらに,$z$と$z^2$の積を考えれば,
が成り立つことが分かります.
これを続けていけば,任意の自然数$n$に対して,
が成り立ちそうですね.
たとえば,$z=\dfrac{6}{5}(\cos{\dfrac{\pi}{5}}+i\sin{\dfrac{\pi}{5}})$の場合に$z^2,z^3,z^4$は
となります.
また,$z^{-1}=r^{-1}(\cos{(-\theta)}+i\sin{(-\theta)})$なので,これを$n$回積をとると,同様に
となりそうですね.
ド・モアブルの定理の証明と具体例
以上をまとめたものが,次のド・モアブルの定理です.
[ド・モアブルの定理] $r\geqq0$とし,$\theta$を実数とする.このとき,極形式で表された複素数
と任意の整数$n$に対して,
が成り立つ.
このように,ド・モアブルの定理は$n$が負の場合であっても成り立つことにも注意しておきましょう.
証明
ド・モアブルの定理は$z$を繰り返しかけていくイメージでしたから,これをきちんと証明するには数学的帰納法を用いればいいですね.
[1] $n\ge0$の場合に成り立つことを数学的帰納法により示す.
(i) $n=0$のとき
が成り立つ.
(ii) $n=k$ ($k\ge0$)のとき$z^n=r^n(\cos{(n\theta)}+i\sin{(n\theta)})$が成り立つとすると,極形式の積の公式より
が成り立つ.
(i), (ii)より任意の自然数$n$に対して$z^n=r^n(\cos{(n\theta)}+i\sin{(n\theta)})$が成り立つ.
[2] $n<0$の場合に成り立つことを[1]を利用して示す.
$n=-m$とすると$m>0$なので,[1]で示したことから
が成り立つ.
[2]の$n<0$の場合の証明も,負の方向へ進む数学的帰納法で示すことができます.
具体例
最後にド・モアブルの定理を用いて次の問題を解きましょう.
$(1-i)^5$を計算せよ.
複素数の指数計算なので,ド・モアブルの定理が第一感で見えます.
そのため$1-i$を極形式で表して,ド・モアブルの定理を用いましょう.
$1-i$の絶対値は
なので,$1-i$の極形式は
となる.よって,ド・モアブルの定理より
である.
図形的には下図のようになっていますね.
コメント