前々回の記事では複素数を極形式で表すと,複素数の積や商を簡単に計算できることを説明しました.
その結果として,前回の記事では複素数の指数計算が簡単にできるド・モアブルの定理が成り立つことを説明しました.
このように,複素数は指数計算に強いことは意識しておきたいポイントです.
さて,ド・モアブルの定理を用いると$x^4=1-\sqrt{3}$のような$x^n=c$型の方程式を解くことができます.
この記事では
- ド・モアブルの定理の確認
- $x^n=c$型の方程式の解き方
- 覚えておくと便利な図形的性質
を順に説明します.
「複素数」の一連の記事
ド・モアブルの定理の確認
念のためド・モアブルの定理を復習しておきましょう.
すなわち,複素数を$n$乗すれば,
されるというわけですね.
このように,複素数の指数計算$z^n$をする場合には,極形式に変形することで簡単に計算できるのでした.詳しくは前回の記事を参照してください.

複素数の指数zⁿの計算はド・モアブルの定理が鉄板
方程式の具体例
それでは,$x^n=c$型の方程式を具体的に解きましょう.いずれも
- $x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と極形式に表す
- $x$の絶対値$r$を求める
- $x$の偏角$\theta$を求める
の3ステップで解を求めることができます.
例1
$x$の方程式$x^6=1$を解け.
極形式で$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と表すと,ド・モアブルの定理より
となり,両辺で絶対値を考えると$r^6=1$なので$r=1$となります.
と偏角が求まります.ただし,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq6\theta<12\pi$が成り立つことに注意.
よって,方程式$x^6=1$の解は
- $1(\cos{0}+i\sin{0})=1$
- $1\bra{\cos{\dfrac{\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{\pi}{3}}}=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1\bra{\cos{\dfrac{2\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{2\pi}{3}}}=-\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1(\cos{\pi}+i\sin{\pi})=-1$
- $1\bra{\cos{\dfrac{4\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{4\pi}{3}}}=-\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
となります.
なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
例2
$x$の方程式$x^3=-2$を解け.
極形式で$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と表すと,ド・モアブルの定理より
となり,両辺で絶対値を考えると$r^3=2$なので$r=\sqrt[3]{2}$となります.
よって,$r=\sqrt[3]{2}$を代入して,実部と虚部を比較して
と偏角が求まります.ただし,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq3\theta<6\pi$が成り立つことに注意.
よって,方程式$x^3=-2$の解は
- $\sqrt[3]{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{\pi}{3}}}=\sqrt[3]{2}\bra{\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
- $\sqrt[3]{2}(\cos{\pi}+i\sin{\pi})=-\sqrt[3]{2}$
- $\sqrt[3]{2}\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\sqrt[3]{2}\bra{\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
となります.
なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
例3
$x$の方程式$x^4=-1+\sqrt{3}i$を解け.
極形式で$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と表すと,ド・モアブルの定理より
となり,両辺で絶対値を考えると$r^4=\sqrt{(-1)^2+(\sqrt{3})^2}$なので$r=\sqrt{2}$となります.
よって,$r=\sqrt{2}$を代入して,実部と虚部を比較して
と偏角が求まります.ただし,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq4\theta<8\pi$が成り立つことに注意.
よって,方程式$x^4=-1+\sqrt{3}i$の解は
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{\pi}{6}}}=\sqrt{2}\bra{\dfrac{\sqrt{3}}{2}+\dfrac{1}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{2\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{2\pi}{3}}}=\sqrt{2}\bra{-\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{7\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{7\pi}{6}}}=\sqrt{2}\bra{-\dfrac{\sqrt{3}}{2}-\dfrac{1}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\sqrt{2}\bra{\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
となります.
なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
覚えておくと便利な図形的性質
いまみた3つの例の解を複素平面上に図示すると,全て
- 原点中心の円周上に
- 等間隔に
並んでいることが分かります.実は一般に以下が成り立ちます.
$c$を複素数,$n$を正の整数とする.$x$の方程式$x^n=c$の解は複素平面上で,原点中心,半径$\sqrt[n]{|c|}$の円周上に等間隔に存在する.
これを知っていれば1つ解が分かれば他の解もすぐに求めることができますし,間違っていればすぐに気付くことができますね.
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