前回の記事では,複素数を極形式に変形すると,複素数の積や商を簡単に計算できることを説明しました.
その結果として,複素数の指数計算が簡単にできる[ド・モアブルの定理]が成り立つのでした.
このように,複素数は指数計算に強いことは意識しておいて欲しいポイントです.
[ド・モアブルの定理]を用いると,$x^4=1-\sqrt{3}$のような$x^n=c$型の方程式を解くことができます.
この記事では,この$x^n=c$型の方程式の解き方を説明します.
【複素数1|虚数単位って一体なに?複素数の考え方と基礎知識】
【複素数2|複素数を見る!?複素平面と絶対値の考え方】
【複素数3|複素数の「極形式」は絶対値と偏角がポイント!】
【複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
【複素数5|方程式の[ド・モアブルの定理]の解法は3ステップ】←今の記事
【複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
【複素数7|複素平面上の拡大縮小/回転は複素数をかけろ!】
ド・モアブルの定理の確認
念のため,[ド・モアブルの定理]を復習しておきましょう.
[ド・モアブルの定理] $r\geqq0$とし,$\theta$を実数とする.絶対値$z$,偏角$\theta$の複素数$z$と任意の整数$n$に対して,
が成り立つ.
すなわち,複素数を$n$乗すれば,
- 絶対値が$n$乗
- 偏角が$n$倍
されるというわけですね.
このように,複素数の指数計算$z^n$をする場合には,極形式に変形することで簡単に計算できるのでした.
詳しくは前回の記事を参照してください.
【前回の記事:複素数4|複素数の指数計算は[ド・モアブルの定理]が鉄板】
極形式の積,商についての基本性質を説明したのち,[ド・モアブルの定理]を具体例とともに説明しています.[ド・モアブルの定理]はもちろん重要ですが,そのベースとなる[極形式の積]と[極形式の商]の公式が分かっていれば,[ド・モアブルの定理]は当たり前に成り立つことが分かります.
方程式の具体例
それでは,$x^n=c$型の方程式を具体的に解きましょう.いずれも
- $x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と極形式に表す
- $x$の絶対値$r$を求める
- $x$の偏角$\theta$を求める
の3ステップで解を求めることができます.
次の$x$の方程式を解け.
- $x^6=1$
- $x^3=-2$
- $x^4=-1+\sqrt{3}i$
例1
$x$の方程式$x^6=1$を解きます.
$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と$x$を極形式で表すと,[ド・モアブルの定理]より
となります.両辺で絶対値を考えると,$r^6=1$なので$r=1$となります.
次に,$r=1$と,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq6\theta<12\pi$が成り立つことに注意すれば,実部と虚部を比較して
と偏角が求まります.よって,方程式$x^6=1$の解は
- $1(\cos{0}+i\sin{0})=1$
- $1\bra{\cos{\dfrac{\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{\pi}{3}}}=\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1\bra{\cos{\dfrac{2\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{2\pi}{3}}}=-\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1(\cos{\pi}+i\sin{\pi})=-1$
- $1\bra{\cos{\dfrac{4\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{4\pi}{3}}}=-\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
- $1\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i$
となります.なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
例2
$x$の方程式$x^3=-2$を解きます.
$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と$x$を極形式で表すと,[ド・モアブルの定理]より
となります.両辺で絶対値を考えると,$r^3=2$なので$r=\sqrt[3]{2}$となります.
次に,$r=\sqrt[3]{2}$と,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq3\theta<6\pi$が成り立つことに注意すれば,実部と虚部を比較して
と偏角が求まります.よって,方程式$x^3=-2$の解は
- $\sqrt[3]{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{\pi}{3}}}=\sqrt[3]{2}\bra{\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
- $\sqrt[3]{2}(\cos{\pi}+i\sin{\pi})=-\sqrt[3]{2}$
- $\sqrt[3]{2}\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\sqrt[3]{2}\bra{\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
となります.なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
例3
$x$の方程式$x^4=-1+\sqrt{3}i$を解きます.
$x=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$ ($r>0$, $0\leqq\theta<2\pi$)と$x$を極形式で表すと,[ド・モアブルの定理]より
となります.両辺で絶対値を考えると,$r^4=\sqrt{(-1)^2+(\sqrt{3})^2}$なので$r=\sqrt{2}$となります.
次に,$r=\sqrt{2}$と,$0\leqq\theta<2\pi$から$0\leqq4\theta<8\pi$が成り立つことに注意すれば,実部と虚部を比較して
と偏角が求まります.よって,方程式$x^4=-1+\sqrt{3}i$の解は
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{\pi}{6}}}=\sqrt{2}\bra{\dfrac{\sqrt{3}}{2}+\dfrac{1}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{2\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{2\pi}{3}}}=\sqrt{2}\bra{-\dfrac{1}{2}+\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{7\pi}{6}}+i\sin{\dfrac{7\pi}{6}}}=\sqrt{2}\bra{-\dfrac{\sqrt{3}}{2}-\dfrac{1}{2}i}$
- $\sqrt{2}\bra{\cos{\dfrac{5\pi}{3}}+i\sin{\dfrac{5\pi}{3}}}=\sqrt{2}\bra{\dfrac{1}{2}-\dfrac{\sqrt{3}}{2}i}$
となります.なお,解を複素平面上に図示すると下図のようになります.
覚えておくとよい性質
いまみた3つの例では,複素平面上に解を図示すると,全て
- 原点中心の円周上に
- 等間隔に
並んでいることが分かります.実は一般に以下が成り立ちます.
$c$を複素数とする.$x$の方程式$x^n=c$の解は複素平面上で,原点中心,半径$\sqrt[n]{|c|}$の円周上に等間隔に存在する.
この記事では証明しませんが,これを覚えておくと1つ解が分かれば他の解もすぐに求めることができますし,間違っていればすぐに気付くことができますね.
【次の記事:複素数6|虚数解をもつ方程式の重要ポイント2つを確認!】
今の記事では$x^n=c$型の方程式を扱いましたが,当然のことながらこの形をしていない方程式もたくさんあります.そこで,虚数解をもつ$n$次方程式に関する大切なポイント2つを次の記事で解説します.