複素数8
複素平面上の拡大縮小・回転は極形式で考える

複素数
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複素数の積には極形式が便利で,2つの複素数$z$, $w$が

  • $z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$
  • $w=s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})$

と表されていれば,積$zw$は

    \begin{align*}zw=rs(\cos{(\theta+\phi)}+i\sin{(\theta+\phi)})\end{align*}

絶対値の積,偏角の和により求まるのでした.

さて,この極形式の積の見方を少し変えれば,複素平面上の拡大縮小・回転を考えることができます.

この記事では,複素平面上の

  • 点の拡大縮小・回転
  • ベクトルの拡大縮小・回転

を順に説明します.

点の拡大縮小・回転

複素平面上の点の拡大縮小・回転を

  1. 原点中心の場合
  2. 一般の点中心の場合

の2ステップで考えましょう.

ステップ1(原点中心の場合)

冒頭で書いたように極形式で表された2つの複素数$z=r(\cos{\theta}+i\sin{\theta})$, $w=s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})$に対して,

    \begin{align*}zw=rs\{\cos{(\theta+\phi)}+i\sin{(\theta+\phi)}\}\end{align*}

が成り立ちます.このとき,複素平面上で複素数$z$が表す点を$\mrm{P}$とし,複素数$zw$が表す点を$\mrm{Q}$とすると下図のようになりますね.

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つまり,複素平面上の複素数$z$が表す点に対して

  • 原点$\mrm{O}(0)$からの距離を$s$倍
  • 原点$\mrm{O}(0)$中心に偏角を$+\phi$

した点が複素数$zw$の表す点となっています.

このことは,以下のように表すことができますね.

[原点中心の点の回転] $s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,複素数

    \begin{align*}z'=z\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})\end{align*}

が表す点$\mrm{Q}(z’)$は原点中心に$s$倍拡大,$+\phi$回転した点である.

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要するに,複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,

  • 原点からの距離を$s$倍したければ,$z$に$s$をかければよく
  • 原点中心に偏角を$+\phi$したければ,$z$に$\cos{\phi}+i\sin{\phi}$をかければよい

というわけですね.

ステップ1(一般の点中心の場合)

次に,複素平面上の原点とは限らない点$\mrm{A}(\alpha)$中心の拡大縮小・回転を考えましょう.

複素平面上の点$\mrm{P}(z)$に対して,

  • 点$\mrm{A}(\alpha)$からの距離を$s$倍
  • 点$\mrm{A}(\alpha)$中心に偏角を$+\phi$

した点を$\mrm{Q}(z’)$としましょう.

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このとき,点$\mrm{A}$が原点$\mrm{O}(0)$にくるように全体を平行移動させると,点$\mrm{P}$は点$\mrm{P’}(z-\alpha)$,点$\mrm{Q}$は点$\mrm{Q’}(z’-\alpha)$に移ります.

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点$\mrm{Q’}(w-\alpha)$は,点$\mrm{P’}(z-\alpha)$に対して

  • 原点$\mrm{O}(0)$からの距離を$s$倍
  • 原点$\mrm{O}(0)$中心に偏角を$+\phi$

した点となっているので,先ほどみた原点中心の拡大縮小・回転の考え方から

    \begin{align*}&z'-\alpha=(z-\alpha)\cot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi}) \\\iff&z'=(z-\alpha)\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})+\alpha\end{align*}

が成り立ちます.以上をまとめると,以下のようになりますね.

$s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の点$\mrm{A}(\alpha)$,点$\mrm{P}(z)$に対して,複素数

    \begin{align*}z'=(z-\alpha)\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})+\alpha\end{align*}

が表す点$\mrm{Q}(z’)$は点$\mrm{A}$中心に$s$倍拡大,$+\phi$回転した点である.

当然のことながら,$\alpha=0$の場合には

    \begin{align*}z'=z\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})\end{align*}

となって,原点中心の拡大縮小・回転と一致しますね.

ベクトルの拡大縮小・回転

いまみた複素平面上の点$\mrm{A}(\alpha)$中心の拡大縮小・回転の式は

    \begin{align*}z'-\alpha=(z-\alpha)\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})\end{align*}

でしたが,これは複素平面上のベクトルの拡大縮小・回転と考えると,すっきり説明ができます.

複素平面上のベクトル

$xy$平面は複素平面と同一視できるので,$xy$平面上のベクトルは複素平面上のベクトルと同一視できます.例えば,

  • $xy$平面上の点$\mrm{A}(1,1)$, $\mrm{B}(4,3)$に対して,$\Ve{AB}=(3,2)$
  • 複素平面上の点$\mrm{A}(1+i)$, $\mrm{B}(4+3i)$に対して,$\Ve{AB}=3+2i$

が対応するわけですね.

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このように,複素平面上の2点$\mrm{A}(\alpha)$, $\mrm{B}(\beta)$があるとき,$\Ve{AB}$は複素数$\beta-\alpha$で表すことができます.

ベクトルの拡大縮小・回転

このように考えると,複素平面上の点$\mrm{P}(z)$の点$\mrm{A}(\alpha)$中心の拡大縮小・回転

    \begin{align*}z'-\alpha=(z-\alpha)\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})\end{align*}

は,$z-\alpha$で表されるベクトル$\Ve{AP}$を拡大縮小・回転して$z’-\alpha$で表されるベクトル$\Ve{AQ}$になっているということもできますね.

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このように,

  • 点$\mrm{A}(\alpha)$中心の回転
  • 点$\mrm{A}(\alpha)$を始点とするベクトルの回転

は同じものとみることができます.以上をまとめると,次のようになりますね.

[ベクトルの回転] $s\geqq0$, $\phi$を実数とする.複素平面上の3点$\mrm{A}(\alpha)$, $\mrm{P}(z)$, $\mrm{Q}(z’)$に対して,

    \begin{align*}z'-\alpha=(z-\alpha)\cdot s(\cos{\phi}+i\sin{\phi})\end{align*}

が成り立つとき,ベクトル$\Ve{AQ}$はベクトル$\Ve{AP}$を$s$倍拡大,$+\phi$回転してできるベクトルである.

管理人

プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.

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