「電池」は日常的によく見かけるもので,現代の生活になくてはならないものとなっています.
我々が時計などを動かすときなど,我々は「電池」を使いますが,この電池はどのようにして「電流」を生み出しているのかを考えましょう.
そもそも「電流」とは「電子$\ce{e-}$の流れ」のことで,したがって電池は「電子$\ce{e-}$の流れ発生させる装置」ということができます.
ここで大切になってくるのが酸化還元反応です.
酸化還元反応を考えるときには,電子$\ce{e-}$がどのように動いているかを考える半反応式が重要なのでした.
電池と電気分解でも,この電子$\ce{e-}$の動きがとても重要です.
「酸化還元反応」の一連の記事はこちら
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】 【酸化還元反応2|酸化剤と還元剤の半反応式の一覧と導き方】 【酸化還元反応3|酸性条件と中性・塩基性条件で何が変わる?】 【酸化還元反応4|半反応式から化学反応式を導く2つのステップ】 【酸化還元反応5|酸化数は8つの原則と2つの例外で求める】
「電池と電気分解」の一連の記事はこちら
【電池と電気分解1|電池ってどういう仕組み?電流の正体とは】←今の記事 【電池と電気分解2|イオン化傾向から電流の向きを判断する】 【電池と電気分解3|ボルタ電池とダニエル電池の仕組みと違い】 【電池と電気分解4|鉛蓄電池の仕組みと反応はとてもシンプル】 【電池と電気分解5|電気分解の基本と,電池と電気分解の違い】 【電池と電気分解6|陽極と陰極の反応4パターンを理解する】
電池の種類と仕組み
「電池」とは「電流を生み出すもの」で,大まかに
- 物理電池
- 化学電池
の2種類があります.
たとえば,自転車のタイヤの回転により内部の磁石が回転して電流を作り出す電池は,物理的なエネルギーから電気を得るので物理電池です.
一方,たとえば,乾電池は内部で起こっている化学反応から電流を作り出しているので化学電池の例です.
当然のことながら,高校化学で扱う電池は「化学電池」です.
化学反応に伴って放出されるエネルギーを,(直流の)電気エネルギーに変える装置を化学電池という.
たとえば,中和反応が起こると中和熱が生じますが,この中和熱は化学反応に伴って放出される熱エネルギーです.
同様に,化学反応に伴って電気エネルギーが放出されることがあり,この「電気エネルギーを取り出す装置」を「電池」というわけですね.
基本的な電池で有名なものといえばボルタ電池でしょう.
ボルタ電池は亜鉛Znと銅Cuをボチャッと希硫酸$\ce{H2SO4}$に浸けて,導線で亜鉛と銅を結べば完成します.
図ではオレンジ色の丸を挟んでいますが,これはたとえば豆電球だと思ってください.
これは,亜鉛Zn側で
銅Cuで
という反応が起こっています.酸化還元反応の言葉を使えば,亜鉛Znは酸化され,水素イオン$\ce{H+}$は還元されています.
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】
酸化還元反応は電子$\ce{e-}$の移動により生じる化学反応です.酸化還元反応を考え方から説明します.
また,ボルタ電池については,のちの記事で詳しく説明しています.
電流とは何か
電池の説明の中で「電流」や「電気エネルギー」という言葉をすでに使いましたが,実のところ
- 電流
- 電気エネルギー
とは一体何でしょうか?
電流の正体
電池と豆電球を繋ぐと電流が流れて豆電球が光ることはよく知られていますが,「電流」という物質が導線の中を流れているわけではありません.
原子の中には,マイナスの電気的性質を持つ電子$\ce{e-}$が含まれていることを習いましたが,実は電流とは電子$\ce{e-}$の移動のことをいうのです.
そして,導線内などを電子$\ce{e-}$が移動するエネルギーを電気エネルギーといいます.ですから,電気エネルギーは「電流が流れるときのエネルギー」とも言えますね.
電気エネルギーを取り出すためには,何とかして電子$\ce{e-}$を導線の中を動かしたいわけですが,そこで酸化還元反応を利用するわけです.
酸化還元反応は,電子$\ce{e-}$のやりとりが根底にある化学反応で,
- 酸化される=電子$\ce{e-}$を放出する
- 還元される=電子$\ce{e-}$を受け取る
なのでした.
普通の酸化還元反応は「物質をコネコネ混ぜて,直接的に電子$\ce{e-}$のやり取りを引き起こす」イメージです.
一方,酸化還元反応は物質をコネコネ混ぜなくても,物質を導線で繋ぐことで起こることがあり,このとき導線の中を電子$\ce{e-}$が流れます.これが電池の原理です.
したがって,電池は「物質と物質を導線で結んで,間接的に電子$\ce{e-}$をやり取りを引き起こす装置」ということができますね.
このとき,導線の間に豆電球を繋いでいると,電子$\ce{e-}$が豆電球を通過し(=電流が流れ),豆電球が光るというわけなのです.
電流の向き
電子$\ce{e-}$の移動を電流というわけですから,電流にも向きを考えることができます.
「電子$\ce{e-}$の移動方向」と逆向きを「電流の向き」と定める.
「電流の向きは電子$\ce{e-}$の移動と逆向き……?」
そうです,「電流の向き」は「電子$\ce{e-}$の動きと逆向き」なのです.
では,なぜ「逆向き」なのでしょうか?
電気の存在が知られ始めた頃は「何か分からんけど,ビリビリするものが流れている」という認識で,電子$\ce{e-}$の存在はわかっていませんでした.
そこで,研究者たちは「正の電荷が流れている」として電池を研究し始めました.
しかし,研究が進むにつれ
- どうやら電子$\ce{e-}$というものがあるらしい!
- どうやら電子$\ce{e-}$の移動を我々は電流と言っているらしい!!
- どうやら電子$\ce{e-}$は負の電荷をもつらしい!!!
ということが分かってきました.
電子$\ce{e-}$は負の電荷を持つので,電子$\ce{e-}$が右に動く様子は「正の電荷が左に動いている」と捉らえることになります.
それまでは「正の電荷が左向きに流れている」と思って研究を進めてきたわけですから,結局「電流の向き」は「実際には違うけど『正の電荷が移動している』と仮定した向き」として,電子$\ce{e-}$の移動の向きと逆として定着したわけです.
イオン化傾向
銅$\ce{Cu}$が陽イオン$\ce{Cu^{2+}}$になったり,銅$\ce{Ag}$が陽イオン$\ce{Ag+}$になったり,単体の金属は基本的に陽イオンになります.
この「単体金属の陽イオンへのなりやすさ」のことをイオン化傾向といいます.
「イオン化傾向」を考えることによって,電池でどちらむきに電流が流れるのかを判断することができます.
「電池と電気分解」の一連の記事はこちら
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コメント
失礼とは思いますが。
電流の正体
導線内などを電子が移動するエネルギーを「電気エネルギー」というのです。
そんなエネルギーはありますか?
失礼などとんでもありません!
コメントをありがとうございます.
ご指摘のように,「導線内などを電子が移動するエネルギーを『電気エネルギー』というのです」という表現は正確ではありません.
物理的には,「電気エネルギー」といえば電位差によって生じる位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)を指す場合が多いのですが,高校化学の範囲では「電子の移動によって,化学反応が起こる」という部分が大切です.
そのため,電位差まで書く必要性がないと考え,不明確ではありますが捉えやすい表現にした次第です.
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