前回の記事で説明したように,電池とは「酸化還元反応を利用して,電子の移動を生じさせる装置」のことをいうのでした.
そのことを見るために,銅Cu電極と亜鉛Zn電極で起こる化学反応を利用するボルタ電池を例に挙げて,電子$\ce{e-}$が導線を流れる様子を考えました.
なお,ボルタ電池(とダニエル電池)については,次の記事で詳しく説明しています.
この記事では,このボルタ電池の仕組みを他の場合にも起こすには,「金属が陽イオンへのなりやすい性質」であるイオン化傾向を考えれば良いことを説明します.
さて,亜鉛Zn電極であっても,相手の電極の素材が何であるかによって電流の流れる向きが変わります.
この電流の流れる流れる向きを考える際に,イオン化傾向の大きさを順に並べたイオン化列がとても重要な役割を果たします.
「電池と電気分解」の一連の記事はこちら
【電池と電気分解1|電池ってどういう仕組み?電流の正体とは】 【電池と電気分解2|イオン化傾向から電流の向きを判断する】←今の記事 【電池と電気分解3|ボルタ電池とダニエル電池の仕組みと違い】 【電池と電気分解4|鉛蓄電池の仕組みと反応はとてもシンプル】 【電池と電気分解5|電気分解の基本と,電池と電気分解の違い】 【電池と電気分解6|陽極と陰極の反応4パターンを理解する】
イオン化傾向とイオン化列
イオン化傾向とイオン化列について説明します.
イオン化傾向
単体の金属には「イオン化傾向」というものがあります.
「イオン化傾向」とは「溶液中に電子を放出して陽イオンになろうとする性質」のことをいいます.「陽イオン化する性質」ですからそのままの名前ですね.
たとえば,希塩酸$\ce{H2SO4}$に亜鉛Znをボチャンと浸けると,希塩酸中$\ce{H2SO4}$の水素イオン$\ce{H+}$と反応して
の反応で,亜鉛Znが陽イオン$\ce{Zn^2+}$となります.
このように,多くの金属は陽イオンになります.そして,この「単体金属が陽イオンになりやすい」という性質のことを「イオン化傾向」というのです.
多くの金属は陽イオンになり,この「陽イオンへのなりやすい」という性質を「イオン化傾向」という.
イオン化列
また,「イオン化傾向」には金属によって強さがあり,金属を「イオン化傾向」の強さの順に並べたものを「イオン化列」といいます.
具体的には,「イオン化列」は次のようになっています.
カリウムKが「最もイオン化傾向が強い(=最も陽イオンになりやすい)」物質で,金Auが「最もイオン化傾向が弱い(=最も陽イオンになりにくい)」物質です.
もちろん,この他にも金属はありますが,高校化学ではこれだけでほとんど十分です.
よくある覚え方としては「借りよかな,まあアテにすんな,ひどすぎる借金」というものがあります.これは
借り(K)よか(Ca)な(Na),
ま(Mg)あ(Al)ア(Zn)テ(Fe)に(Ni)すん(Sn)な(Pb),
ひ(H)ど(Cu)すぎ(Hg)る借(Pt)金(Au)
となっています.
「イオン化列」は覚えておく必要があるので,実際に自分の手を動かして書けるようにしてください.
イオン化傾向の強さの順に金属を並べたものを「イオン化列」という.「イオン化列」は覚えておく.
電池の仕組み
それでは,イオン化傾向とイオン化列をもとにして,電池の仕組みを考えます.
反応と電子の動き
前の記事でボルタ電池を例に簡単に説明しましたが,今回もボルタ電池を例に説明します.
【前回の記事:電池と電気分解1|電池の仕組みと電流の正体】
化学反応が起こるとき,電子$\ce{e-}$の移動が起こります.電子$\ce{e-}$は電気的なエネルギーを持っているので,電子$\ce{e-}$が動くということは電気が流れていることに他なりません.この電子$\ce{e-}$の動きを利用して電気エネルギーを取り出す装置を電池といいます.
ボルタ電池は亜鉛Znと銅Cuをボチャッと希硫酸$\ce{H2SO4}$に浸けて,導線で亜鉛と銅を結べば完成です.
図では導線の途中にオレンジ色の〇がありますが,これはたとえば豆電球だと思ってください.
亜鉛Zn側では,亜鉛Znが溶液中に亜鉛イオン$\ce{Zn^2+}$として溶け出し,そのときに残された電子$\ce{e-}$が導線を通って銅Cu側へやって行きます.
つまり,反応は
となっています.
銅Cu側では,導線を通してやってきた電子$\ce{e-}$が,溶液中の水素イオン$\ce{H+}$とくっついて水素$\ce{H2}$になっています.つまり,反応は
となっています.
このとき,銅Cuは全く変化していないということに注意してください.
ボルタ電池は亜鉛Znが陽イオン化し,そこで残った電子$\ce{e-}$を銅Cuが受け取り,溶液中の水素イオン$\ce{H+}$に渡し,水素気体$\ce{H2}$が生じる.
ボルタ電池とイオン化列
さて,ここで「金属は陽イオンになりやすいなら,銅Cuはなぜ銅イオン$\ce{Cu^2+}$にならないのか?」という疑問が出てきますね.
ここで活きてくるのが,この記事の最初にやった「イオン化列」です.
銅Cuと亜鉛Znのイオン化列での順を見てみると,$\mrm{Zn>Cu}$となっていますね.つまり,亜鉛Znの方が陽イオンになりやすいわけです.
実は,2つの金属を繋いだとき,陽イオン化するのは「イオン化傾向の強い方のみ」であり,イオン化傾向の弱い方は陽イオンにならず電子を受け取る役割をするのです.
ですから,ボルタ電池では亜鉛Znが陽イオンとなって溶液中へ溶け出しているのです.
そして,そこで残った電子$\ce{e-}$が導線通って銅Cu側へやって行き,銅Cuの表面で水素イオン$\ce{H+}$と反応して水素$\ce{H2}$が発生します.
さらに,「銅Cuと電子$\ce{e-}$が反応することはないのか?」という疑問を持つかもしれませんが,反応しません.
というのは,銅Cuと電子$\ce{e-}$が反応するということは銅が陰イオンになるということですが,基本的に金属は陰イオンにならないのです.
ですから,やってきた電子$\ce{e-}$は水素イオン電子$\ce{H+}$と反応するしかないわけです.
イオン化は相対的にイオン化傾向の強い金属のみがイオン化し,イオン化傾向の弱い金属は電子を受け取る役割をする.
ボルタ電池とダニエル電池
一連の記事でたびたび登場しているボルタ電池ですが,ボルタ電池は最も基本的な電池として重要です.
しかし,基本的であるが故に分極という不具合も生じてしまいます.
この不具合を解消した電池としてダニエル電池があります.
次の記事では,ボルタ電池とダニエル電池の仕組みと違いを説明しています.
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