イオン化傾向を利用して電気が流れるようにした仕組みのことを電池といい,電気分解は電池に繋いでビリビリと電気を流すことで分解が起こる仕組みのことをいうことを前回の記事で説明しました.
このことは
- 電池は能動的な反応
- 電気分解は受動的な反応
と言い替えることが出来ますね.
さて,電池は組み立てれば自然に電気が流れることにより,電池の電極のプラスとマイナスが決まります.これをそれぞれ正極,負極といいました.
一方,電気分解は自身だけではプラスとマイナスが決まらず
- 電池の正極と繋いだ方を陽極(プラス)
- 負極と繋いだ方を陰極(マイナス)
というのでした.
さて,今回の記事では,その電気分解の陽極と陰極でどのように反応が違うのかを4パターンに分けて解説します.
「電池と電気分解」の一連の記事はこちら
【電池と電気分解1|電池ってどういう仕組み?電流の正体とは】 【電池と電気分解2|イオン化傾向から電流の向きを判断する】 【電池と電気分解3|ボルタ電池とダニエル電池の仕組みと違い】 【電池と電気分解4|鉛蓄電池の仕組みと反応はとてもシンプル】 【電池と電気分解5|電気分解の基本と,電池と電気分解の違い】 【電池と電気分解6|陽極と陰極の反応4パターンを理解する】←今の記事
目次
陽極反応の2つのパターン
まずは,陽極の反応からみます.
上述したように,電気分解における「陽極」とは「電気分解で電池の正極とつながる方の極」のことをいいます.
そのため,電池の正極は電子$\ce{e-}$を受け取るので,その電子$\ce{e-}$は陽極からきていることになります.
すなわち,陽極は電子$\ce{e-}$を放出していることになるので,陽極では酸化反応が起こります.
【前回の記事:電池と電気分解5|電気分解の基本と,電池と電気分解の違い】
「電池」と「電気分解」を混同してしまう人は少なくありません.簡単に言えば,電池は「自発的な反応」で,電気分解は「受動的な反応」という違いがあります.前回の記事では,陽極/陰極と正極/負極の違いも詳しく説明しています.
さて,陽極での反応は,大まかに陽極の素材が
- 金Au,白金Pt,炭素Cでないとき
- 金Au,白金Pt,炭素Cのとき
で反応が変わります.
陽極は「電子$\ce{e-}$を放出する」=「酸化反応が起こる」.また,陽極は素材で反応が変わることを知っておく.
陽極が金Au,白金Pt,炭素Cでないとき
陽極が金Au,白金Pt,炭素Cでなければ,電極が酸化されて陽イオンとなって溶け出します.
つまり,金Au,白金Pt,炭素Cくらい陽イオンになりにくい素材でなければ,極自体から電子$\ce{e-}$が抜かれ,陽イオンにされてしまうというわけです.
たとえば,陽極に銅Cuを用いると,
の反応が起こります.他にも,陽極に亜鉛Znを用いると,
の反応が起こります.
なお,これら「金Au,白金Pt,炭素C」は「高級なもの」と考えれば覚えやすいと思います.
「金」も「白金(プラチナ)」も高級品ですね.また,炭素CはダイヤモンドCからの連想です.
陽極が金Au,白金Pt,炭素Cでなければ,電極自体が酸化反応を起こして,電極が陽極となって溶け出す.
陽極が金Au,白金Pt,炭素Cのとき
陽極が金Au,白金Pt,炭素Cならば,溶液に含まれているイオンが酸化されます.
やはり陽極で酸化反応が起こるのは先ほど書いた通りですが,陽極が金Au,白金Pt,炭素Cのときは,溶液に含まれているイオンが酸化されます.
金Au,白金Pt,炭素Cはかなり陽イオンになりにくいため,溶液中のイオンが酸化されるわけですね.
さて,溶液中のイオンは,「ハロゲン化物イオン」が含まれているかどうか,がキーになることが多いです.
溶液にハロゲン化物イオンが含まれているとき
ハロゲン化物イオンはとても酸化されやすいので,溶液中にハロゲン化物イオンが含まれている場合にはハロゲン化物イオンが酸化されます.
たとえば,溶液中に塩化物イオン$\ce{Cl-}$が含まれていれば,
の反応が起こりますし,ヨウ化物イオン$\ce{I-}$が含まれていれば,
の反応が起こります.
ハロゲン化物イオンは酸化されやすい.
溶液に酸化されにくいイオンしか含まれていないとき
ハロゲン化物イオンのような酸化されやすいイオンが含まれていないときは,酸素$\ce{O2}$が発生します.
酸化されにくいイオンは,たとえば
- 硝酸イオン$\ce{NO3^-}$
- 硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$
- リン酸イオン$\ce{PO4^3-}$
などのことです.高校化学ではこの3つを把握しておけば十分でしょう.
なお,硝酸イオン$\ce{NO3^-}$,硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$,リン酸イオン$\ce{PO4^3-}$が酸化されにくい理由は,それぞれに含まれる窒素N,硫黄S,リンPの酸化数が高く,それ以上酸化できないことにあります.
それ以上酸化できないような元素は「最高酸化数に達している」などと言います.
酸化数については,以下の記事を参照してください.
酸化数は元素がどれだけ酸化数されているかを図る指標で,酸化還元反応を捉える上で便利です.酸化数は簡単な8つの原則と2つの例外を覚えていれば簡単に求められるので,確率にフォローしておいてください.
さて,このときの半反応式は
- 溶液が強塩基でない場合
- 溶液が強塩基の場合
と溶液の塩基性の強さにより半反応式は異なります.
どちらの反応でも酸素$\ce{O2}$が発生していますね.
強塩基の場合は,水酸化物イオン$\ce{OH-}$が溶液中に多量に存在し,水酸化物イオン$\ce{OH-}$は酸化されやすいので,$\ce{OH-}$から酸素$\ce{O2}$が発生していることに注意してください.
一方,強塩基でない場合は,$\ce{OH-}$が溶液中に少ないので,水$\ce{H2O}$から直接酸素$\ce{O2}$が発生していますね.
溶液に酸化されやすいイオンが含まれていないときは,酸素$\ce{O2}$が発生する.このときの反応式は,溶液が強塩基のときと強塩基でないときで異なる.
陰極反応の2つのパターン
次に,陰極の反応をみます.
陽極とは反対に,電気分解における「陰極」とは「電気分解で電池の負極とつながる方の極」というのでした.
電池の負極は電子$\ce{e-}$を放出するので,その電子$\ce{e-}$は陰極に流れていくことになります.すなわち,陰極は電子$\ce{e-}$を受け取っているので,陰極では還元反応が起こります.
(実は,陰極の反応は微妙なところがあるのですが,高校化学ではそのような微妙な場合が出題されることはほとんどないので,この記事ではその微妙なところは無視します.)
陽極の反応とは異なり,陰極の電極が溶け出すことはありません.
さて,陽極での反応は
- イオン化傾向の小さい金属イオンが含まれているとき
- イオン化傾向の小さい金属イオンが含まれていないとき
で反応が変わります.
陰極は電子$\ce{e-}$を受け取る=還元反応が起こる.「溶液にイオン化傾向の小さい金属イオンが含まれているかどうか」で反応が変わることを知っておく.
溶液にイオン化傾向の小さい金属の陽イオンが含まれているとき
イオン化傾向とは「陽イオンへのなりやすさ」のことでした.つまり,「イオン化傾向の小さい金属の陽イオン」=「陽イオンになりにくい金属の陽イオン」となります.
「陽イオンになりにくい金属の陽イオン」は簡単に還元されて,普通の金属に戻ろうとします.
ここでの「陽イオンになりにくい金属」としては,基本的には「イオン化傾向がZnより小さい金属」のことですが,問題に登場するのは
- 銅Cu
- 銀Ag
がほとんどです.
イオン化傾向の大きい順に金属を並べた「イオン化列」は次のようになることを思い出しておきましょう.
確かに,銅Cuや銀Agはイオン化傾向が小さい方であることが分かりますね.
銅Cuが陽イオン$\ce{Cu^2+}$になることができるように,金属は陽イオンになる性質(イオン化傾向)を持っています.このイオン化傾向には強さがあり,これを順番に並べたものをイオン化列と言います.このイオン化傾向を利用して電気を取り出す装置が電池です.
さて,先ほど書いたように,「イオン化傾向の小さい金属の陽イオン」が溶液中に存在すれば,容易に還元されて単体の金属に戻ります.
たとえば,溶液中に銅イオン$\ce{Cu^2+}$が含まれていれば,
の反応が起こり,溶液中に銀イオン$\ce{Ag+}$が含まれていれば,
の反応が起こります.このとき,銅イオン$\ce{Cu^2+}$,銀イオン$\ce{Ag+}$から単体の銅Cu,銀Agができています.
このように,溶液中のイオンなどが固体となって生成されることを「析出」といいます.上の場合では「銅Cuが析出した」「銀Agが析出した」などと表現します.
銅Cuや銀Agといった「イオン化傾向の小さいイオン」=「陽イオンになりにくいイオン」が含まれているとき,そのイオンが電極に析出する.
溶液にイオン化傾向の小さい金属の陽イオンが含まれていないとき
溶液中に「イオン化傾向の大きい金属の陽イオン」=「陽イオンになりやすい金属の陽イオン」しか含まれていないときを考えます.
「イオン化傾向の大きい金属の陽イオン」としては
- アルカリ金属
- アルカリ土類金属
- アルミニウムAl
あたりと思っておけば問題ないでしょう.
水素Hを除く1族元素を「アルカリ金属」といいます.アルカリ金属は反応性に富み,水$\ce{H2O}$や空気中の酸素$\ce{O2}$などと様々な反応をします.アルカリ金属の性質,製法,反応の基本事項をまとめています.
「イオン化傾向の大きい金属」は陽イオンでいる方が安定なので,あまり単体の金属に戻ろうとはしません.
この場合には,水素$\ce{H2}$が発生します.
さて,このときの半反応式は
- 強酸でない場合
- 強酸の場合
と溶液の酸性の強さにより半反応式は異なります.
反応自体は違いますが,どちらの反応でも水素$\ce{H2}$が発生していますね.
強酸の場合は,水素イオン$\ce{H+}$が溶液中に多量に存在し,水素イオン$\ce{H+}$は還元されやすいので,$\ce{H+}$から水素$\ce{H2}$が発生していることに注意してください.
一方,強酸でない場合は,$\ce{H+}$が溶液中に少ないので,水$\ce{H2O}$から直接水素$\ce{H2}$が発生していますね.
溶液に酸化されやすいイオンが含まれていないときは,水素$\ce{H2}$が発生する.このときの反応式は,溶液が強塩基のときと強塩基でないときで異なる.
まとめ
以上をまとめると次のようになります.
- 陽極の反応
- 電極が金Au,白金Pt,炭素C以外のとき,電極が陽イオンになって溶ける.
- 電極が金Au,白金Pt,炭素Cのとき,
- 溶液中にハロゲンが含まれていれば,酸化されてハロゲンが生じる.
- 溶液中にハロゲンが含まれていなければ,酸素$\ce{O2}$が生じる.
- 陰極の反応
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\ce{Cu^2+}$, $\ce{Ag+}$など)が含まれているとき,これらは還元されて析出する(Cu,Agなどが生じる).
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\ce{Cu^2+}$, $\ce{Ag+}$など)が含まれていないとき,水素$\ce{H2}$が生じる.
陽極はまず電極が何かを確認するところがスタートで,電極が溶けない場合には,溶液中の酸化されやすいイオンが酸化されるか,なければ酸素$\ce{O2}$が生じます.
一方,陰極は電極が解けることはなく,溶液中の還元されやすいイオンが還元されるか,なければ水素$\ce{H2}$が生じます.
そのため,陰極の反応の
- 電極が金Au,白金Pt,炭素Cのとき,
- 溶液中にハロゲンが含まれていれば,酸化されてハロゲンが生じる.
- 溶液中にハロゲンが含まれていなければ,酸素$\ce{O2}$が生じる.
と,
- 陰極の反応
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\ce{Cu^2+}$, $\ce{Ag+}$など)が含まれているとき,これらは還元されて析出する(Cu,Agなどが生じる).
- 溶液中にイオン化傾向の小さい金属のイオン($\ce{Cu^2+}$, $\ce{Ag+}$など)が含まれていないとき,水素$\ce{H2}$が生じる.
が対応していると理解すると分かりやすいかも知れませんね.
「電池と電気分解」の一連の記事はこちら
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