酸化数の8つの原則と2つの例外|酸化・還元の程度の求め方

酸化還元反応
酸化還元反応

酸化還元反応では

  • 電子$\mrm{e^-}$を放出するとき酸化される
  • 電子$\mrm{e^-}$を受け取るとき還元される

というのでした.

電子$\mrm{e^-}$の受け渡しを考えるだけではなく,「どれくらい酸化・還元されているのか?」ということまでは分かりません.

実は酸化され具合を示す指標として酸化数というものがあり,酸化数を考えることでどれくらい酸化されたのかが分かります.

この記事では

  • 酸化数の求め方
  • 酸化数の具体例

を順に説明します.

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酸化数の定義

酸化数とは「各元素がどれくらい酸化しているかの指標」を表すもので,次の8つの原則と2つの例外により定められます.

もう少し詳しく言えば「物質に含まれる各元素の周囲の電子が,単体の時と比べてどれくらい増減しているか」を表したものです.

[酸化数]物質の酸化数に関して,次で酸化数を定める.

  1. 単体中の元素の酸化数は$0$
  2. 化合物中,イオン中の酸素$\mrm{O}$の酸化数は$-2$
  3. 化合物中,イオン中の水素$\mrm{H}$の酸化数は$+1$
  4. 化合物中,イオン中のハロゲンの酸化数は$-1$
  5. 化合物中,イオン中のアルカリ金属の酸化数は$+1$
  6. 化合物中,イオン中のアルカリ土類金属の酸化数は$+2$
  7. 化合物中のすべての元素の酸化数を足すと$0$
  8. $n$価のイオン中のすべての元素の酸化数を足すと$n$(陽イオンなら$n>0$,陰イオンなら$n<0$)

ただし,次は例外とする.

  1. 過酸化水素$\mrm{H_2O_2}$中の酸素$\mrm{O}$の酸化数は$-1$
  2. 陽性の強い金属(主にアルカリ金属,アルカリ土類金属)の水素化物中の水素の酸化数は$-1$

酸化数はプラスでも$+1$, $+2$のように,数の前には必ず$+$が必要です.

一般に酸化還元反応の前後で酸化数が大きくなっていれば元素は酸化された,小さくなっていれば元素は還元されたということができます.

酸化数の具体例

酸化数を具体的に考えていきましょう.

すぐに分かる酸化数

単体の酸化数と例外は瞬時に酸化数を求められるようにしておきましょう.

単体の酸化数の例

単体(1種類の元素のみからなる物質)なら酸化数は$0$なので,例えば

  • 塩素$\mrm{Cl_2}$中の元素$\mrm{Cl}$の酸化数は$0$
  • 酸素$\mrm{O_2}$中の元素$\mrm{O}$の酸化数は$0$
  • 水素$\mrm{H_2}$中の元素$\mrm{H}4の酸化数は$0$
  • アルミニウム$\mrm{Al}$中の元素$\mrm{Al}$の酸化数は$0$

です.このように,単体の酸化数は見た瞬間に$0$です.

酸化数の例外

次は例外なので,見た瞬間に答えが出ます.

  • 過酸化水素$\mrm{H_2O_2}$中の元素$\mrm{O}$の酸化数は$-1$,水素$\mrm{H}$の酸化数は原則通り$+1$
  • 水素化ナトリウム$\mrm{NaH}$中の元素$\mrm{H}$の酸化数は$-1$,ナトリウム$\mrm{Na}$の酸化数は原則通り$+1$
  • 水素化マグネシウム$\mrm{MgH_2}$中の元素$\mrm{H}$の酸化数は$-1$,マグネシウム$\mrm{Mg}$の酸化数は原則通り$+2$

です.このように例外の酸化数も見た瞬間に分かります.

計算して求まる酸化数

単体でも例外でもない場合は,酸化数の決まっている元素を原則の2〜6でから決定し,残りの元素の酸化数は原則の7と8を用いて求めます.

例1:酸化マンガン(IV)

酸化マンガン(IV)$\mrm{MnO_2}$中のマンガン$\mrm{Mn}$の酸化数を求めよ.

マンガン$\mrm{Mn}$の酸化数を$x$とする.

原則(2)から化合物中の$\mrm{O}$の酸化数は$-2$である.

また,原則(7)から化合物中の全ての元素の酸化数を足すと$0$となるので,

    \begin{align*}x\cdot1+(-2)\cdot2=0\Ra x=4\end{align*}

となって,マンガン$\mrm{Mn}$の酸化数は$+4$と分かる.

実は酸化マンガン(IV)のIVは酸化数を表しています.

例2:硫酸

硫酸$\mrm{H_2SO_4}$中の硫黄$\mrm{S}$の酸化数を求めよ.

硫黄$\mrm{S}$の酸化数を$x$とする.

  • 原則(2)から化合物中の$\mrm{O}$の酸化数は$-2$
  • 原則(3)から化合物中の$\mrm{H}$の酸化数は$+1$

である.また,原則(7)から化合物中の全ての元素の酸化数を足すと$0$となるので,

    \begin{align*}(+1)\cdot2+x\cdot1+(-2)\cdot4=0\Ra x=6\end{align*}

となって,硫黄$\mrm{S}$の酸化数が$+6$と分かる.

例3:二クロム酸カリウム

二クロム酸カリウム$\mrm{K_2Cr_2O_7}$中のクロム$\mrm{Cr}$の酸化数を求めよ.

クロム$\mrm{Cr}$の酸化数を$x$とする.

  • 原則(2)から化合物中の$\mrm{O}$の酸化数は$-2$
  • 原則(5)から化合物中の$\mrm{K}$の酸化数は$+1$

である.また,原則(7)から化合物中の全ての元素の酸化数を足すと$0$となるので,

    \begin{align*}(+1)\cdot2+x\cdot2+(-2)\cdot7=0\Ra x=6\end{align*}

となって,クロム$\mrm{Cr}の酸化数は$+6$と分かる.

なお,「二クロム酸カリウム」の初めの「二」は,カタカナの「ニ」ではなく漢数字の「二」です.つまり,「二クロム」は「2つのクロム」です.

カタカナで「ニクロム」は電気コンロなどに使われる抵抗の大きい熱源です(「ニクロム」という元素はありません).

例4:過マンガン酸イオン

過マンガン酸イオン$\mrm{MnO_4^-}$中のマンガン$\mrm{Mn}$の酸化数を求めよ.

マンガン$\mrm{Mn}$の酸化数を$x$とする.

原則(2)から化合物中の$\mrm{O}$の酸化数は$-2$である.

また,原則(8)からイオン中の全ての元素の酸化数を足すとそのイオンの価数と等しくなるので,

    \begin{align*}x\cdot1+(-2)\cdot4=-1\Ra x=7\end{align*}

となって,マンガン$\mrm{Mn}$の酸化数は$+7$と分かります.

例1の酸化マンガン(IV)$\mrm{MnO_2}$の酸化数が$+4$だったことを思い出すと,過マンガン酸イオン$\mrm{MnO_4^-}$のマンガン$\mrm{Mn}$の方がより酸化されているということができます.

実際,中性・塩基性条件下での過マンガン酸カリウムは酸化剤として

    \begin{align*}\mrm{MnO_4^- + 2H_2O + 3e^- \to MnO_2 + 4OH^-}\end{align*}

という半反応式で反応することを思い出すと,相手を酸化させるだけ過マンガン酸イオン$\mrm{MnO_4^-}$が還元されて酸化マンガン(IV)$\mrm{MnO_2}$になるわけですから,過マンガン酸イオン$\mrm{MnO_4^-}$より酸化マンガン(IV)$\mrm{MnO_2}$の方が酸化数が小さいのは自然ですね.

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プロフィール

山本やまもと 拓人たくと

元予備校講師.講師として駆け出しの頃から予備校の生徒アンケートで抜群の成績を残し,通常の8倍の報酬アップを提示されるなど頭角を表す.

飛び級・首席合格で大学院に入学しそのまま首席修了するなど数学の深い知識をもち,本質をふまえた分かりやすい授業に定評がある.

現在はオンライン家庭教師,社会人向け数学教室での講師としての教育活動とともに,京都大学で数学の研究も行っている.専門は非線形偏微分方程式論.大学数学系YouTuberとしても活動中.

趣味は数学,ピアノ,甘いもの食べ歩き.

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