この記事では,酸化剤と還元剤の2つの物質が与えられたとき,この2つの物質によって起こる酸化還元反応の化学反応はどのように考えればよいでしょうか?
ここで,前々回の記事で説明した「酸化剤の半反応式」と「還元剤の半反応式」が重要です.
半反応式に含まれる電子$\ce{e-}$やイオンは,普通の化学反応にあってはいけないので,半反応式中の電子$\ce{e-}$とイオンを消去する必要があります.
とは言え,そう難しいものではなく
- 電子$\ce{e-}$を消去するステップ
- イオンを消去するステップ
の2つのステップに分けて考えると,分かりやすいです.
この記事では,半反応式から化学反応式を導く方法を説明します.
必ず自分の手を動かしてアウトプットし,確実に自分のものにして下さい.
「酸化還元反応」の一連の記事はこちら
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】 【酸化還元反応2|酸化剤と還元剤の半反応式の一覧と導き方】 【酸化還元反応3|酸性条件と中性・塩基性条件で何が変わる?】 【酸化還元反応4|半反応式から化学反応式を導く2つのステップ】←今の記事 【酸化還元反応5|酸化数は8つの原則と2つの例外で求める】
目次
電子を式から消去するステップ
酸化剤の半反応式,還元剤の半反応式を使った化学反応式の導き方を例を挙げて説明します.
どちらも結局は電子$\ce{e-}$を消すことを目標にしていることに注目してください.
電子の係数が等しいとき
熱濃硫酸$\ce{H2SO4}$とシュウ酸$\ce{(COOH)2}$の酸化還元反応を考えます.
熱濃硫酸$\ce{H2SO4}$の半反応式は
シュウ酸$\ce{(COOH)2}$の半反応式は
です.電子$\ce{e-}$の係数は(1)も(2)もともに2で等しいので,両辺をそのまま足すと電子$\ce{e-}$が消えますね.
ですから,酸化還元反応式
が得られました.
電子の係数が異なるとき
二酸化硫黄$\ce{SO3}$と硫化水素$\ce{H2S}$の酸化還元反応を考えます.
二酸化硫黄$\ce{SO3}$の半反応式は
硫化水素$\ce{H2S}$の半反応式は
です.電子$\ce{e-}$の係数は(1)は4で(2)は2と異なります.この場合は,連立方程式の消去法の要領で,(1)と(2)の両辺の両辺に2をかけたものを足すと電子$\ce{e-}$が消えそうです.
実際に,
よって,酸化還元反応式
が得られました.
両辺を足したとき,(1)左辺の水素イオン$\ce{2H+}$と(2)右辺の水素イオン$\ce{2H+}$も一緒に消えていることに注意してください.
イオンを式から消去するステップ
上の2つの例では,電子を消去した後の式にはイオンは残りませんでしたが,場合によっては式中にイオンが残る場合があります.
この場合には,元から存在するイオンと併せることにより,イオンを処理することができます.
右辺のみにイオンが生じるとき
希硝酸$\ce{HNO3}$と二酸化硫黄$\ce{SO3}$の酸化還元反応を考えます.
希硝酸$\ce{HNO3}$の半反応式は
二酸化硫黄$\ce{SO3}$の半反応式は
です.電子$\ce{e-}$の係数は(1)は3で(2)は2と異なりますから,(1)の両辺に2をかけたものと(2)の両辺に3をかけたものを足すと,
よって,酸化還元反応式
が得られました.
しかし,反応後の右辺には硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$と水素イオン$\ce{H+}$が残っています.原則として,化学反応式中にイオンがあってはいけないので,このイオンを消す必要があります.
いま,硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$1個と水素イオン$\ce{H+}$2個を合わせて硫酸$\ce{H2SO4}$とすることができるので,次のようになって酸化還元反応式が完成です.
左辺にイオンが生じるとき
硫酸酸性下での過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$と硫化水素$\ce{H2S}$の酸化還元反応を考えます.
過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$の半反応式は
硫化水素$\ce{H2S}$の半反応式は
です.電子$\ce{e-}$の係数は(1)は5で(2)は2と異なりますから,(1)の両辺に2をかけたものと(2)の両辺に5をかけたものを足すと,
よって,酸化還元反応式
が得られました.
しかし,反応前の左辺には過マンガン酸イオン$\ce{MnO4^-}$と水素イオン$\ce{H+}$が,反応後の右辺にはマンガン(II)イオン$\ce{Mn^2+}$が残っていますから,これらを消さなければなりません.
ここで,(1)の半反応式は過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$の半反応式だったことを思い出すと,溶液中にはカリウムイオン$\ce{K+}$が存在しているはずです.
そこで,カリウムイオン$\ce{K+}$1個と過マンガン酸イオン$\ce{MnO4^-}$1個を合わせて過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$とすることができるので,両辺にカリウムイオン$\ce{K+}$を2個加えれば次のようになります.
次に思い出したいのは,今は硫酸酸性下での反応だということです.つまり,溶液中には硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$が存在しています.両辺に硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$を3個加えれば次のようになって酸化還元反応が完成します.
半反応式では直接的に出てこなかった硫酸イオン$\ce{SO4^2-}$ですが,反応式ではこのように必要になります.
酸化数
ここまで,酸化還元反応についてみてきましたが,どちらの物質が酸化されどちらの物質が還元されたのかの判定については触れてきませんでした.
実は酸化還元反応で酸化されたのか還元されたのかを測る指標として酸化数というものがあります.
酸化数は8つのルールと2つの例外を知っていれば,簡単に求めることができます.
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