「酸化還元反応の半反応式はややこしくて覚えられない!」という人がいますが,半反応式で実際に覚えるべき部分は一部だけで十分です.
というのは,半反応式の覚えるべき部分さえを覚えてしまえば,残りの部分は自動的に導けるようになっているからですね.
さらに,半反応式が書ければ,酸化還元反応の化学式も自動的に導くことができます.
つまり,酸化還元反応を導くには
- 半反応式で覚えるところを覚える
- 半反応式を導く
- 酸化還元反応式を導く
の3ステップでよく,覚える必要のある部分は最初のステップだけです.
この記事では
- 最初のステップ(半反応式で覚えるところ)
- 2つ目のステップ(半反応式を導く)
を具体例を用いて説明します.
「酸化還元反応」の一連の記事はこちら
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】 【酸化還元反応2|酸化剤と還元剤の半反応式の一覧と導き方】←今の記事 【酸化還元反応3|酸性条件と中性・塩基性条件で何が変わる?】 【酸化還元反応4|半反応式から化学反応式を導く2つのステップ】 【酸化還元反応5|酸化数は8つの原則と2つの例外で求める】
酸化剤と還元剤
酸化還元反応を考えるとき,どの物質が酸化され,どの物質が還元されるのかを把握することは非常に大切です.
さて,前の記事で説明した通り
- 「電子を失う」ときその物質は「酸化」される
- 「電子を受け取る」ときその物質は「還元」される
というのでした.
ある物質Aが「電子を失う」とき,「その電子を受け取ったヤツ」がいることになります.言い換えれば,物質Aの「酸化を引き起こすヤツ」がいるはずです.
この「酸化を引き起こすヤツ」には,以下のように名前がついています.
相手を酸化させる(=自分が還元される)物質のことを酸化剤という.
ここでの注意点は,「酸化剤」は「電子を受け取る」ので「還元される」ということです.
「酸化剤」は「相手を酸化させ,自分は還元される」ということに注意してください.
これは言葉の問題ですが,「消臭剤」は「周囲を消臭するヤツ」で,自分が消臭されるわけではありませんね.
このように「~剤」というのは「相手を~するもの」ということですから,「酸化剤」は「相手を酸化するもの」です.
同様に,ある物質Bが「電子を受け取る」とき,「その電子を失ったヤツ」ということで,この「還元を引き起こすヤツ」には,以下のように名前がついています.
相手を還元させる(=自分が酸化される)物質のことを還元剤という.
酸化剤とは逆に,「還元剤」は「相手を還元させ,自分は酸化される」わけですね.
半反応式の一覧
さて,前回の記事では具体的に半反応式を用いて酸化還元反応を説明しました.
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】
そもそも酸化,還元は電子$\ce{e-}$の動きで説明することができます.この記事では,具体例を用いて酸化還元反応を原理から説明します.
このように「酸化還元反応は半反応式が分かっていれば書ける」わけですが,これは同時に「半反応式が分かっていなければ書けない」ということでもあります.
実は以下に挙げているように,よく現れる半反応式は決まっています.
とはいえ,半反応式を丸暗記する必要はなく,部分的に覚えるだけで半反応式の残りの部分は導くことができます.
ただし,この
- 半反応式のどの部分を覚えるべきか
- 残りの部分をどう導くか
はこの半反応式一覧の下で説明しますので,ひとまず一覧は飛ばしても構いません.
酸化剤の半反応式
酸化剤の半反応式です.
物質/化学式(条件) | 半反応式 |
---|---|
過酸化水素$\ce{H2O2}$ (中性・塩基性) |
|
オゾン $\ce{O3}$ (酸性) |
|
過酸化水素 $\ce{H2O2}$ (酸性) |
|
過マンガン酸カリウム $\ce{KMnO4}$ (酸性) |
|
過マンガン酸カリウム $\ce{KMnO4}$ (中性・塩基性) |
|
濃硝酸 $\ce{HNO3}$ |
|
希硝酸 $\ce{HNO3}$ |
|
熱濃硫酸 $\ce{H2SO4}$ |
|
二クロム酸カリウム $\ce{K2Cr2O7}$ (酸性) |
|
ハロゲン $\ce{X2}$ |
|
二酸化硫黄 $\ce{SO3}$ |
|
酸素 $\ce{O2}$ |
|
ただし,ハロゲンの$\ce{X}$は具体的にフッ素$\ce{F}$,塩素$\ce{Cl}$,臭素$\ce{Br}$などに読み換えてください.
つまり,それぞれ
となります.
なお,酸性条件,中世・塩基性条件については,次の記事で説明することとし,この記事では触れません.
【酸化還元反応3|酸性条件と中性・塩基性条件で何が変わる?】
溶液の酸性,中性・塩基性により,同じ物質でも異なる半反応式になることがあります.なんとなく理解している人も多い,この酸性条件,中性・塩基性条件について解説します.
還元剤の半反応式
還元剤の半反応式です.
物質/化学式(条件) | 半反応式 |
---|---|
塩化スズ(II) $\ce{SnCl2}$ |
|
硫酸鉄(II) $\ce{FeSO4}$ |
|
硫化水素 $\ce{H2S}$ |
|
過酸化水素 $\ce{H2O2}$ |
|
二酸化硫黄 $\ce{SO3}$ |
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金属 $\ce{X}$ |
|
シュウ酸 $\ce{(COOH)2}$ |
|
ヨウ化カリウム $\ce{KI}$ |
|
水素 $\ce{H}$ |
|
チオ硫酸ナトリウム $\ce{Na2S2O3}$ |
|
ただし,金属Xの半反応式$\ce{X} \ce{->} \ce{X}^{n+} + n\ce{e-}$は具体的には,
- アルカリ金属($n=1$):リチウムLi,ナトリウムNa,カリウムK
- アルカリ土類金属($n=2$):マグネシウムMg,カルシウムCa,バリウムBa
- その他の金属:銀Ag,銅Cu,鉄Fe
などがあります.なお,3の「その他の金属」は物質によって$n$は変わります.
たとえば,
などとなります.
半反応式の覚えるべき部分と導き方
上に挙げた半反応式は丸ごと覚える必要はなく,覚えることは最小限にとどめ,あとはそこから自分で作り出せるようにします.
その手順は次の通りです.これは非常に重要です.
- 「酸化剤/還元剤」とその「変化後の物質」を覚える
- Oが足りない方に$\ce{H2O}$を足してOの個数を合わせる
- Hが足りない方に$\ce{H+}$を足してHの個数を合わせる
- 両辺の電荷が等しくなるように,電子$\ce{e-}$を足して電荷を合わせる
ですから,覚えるものは
- 酸化剤/還元剤
- その変化後の物質
だけで十分です.逆にいえば,これを覚えていなければ,手も足も出なくなります.
実際に,例を挙げて考えてみましょう.
例1
濃硝酸$\ce{HNO3}$の半反応式を導きましょう.
Step 1
「酸化剤」は濃硝酸$\ce{HNO3}$で,「変化後の物質」は二酸化窒素$\ce{NO2}$です.これは覚えておきます.
これで次のように書けます.
Step 2
(1)では左辺にOが3個,右辺にOが2個あります.
つまり,右辺にOが1個不足しているので,右辺に$\ce{H2O}$を1個足します.
これで次のように書けます.
Step 3
(2)では左辺にHが1個,右辺にHが2個あります.
つまり,左辺にOが1個不足しているので,左辺に$\ce{H+}$を1個足します.
これで次のように書けます.
Step 4
(3)では左辺に$\ce{H+}$の1個あるので左辺の電荷は+1,右辺は電荷が0です.
つまり,左辺の電荷が1多いので,左辺に$\ce{e-}$を1個足します.
これで次のようになって完成です.
例2
酸性条件下での過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$の半反応式を導きましょう.
Step 1
「酸化剤」は過マンガン酸カリウム$\ce{KMnO4}$で,酸性条件下での「変化後の物質」はマンガン(II)イオン$\ce{Mn^2+}$です.これは覚えておきます.
これで次のように書けます.
Step 2
(1)では左辺にOが4個,右辺にOがありません.つまり,右辺にOが4個不足しているので,右辺に$\ce{H2O}$を4個足します.
これで次のように書けます.
Step 3
(2)では左辺にHがなく,右辺にHが8個あります.($\ce{H2O}$は1つでHを2個もっており,$\ce{H2O}$が4個あるのでHは8個ある)
つまり,左辺にOが8個不足しているので,左辺に$\ce{H+}$を8個足します.
これで次のように書けます.
Step 4
(3)では左辺に$\ce{MnO4^-}$が1個,$\ce{H+}$が8個あるので左辺の電荷は7,右辺は$\ce{Mn^2+}$が1個あるので電荷が+2です.
つまり,左辺の電荷が5多いので,左辺に$\ce{e-}$を1個足します.
これで次のようになって完成です.
例3
チオ硫酸ナトリウム$\ce{Na2S2O3}$の半反応式を導きましょう.
Step 1
「酸化剤」はチオ硫酸ナトリウム$\ce{Na2S2O3}$で,酸性条件下での「変化後の物質」は四チオン酸イオン$\ce{Mn^2+}$です.これは覚えておきます.
これで次のように書けます.
Step 2
(1)では左辺にOが4個,右辺にもOが4個あります.
つまり,既に両辺のOの個数が一致しているので,$\ce{H2O}$は足さずに(1)のままにしておきます.
Step 3
(1)では左辺にHがなく,右辺にもHがありません.
つまり,既に両辺のHの個数が一致しているので,$\ce{H+}$は足さずに(1)のままにしておきます.
Step 4
(1)では左辺に$2\ce{S2O3^2-}$が2個あるので左辺の電荷は-4,右辺は$\ce{S4O6^2-}$が1個あるので電荷は-2です.
つまり,右辺の電荷が2多いので,左辺に$\ce{e-}$を2個足します.
これで次のようになって完成です.
半反応式は「酸化剤/還元剤」と「変化後の物質」を覚え,
- 残りは水$\ce{H2O}$で酸素Oの個数
- 水素イオン$\ce{H+}$で水素Hの個数
- 電子$\ce{e-}$で電荷
を両辺で揃えることで得られる.
酸性条件と中性・塩基性条件
さて,先ほども軽く触れましたが,同じ物質でも
- 溶液が酸性のとき(酸性条件)
- 溶液が中性・塩基性のとき(中性・塩基性条件)
で半反応式が異なることがあります.
次の記事では,この酸性条件と中性・塩基性条件について解説します.
「酸化還元反応」の一連の記事はこちら
【酸化還元反応1|どっちが酸化?還元?原理から理解しよう!】 【酸化還元反応2|酸化剤と還元剤の半反応式の一覧と導き方】 【酸化還元反応3|酸性条件と中性・塩基性条件で何が変わる?】←次の記事 【酸化還元反応4|半反応式から化学反応式を導く2つのステップ】 【酸化還元反応5|酸化数は8つの原則と2つの例外で求める】