ワンポイント数学2
絶対値の定義から一瞬で解ける問題

ワンポイント数学
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絶対値を定義からきちんとイメージで理解していれば,例えば

  • 不等式$|x-3|<5$
  • 方程式$|x-2|+|x-4|=8$

などはものの数秒で答えを出すことができます.

しかし,実際に予備校で教えていると,多くの生徒は絶対値の定義をきちんと言えないことが多いです.

絶対値の定義を「実数$a$に対して,$a\geqq0$なら$|a|=a$で,$a<0$なら$|a|=-a$」と言う人は多いのですが,これは絶対値の性質であって定義ではありません!

この記事では

  • 絶対値の定義
  • 定義から得られる帰結1
  • 定義から得られる帰結2

を具体例を用いて順に解説します.

絶対値の定義

絶対値は次のように定義されます.

実数$a$に対して,$a$と原点$0$との距離を$a$の絶対値といい,$|a|$と表す.

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例えば,$|3|$は数直線上の$3$と原点$0$との距離だから

    \begin{align*}|3|=3-0=3\end{align*}

となり,$|-3|$は数直線上の$-3$と原点$0$との距離だから

    \begin{align*}|3|=3-0=3\end{align*}

となるだけのことですね.

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このように,絶対値はただ「原点との距離」を表しているだけです.

絶対値の定義から得られる帰結1

この定義が分かっていれば,次の[帰結1]は当たり前ですね.

[帰結1] 実数$a$, $b$に対して,$|a-b|$は$a$と$b$の距離を表す.

定義から$|a-b|$は「$a-b$と原点$0$との距離」である.

また,数直線上の$a-b$と$0$をちょうど$b$だけ平行移動させると,それぞれ$a$と$b$に移る.

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平行移動しても区間の長さは変わらないから,$|a-b|$は$a$と$b$の距離を表す.

絶対値の定義と[帰結1]がしっかり意識できていれば,次のような問題は瞬時に答えが分かります.

次の方程式,不等式を解け.

  1. $|x|=2$
  2. $|x|<2$
  3. $|x-3|\leqq5$
  4. $|x-2|+|x-4|=8$

絶対値の定義より$|x|$は「$x$と原点$0$との距離」を表すから,$|x|=2$は

「$x$と原点$0$との距離が$2$」

という意味である.

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したがって,$x=\pm2$を得る.


絶対値の定義より$|x|$は「$x$と原点$0$との距離」を表すから,$|x|<2$は

「$x$と原点$0$との距離が$2$より小さい」

という意味である.

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したがって,$-2<x<2$を得る.


[帰結1]より$|x-3|$は「$x$と$3$との距離」を表すから,不等式$|x-3|\leqq5$は

「$x$と$3$との距離が$5$以下」

という意味である.

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したがって,$3-5<x<3+5$,すなわち$-2<x<8$を得る.


[帰結1]より

  • $|x-2|$は「$x$と$2$との距離」を
  • $|x-4|$は「$x$と$4$との距離」を

表すから,方程式$|x-2|+|x-4|=8$は「$x$と$2$との距離と,$x$と$2$との距離の和は$8$である」という意味である.

$2$と$4$の距離は$2$なので,数直線上の$2$から左に$3$の点,数直線上の$4$から右に$3$の点は条件を満たす.

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したがって,$x=-1,7$を得る.

ただし,この考え方は答えはピタッとハマればすぐに解ける問題がある一方,複雑になると分かりにくくなることもあるので,次の帰結2も当たり前にしておきましょう.

絶対値の定義から得られる帰結2

絶対値の定義のイメージができていると非常に強力な様が見てとれましたが,実際の記述答案では式変形で解く方が無難です.

そのためには,冒頭でも少し触れた次の[帰結2]が重要です.

[帰結2] 実数$a$に対して,次が成り立つ.

    \begin{align*}|a|=\begin{cases}a&(a\ge0)\\-a&(a<0)\end{cases}\end{align*}

[1] $a\geqq0$のとき,下図のようになるので

    \begin{align*}|a|=a-0=a\end{align*}

である.

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[2] $a<0$のとき,下図のようになるので

    \begin{align*}|a|=0-a=-a\end{align*}

である.

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[1]は$a=3$だと思って,[2]は$a=-3$だと思って読んでみると分かりやすいでしょう.

この[帰結2]を用いて先ほどの問題を解いてみましょう.

[再掲] 次の方程式,不等式を解け.

  1. $|x|=2$
  2. $|x|<2$
  3. $|x-3|\leqq5$
  4. $|x-2|+|x-4|=8$

絶対値がある場合には,絶対値の中身の正負で場合分けするのが定石です.


[1] $x\geqq0$のとき,$|x|=x$だから,

    \begin{align*}|x|=2\iff x=2\end{align*}

である.これは$x\geqq0$を満たす.

[2] $x<0$のとき,$|x|=-x$だから,

    \begin{align*}|x|=2\iff -x=2\iff x=-2\end{align*}

である.これは$x<0$を満たす.

[1], [2]より,解は$x=\pm2$である.


[1] $x\geqq0$のとき,$|x|=x$だから,

    \begin{align*}|x|<2\iff x<2\end{align*}

である.これと$x\geqq0$を併せて$0\leqq x<2$である.

[2] $x<0$のとき,$|x|=-x$だから,

    \begin{align*}|x|=2 \iff& -x=2 \\\iff& x=-2\end{align*}

である.これと$x<0$を併せて$-2<x<0$である.

[1], [2]より,解は$-2<x<2$である.


[1] $x\geqq3$のとき,$x-3\geqq0$より,$|x-3|=x-3$だから,

    \begin{align*}|x-3|\leqq5 \iff& x-3\leqq5 \\\iff& x\leqq8\end{align*}

である.$x\geqq3$を併せて$3\leqq x<8$である.

[2] $x<3$のとき,

$x-3<0$より,$|x-3|=-(x-3)$だから,

    \begin{align*}|x-3|\leqq5 \iff& -(x-3)\leqq5 \\\iff& x\geqq-2\end{align*}

である.$x<3$を併せて$-2\leqq x<3$である.

[1], [2]より,解は$-2\leqq x\leqq8$である.


[1] $x\geqq4$のとき,$x-2\geqq x-4\geqq0$より,$|x-2|=x-2$かつ$|x-4|=x-4$だから,

    \begin{align*}&|x-2|+|x-4|=8 \\\iff& (x-2)+(x-4)=8 \\\iff& x=7\end{align*}

である.これは$x\geqq4$を満たす.

[2] $4>x\geqq2$のとき,$x-2\geqq 0>x-4$より,$|x-2|=x-2$かつ$|x-4|=-(x-4)$だから,

    \begin{align*}&|x-2|+|x-4|=8 \\\iff& (x-2)-(x-4)=8 \\\iff& 2=8\end{align*}

である.どんな$x$に対してもこの式は成り立たないから解なし.

[3] $2>x$のとき,$0>x-2>x-4$より,$|x-2|=-(x-2)$かつ$|x-4|=-(x-4)$だから,

    \begin{align*}&|x-2|+|x-4|=8 \\\iff& -(x-2)-(x-4)=8 \\\iff& x=-1\end{align*}

である.これは$2>x$を満たす.

[1]-[3]より,解は$x=-1,7$である.

[帰結1]を用いて求めた回と一致しましたね!

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