絶対値をきちんとイメージから分かっていれば,例えば
- 不等式$|x-3|<5$
- 方程式$|x-2|+|x-4|=6$
などはものの数秒で答えを出すことができます.
なお,実際に予備校で教えていると
「絶対値は中身が0以上ならそのまま外す,中身が負ならマイナスをかけて外す」
と言う人は多いのですが,これは絶対値の性質であって定義ではありません.
性質が言えることはそれで素晴らしいことですが,「じゃあ,これが成り立つ理由は?」を聞くと途端に考え込んでしまう人が多いのも事実で,こうなると応用力が身に付くかは怪しくなってきます.
この記事で絶対値のイメージをしっかり理解して,自信を持って絶対値を扱えるようにしてください.
絶対値の定義
絶対値のイメージは「距離」で次のように定義されます.
[絶対値] 実数$a$に対して,$a$と原点0との距離を$a$の絶対値といい,$|a|$と表す.
絶対値はただ「原点との距離」を表しているだけなのですね.
ここで次の[事実]は当たり前ですが重要です.
実数$a$, $b$の大小関係が$b<a$であれば,$a$と$b$の距離は$a-b$である.
いわゆる「距離は『大 引く 小』」です.中学で耳にタコができるほど言われた人もいるかもしれませんね.
要するに,数直線上の2点について,右にあるものから左にあるものを引けば2点間の距離が求まるということです.
数直線を思い浮かべて,以下の例を考えてください.
- $2$と原点$0$との距離は$2-0=2$ですから,$|2|=2$です.
- $-2$と原点$0$との距離は$0-(-2)=2$ですから,$|-2|=2$です.
- $\pi$と原点$0$との距離は$\pi-0=\pi$ですから,$|\pi|=\pi$です.
- $0$と原点$0$との距離は$0-0=0$ですから,$|0|=0$です.
- $-\dfrac{2}{3}$と原点$0$との距離は$0-\bra{-\dfrac{2}{3}}=\dfrac{2}{3}$ですから,$\abs{-\dfrac{2}{3}}=\dfrac{2}{3}$です.
絶対値の定義と,いまみた事実を考えれば当たり前ですね?
帰結1
さて,次の[帰結1]も当たり前にしておきましょう.
[帰結1] 実数$a$, $b$に対して,$|a-b|$は$a$と$b$の距離を表す.
$|a-b|$を定義通りに言えば「$a-b$と原点0との距離」ですね.
数直線上で$a-b$を右にちょうど$b$だけ動かした$a$と,原点0を右にちょうど$b$だけ動かした$b$との距離も,並行移動しただけですから$|a-b|$です.
したがって,$|a-b|$は$a$と$b$の距離を表すことが分かりました.
具体例
[絶対値の定義]や[帰結1]をしっかり意識していれば,次のような問題は瞬時に解けます.
次の方程式,不等式を解け.
- $|x|=2$
- $|x|<2$
- $|x-3|\leqq5$
- $|x-2|+|x-4|=8$
答えは以下の通りになります.
定義から$|x|$は$x$と原点0との距離を表す.よって,$|x|=2$は「$x$と原点0との距離が2」ということに他ならない.
したがって,$x=\pm2$を得る.
定義から$|x|$は$x$と原点0との距離を表す.よって,$|x|<2$は「$x$と原点0との距離が2より小さい」ということに他ならない.
したがって,$-2<x<2$を得る.
[帰結1]から$|x-3|$は$x$と3との距離を表す.よって,$|x-3|\leqq5$は「$x$と3との距離が5以下」ということに他ならない.
したがって,$3-5<x<3+5$,すなわち$-2<x<8$を得る.
[帰結1]から$|x-2|$は$x$と2との距離を表し,$|x-4|$は$x$と4との距離を表すから,$|x-2|+|x-4|=8$は「$x$と2との距離と,$x$と2との距離の和は8である」ということに他ならない.
2と4の距離は2なので,数直線上の2から左に3の点,数直線上の4から右に3の点は条件を満たす.
したがって,$x=-1,7$を得る.
実数$a$, $b$に対して,$|a|$は数直線上の原点0と$a$の距離を表し,$|a-b|$は数直線上の$a$と$b$の距離を表す.
帰結2
絶対値の定義のイメージができていると非常に強力な様が見てとれましたが,実際の記述答案では式変形で解くことが望まれます.
そこで,$a\ge0$のときの$|a|$と,$a<0$のときの$|a|$を分けて考えてみましょう.
[1] $a\geqq0$のとき,
なので,
となります.
[2] $a<0$のとき,
なので,
となります.
[1]は$a=3$を,[2]は$a=-3$を代入して読んでみると分かりやすいと思います.
これらをまとめたものが,絶対値の定義から分かる帰結の2つ目です.
[帰結2] 絶対値について,次が成り立つ.
これが冒頭に書いた「絶対値は中身が0以上なら……」の正体ですね.
具体例
この[帰結2]から先の問について,きちんと答案を作りましょう.
[再掲] 次の方程式,不等式を解け.
- $|x|=2$
- $|x|<2$
- $|x-3|\leqq5$
- $|x-2|+|x-4|=8$
絶対値がある場合には,絶対値の中身の正負で場合分けするのが定石です.
次の[1],[2]に分けて考える.
[1] $x\geqq0$のとき,
$|x|=x$だから,
である.これは$x\geqq0$を満たす.
[2] $x<0$のとき,
$|x|=-x$だから,
である.これは$x<0$を満たす.
[1], [2]より,解は$x=\pm2$である.
次の[1],[2]に分けて考える.
[1] $x\geqq0$のとき,
$|x|=x$だから,
である.これと$x\geqq0$を併せて$0\leqq x<2$である.
[2] $x<0$のとき,
$|x|=-x$だから,
である.これと$x<0$を併せて$-2<x<0$である.
[1], [2]より,解は$-2<x<2$である.
次の[1],[2]に分けて考える.
[1] $x\geqq3$のとき,
$x-3\geqq0$より,$|x-3|=x-3$だから,
である.これと$x\geqq3$を併せて$3\leqq x<8$である.
[2] $x<3$のとき,
$x-3<0$より,$|x-3|=-(x-3)$だから,
である.これと$x<3$を併せて$-2\leqq x<3$である.
[1], [2]より,解は$-2\leqq x\leqq8$である.
次の[1]-[3]に分けて考える.
[1] $x\geqq4$のとき,
$x-2\geqq x-4\geqq0$より,$|x-2|=x-2$かつ$|x-4|=x-4$だから,
である.これは$x\geqq4$を満たす.
[2] $4>x\geqq2$のとき,
$x-2\geqq 0>x-4$より,$|x-2|=x-2$かつ$|x-4|=-(x-4)$だから,
である.どんな$x$に対してもこの式は満たし得ないから解なし.
[3] $2>x$のとき,
$0>x-2>x-4$より,$|x-2|=-(x-2)$かつ$|x-4|=-(x-4)$だから,
である.これは$2>x$を満たす.
[1]-[3]より,解は$x=-1,7$である.
帰結1と帰結2の解法の関係
さて,以下の2つの解法を考えました.
- [絶対値]の定義と[帰結1]から数直線で考える解法
- [帰結2]から式変形で考える解法
最後に,これらは一見違った解法のように見えて,実は同じであることを見ておきましょう.
問3の場合
問3の$|x-3|\leqq5$では$x\geqq3$と$x<3$に分けて考えました.
$x\geqq3$の場合,$x-3\geqq0$より右辺$|x-3|$は$x-3$となりますが,数直線上でも
となるので,「大 引く 小」で同じく$|x-3|$は$x-3$となります.
また,$x<3$の場合も,$x-3<0$より右辺$|x-3|$は$-(x-3)=3-x$となりますが,数直線上でも
となるので,「大 引く 小」で同じく$|x-3|$は$3-x$となります.
このように,数直線上の3以上の$x$で考えるといずれの考え方でも$|x-3|=x-3$となり,3より小さい$x$で考えるといずれの考え方でも$|x-3|=3-x$となり,同じ結果が得られることになります.
問4の場合
問4の$|x-2|+|x-4|=8$では$x$が2と4の間にあるとき,「$x$と2の距離$|x-2|$」と「$x$と4の距離$|x-4|$」の和は「2と4の距離」に等しく,常に2になります.
これは「大 引く 小」から$|x-4|=4-x$かつ$|x-2|=x-2$なので両者を足すと2になるからですね.
これは式変形で考えても同様のことが起こります.
$x$が$4>x\geqq2$を満たすとき,$x-2\geqq0>x-2$だから
となって,確かにいつでも一定値2となりますね.
いずれの考え方でも,左辺$|x-2|+|x-4|$は2となるので,右辺の8になり得ず解は存在しないというわけです.
$|x-a|$を「$x$と$a$の距離」という観点で見れば,距離は「大 引く 小」で考えることになるので,$a$と$x$の左右が入れ替わる$x\geqq a$と$x<a$で場合分けすることの妥当性がみてとれる.
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