関数$f(x)$の$x=a$での微分係数$f'(a)$は,$y=f(x)$のグラフの接線の傾きを基にして定義されます.
教科書には,2通りの定義式
- $\lim\limits_{b\to a}\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$
- $\lim\limits_{h\to0}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$
が書かれています.
見た目は違うもののこれらは等しい式で,どちらを用いて計算しても同じ結果になります.
この記事では,これら2つの微分の定義式が同値であることを,例を用いて直感的に説明します.
関数$f(x)$に対して,$y=f(x)$のグラフの接線を求めるには,微分係数を用いることになります.微分係数は極限で定義されますが,その本質は平均変化率の極限です.微分係数の求め方が図形的にイメージできていれば,2度と定義式を忘れることはありません.
2つの微分係数の定義
微分係数は平均変化率の極限で定義されますが,図形的な意味としては接線の傾きを表します.
微分係数の定義1
1つ目の微分の定義式は次のものです.
[定義1] 関数$f(x)$と実数$a$に対して,極限
が存在するとき,$f(x)$は$x=a$で微分可能であるという.また,この極限を「関数$f(x)$の$x=a$における微分係数」といい,$f'(a)$と表す.
この$f'(a)$が$y=f(x)$の傾きを表すわけですが,それは次のような図形的イメージから来ています.
$xy$平面上に,点$\mrm{A}(a,f(a))$と異なる$y=f(x)$上の点$\mrm{B}(b,f(b))$を考えます.
このとき,$b\to a$とすれば直線ABは$\ell$の点Aでの接線に近付きます.
そのため,直線ABの傾き
は,$b\to a$とすれば$\ell$の点Aでの接線の傾きに近付くので,極限$\lim\limits_{b\to a}\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$が$\ell$の点Aでの接線の傾きとなるわけです.
微分係数の定義2
2つ目の微分の定義式は次のものです.
[定義2] 関数$f(x)$と実数$a$に対して,極限
が存在するとき,$f(x)$は$x=a$で微分可能であるという.また,この極限を「関数$f(x)$の$x=a$における微分係数」といい,$f'(a)$と表す.
[定義1]と同じく,この$f'(a)$も$y=f(x)$の傾きを表すわけですが,その図形的イメージも[定義1]と同様に次のようになります.
$h$を実数とすると,$xy$平面上に点$\mrm{A}(a,f(a))$と異なる$y=f(x)$上の点$\mrm{B}(a+h,f(a+h))$をとることができます.
このとき,$h\to0$とすれば直線ABは$\ell$の点Aでの接線に近付きます.
そのため,直線ABの傾き
も,$h\to0$とすれば$\ell$の点Aでの接線の傾きに近付くので,極限$\lim\limits_{h\to 0}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$が$\ell$の点Aでの接線の傾きとなるわけです.
[定義1]も[定義2]も,文字は違うものの,同じ図をイメージしていることが分かりますね.
2つの定義式が等しいこと
次に,[定義1]の定義式と[定義2]の定義式が等しいことを説明します.
[定義1]の定義式と[定義2]の定義式を念のため再掲しておきます.
- [定義1]の定義式:$\lim\limits_{b\to a}\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$
- [定義2]の定義式:$\lim\limits_{h\to 0}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$
[定義1]の考え方では点Aの$x$座標と点Bの$x$座標の差は$b-a$で,[定義2]のの考え方では点Aの$x$座標と点Bの$x$座標の差は$h$です.
これらは同じものを表しているので,[定義1]の$b$と[定義2]の$h$は,$b-a=h\iff b=a+h$という関係をもつことが分かります.
$b=a+h$から,
となります.また,
となります.よって,
が成り立ちます.
「微分係数」は$x$の増加が0に近付くときを考えているので,$x$の増加$b-a$に対して$b\to a$を考えても,$x$の増加を$h$に対して$h\to0$を考えても,本質は全く変わりませんね.
図のイメージから,どちらの定義式も同じであることを納得してください.
2つの定義で計算する
[定義1]の定義式と[定義2]の定義式が同じであることから,どちらの定義でも同じ結果になるはずです.
次の問題から,どちらの定義でも同じであることを納得してください.
$f(x)=x^3$の$x=2$での微分係数を求めよ.
定義1
$b-2$で約分して,不定形を解消しているのが見て取れますね.
定義2
$h$で約分して,不定形を解消しているのが見て取れますね.
補足
定義1と定義2で,$b-2$と$h$が対応していること注意すれば,どちらも同じ計算をしていることが分かります.
微分を習いたての人は[定義1]の$\lim\limits_{b\to a}\dfrac{f(b)-f(a)}{b-a}$で計算することが多く,慣れてくるにしたがって[定義2]の$\lim\limits_{h\to0}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$で計算する人が多くなります.
例でも考えたように,[定義1]では極限をとる前に$b-a$で約分する必要があり,途中で分子を因数分解して$(b-a)$を出しました.一方,[定義2]では$h$で約分すれば良いので,分子を$h$でくくれば約分ができます.
この意味で,[定義1]の定義で計算するには,因数分解を必要とするので少し計算が面倒になります.そのため,[定義2]の$\lim\limits_{h\to0}\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$で計算する方が楽なことが多いのです.