根号(ルート)の中身が2乗であれば,根号$\sqrt{\quad}$が外れるのはよく知られていますが,そこでよくある間違いがあります.
実数$a$に対して,$\sqrt{a^2}$で根号$\sqrt{\quad}$を外すとどうなるのか,正しく言えるでしょうか?
$\sqrt{a^2}=a$は間違いですよ.
また,これが正しく言えなければ,$\sqrt{3-2\sqrt{2}}=\sqrt{2}-1$といった二重根号を外すときにも間違いをしかねません.
この記事で,根号$\sqrt{\quad}$の扱いを確実にしてください.
根号の基本
まず,「平方根」と「根号」の定義をしましょう.
[根号] $b$が$a$の平方根であるとは,$b^2=a$をみたすことをいう.
また,0以上の実数$a$に対して,$a$の0以上の平方根を$\sqrt{a}$と表す.この記号$\sqrt{\quad}$を根号といい,$\sqrt{a}$を「ルート$a$」と読む.
大切なことは,「正の数$a$の平方根」は正と負の2つあるということです.
また,正の数$a$の0以上の平方根を$\sqrt{a}$と表すわけですから,中身が正の数であれば$\sqrt{\quad}$は正であると即答できます.
なお,0の平方根は0だけですね.
平方根の性質
次の平方根の性質は基本的です.
根号$\sqrt{\quad}$に関して,次が成り立つ.
- 実数$a$が$b$の平方根なら,$-a$も$b$の平方根である.
- 正の実数$a$に対して,$(\sqrt{a})^2=a$
- 正の実数$a$, $b$に対して,$\sqrt{ab}=\sqrt{a}\sqrt{b}$が成り立つ.
[証明]
1.実数$a$が$b$の平方根であることから,$a^2=b$が成り立つ.
よって,$(-a)^2=a^2=b$なので,[定義]から$-a$も$b$の平方根である.
2.$\sqrt{a}$は$a$の平方根の1つだから,2乗すると$a$となる.すなわち,[定義]から$(\sqrt{a})^2=a$が成り立つ.
3.$\sqrt{a}\sqrt{b}$は正の数であり,2より$(\sqrt{a}\sqrt{b})^2=(\sqrt{a})^2(\sqrt{b})^2=ab$が成り立つから,$\sqrt{a}\sqrt{b}$は$ab$の正の平方根である.
よって,定義から$\sqrt{ab}=\sqrt{a}\sqrt{b}$が成り立つ.
[証明終]
2乗の平方根
さて,ここで実数$a$に対して,$\sqrt{a^2}$がどうなるのかを考えてみます.
実数$a$に対して$a^2$は0以上の実数なので,定義から$\sqrt{a^2}$は2乗して$a^2$になる正の数です.
2乗して$a^2$となる数は$\pm a$ですから,$\sqrt{a^2}$は$a$と$-a$の正の方となるわけですが,実数$a$という条件だけでは$a$と$-a$のどちらが正の数か分かりません.
ですが,もし$a\ge0$や$a<0$という条件があれば話は別で,次の事実が成り立ちます.
実数$a$に対して,次が成り立つ.
$a\ge0$のときには$\sqrt{a^2}=a$なのですが,$a<0$のときには$\sqrt{a^2}=-a$となります.
「$a<0$のときに$\sqrt{a^2}=a$」ではないことに納得できるでしょうか?
$\sqrt{a^2}$は正の数ですから,$a<0$の場合に$\sqrt{a^2}=a<0$となって,これでおかしいことが分かりますね.
また,$\sqrt{a^2}=a$の$a$に具体的に負の数を代入してみても,おかしいことが実感できると思います.
例えば,$a=-3$とすると,$\sqrt{(-3)^2}=-3$となるわけですが,正しくは$\sqrt{(-3)^2}=\sqrt{9}=3$ですから確かにおかしいですね.
このように,$a<0$の場合には根号$\sqrt{\quad}$の中身が負の数の2乗となっているため,そのまま根号$\sqrt{\quad}$を外すと負の数となってしまいおかしくなるのです.
さて,事実の式の右辺をどこかで見た覚えはないでしょうか?
実は事実の式の右辺は絶対値$|a|$と全く同じなのです.つまり,$|a|$も$a\ge0$のときは$a$, $a<0$のときは$-a$となのです.
【参考記事:ワンポイント数学2|絶対値の定義から一瞬で解ける問題】
実数$a$に対して「$a$の絶対値」の定義を言えるでしょうか?絶対値を含む方程式として$|x-1|+|x-3|=4$といったものは「絶対値」の定義が分かっていれば,ほとんど計算せずに解くことができます.
つまり,次の事実が成り立ちます.
実数$a$に対して,次が成り立つ.
このように,$\sqrt{a^2}$を根号$\sqrt{\quad}$を外すと絶対値となるのです.
と,書いてきましたが,よく考えると実数$a$に対して$|a|$は0以上の実数であり,2乗すると$a^2$になるので[定義]から$\sqrt{a^2}=|a|$となるのは当たり前ですね(笑).
当たり前ですが,先ほど書いた$a\ge0$, $a<0$で場合分けして考えることも大切ですから,このあたりはどちらの考え方でも直感的に当たり前にしておきたいところです.
根号$\sqrt{\quad}$の中身が正の数であれば,いつでも正である.また,根号$\sqrt{\quad}$の中身が2乗になっているとき,根号$\sqrt{\quad}$を外すことができるが,このとき絶対値$|\quad|$を忘れないようにする.
二重根号
根号$\sqrt{\quad}$の中に根号$\sqrt{\quad}$が入ったものを二重根号と言いますが,二重根号は
のように二重根号は外すことができる場合があります.
二重根号を外すために実数$a$, $b$に対して,$\sqrt{(a\pm b)^2}=|a\pm b|$が成り立つことを用います.
したがって,根号$\sqrt{\quad}$の中身を$a^2\pm 2ab+b^2$の形に変形することがポイントになります.
の形に変形できれば,因数分解の公式
\begin{aglin*}
A^2\pm2AB+B^2=(A\pm B)^2
\end{align*}
を使って,$\sqrt{(a\pm b)^2}=|a\pm b|$と変形できますね.
定理の形にまとめれば次のようになります.
[二重根号] 正の実数$k$, $\ell$に対して,実数$a$, $b$が$a+b=k$, $ab=\ell$を満たせば,次が成り立つ.
[証明]
正の実数$k$, $\ell$に対して,実数$a$, $b$が$a+b=k$, $ab=\ell$を満たせば,
が従う.
[証明終]
因数分解の時と同じで,
- かけて$k$
- たして$\ell$
となるような$a$, $b$を見つければ良いわけですね.
このことは,因数分解の公式を使って二重根号$\sqrt{\sqrt{\quad}}$を外せることを知っていれば,自分で導くことができます.
【参考記事:ひねられても応用できる数学の勉強法4|数学は暗記か?】
「数学は暗記」という意見はよくあります.正しいと言えば正しいのですが,言葉足らずでもあります.「数学は暗記」の気持ちを理解して,数学の勉強に結びつけてください.
以下で例を見ますが,無理矢理にでも因数分解の公式の”$2ab$”の”2″を作り出して,二重根号$\sqrt{\sqrt{\quad}}$を外していることに注意してください.
例1
$\sqrt{3+2\sqrt{2}}$を考えます.
$3=2+1=(\sqrt{2})^2+1^2$, $\sqrt{2}=2\times\sqrt{2}\times1$ですから,
となります.ただし,最後の等式では,$\sqrt{2}+1>0$であることに注意.
例2
$\sqrt{5-4\sqrt{3}}$を考えます.
$5=3+2=(\sqrt{3})^2+(\sqrt{2})^2$, $4\sqrt{3}=2\sqrt{6}=2\times\sqrt{2}\times\sqrt{3}$ですから,
となります.ただし,最後の等式では,$\sqrt{3}-\sqrt{2}>0$であることに注意.
例3
$\sqrt{3-\sqrt{5}}$を考えます.
であり,$6=(\sqrt{5})^2+1^2$, $2\sqrt{5}=2\times\sqrt{5}\times1$ですから,
となります.ただし,$\sqrt{5}-1>0$であることに注意.
二重根号でありがちなミス
例えば,例2では
とするミスがよくあるのですが,間違いが分かるでしょうか?
$\sqrt{2}-\sqrt{3}<0$ですから,
としなければならないのです.ここでも,$\sqrt{a^2}=|a|$が重要であることが分かりますね.
$\sqrt{a^2}=|a|$に注意できていれば,
としようが,
としようが同じ結果になります.
例1〜例3で最後に根号$\sqrt{\quad}$の中身の正負に言及しているのは,このように根号$\sqrt{\quad}$を外すときにそのまま外すのかマイナスをつけて外すか変わってくるためです.
2乗の平方根でパッと根号$\sqrt{\quad}$を外してはいけない例の1つですね.根号$\sqrt{\quad}$の中身の正負は必ず確認するようにしてください.
また,二重根号$\sqrt{A+\sqrt{B}}$は必ずしも外せるわけではありませんが,外せるときには外しておかないと減点されるので注意してください.