高校化学では,最初に「暗記」と「計算」の両方を必要とする知識を学びます.
その後,無機化学などの「暗記」に偏る分野,状態方程式などの「計算」に偏る分野が出てきて,「結局,化学は何したらええねん!」となってしまう人は少なくないようです.
結論として,化学は「計算」と「暗記」の両方が必要となります.化学は「暗記」だけでも「計算」だけでも頭打ちになります.
この記事では,このうちの「計算」の勉強の仕方を説明します.
目次
計算問題の種類
化学の計算問題の多くは次の2通りに分けられます.
- 化学反応に無関係な計算
- 化学反応に関係する計算
1は温度や圧力や体積などを公式を用いるタイプの計算で,2は化学反応の物質量(mol)比を考えるタイプの計算です.
分子や原子の挙動や性質を調べるのが化学なのでどうしても化学反応が絡んでくることは多いですが,必ずしも化学反応が絡むわけではありません.例えば,理想気体の状態方程式や,浸透圧の計算などは化学反応に無関係ですね.
そのような場合には,公式が必要になることが多いです.
化学反応式が絡む計算では,化学反応式から物質量(mol)比を考えて計算することが多いです.
大まかに,化学の計算には「公式が必要なタイプの計算」と「化学反応式を用いるタイプの計算」に分けて考えると整理しやすい.
公式を使うタイプの計算
浸透圧の計算などの地味なものもありますが,ここでは
- ボイルの法則
- シャルルの法則
- ボイル・シャルルの法則
といった理想気体絡み計算について書きます.
当然,[ボイルの法則],[シャルルの法則],[ボイル・シャルルの法則]なのですが,私はこれらをあまり区別して使いません.というのは,これらは[(理想気体の)状態方程式]から導くことができるからです.
歴史的には,[(理想気体の)状態方程式]の方が後なのですが,ここでは[(理想気体の)状態方程式]から3法則を説明することにします.
以下,考える気体は全て理想気体とします.
状態方程式
体積$V$の容器に物質量$n$,温度$T$の気体を入れたところ,圧力$P$となったとします.このとき,$\dfrac{PV}{nT}$は常に同じ値をとります.
このときの値を気体定数といい,$R$で表します.
つまり,$PV=nRT$が成り立ち,この式を[(理想気体の)状態方程式]といいます.
ボイルの法則
[ボイルの法則]は温度$T$が一定の状態で考えます.すなわち,物質量$n$,気体定数$R$だけでなく$T$も変化しません.
このとき,$nRT$は変化しませんから,どれだけ$P$と$V$を変化させても$PV(=nRT)$は変化しません.つまり,$PV$は常に同じ値です.
ですから,$P$, $V$を$P_1$, $V_1$にしようが,$P_2$, $V_2$にしようが,$PV$は常に同じ値ですから
が成り立ちます.
シャルルの法則
[シャルルの法則]は圧力$P$が一定の状態で考えます.すなわち,物質量$n$,気体定数$R$だけでなく圧力$P$も変化しません.
このとき,$\dfrac{nR}{P}$は変化しませんから,どれだけ$T$と$V$を変化させても$\dfrac{V}{T}\bra{=\dfrac{nR}{P}}$は変化しません.つまり,$\dfrac{V}{T}$は常に同じ値です.
ですから,$V$, $T$を$V_1$, $T_1$にしようが,$V_2$, $T_2$にしようが,$\dfrac{V}{T}$は常に同じ値ですから
が成り立ちます.
ボイル・シャルルの法則
[ボイル・シャルルの法則]は[ボイルの法則]と[シャルルの法則]を合わせたもので,$P$, $V$, $T$のどれも一定にせずに考えます.
このとき,$nR$は変化しませんから,どれだけ$P$と$V$と$T$を変化させても$\dfrac{PV}{T}(=nR)$は変化しません.つまり,$\dfrac{PV}{T}$は常に同じ値です.
ですから,$V$, $T$を$P_1$, $V_1$, $T_1$にしようが,$P_2$, $V_2$, $T_2$にしようが,$\dfrac{PV}{T}$は常に同じ値ですから
が成り立ちます.
化学反応に無関係な計算は,公式が必要になることが多い.どのときに,どの公式を使うべきかを意識する.
化学反応式を使うタイプの計算
化学で計算が嫌いな人はこの2でつまずいている人が多いようです.
必ず成り立つこと
まず,基本的な[事実]ですが,
化学反応式について,「係数の比=物質量(mol)の比」が成り立つ.
これは本当によく使いますので,必ず身につけてください.
そもそも「物質量(mol)は個数を表すもの」という認識をしていることが大切です.
つまり,12個をひとまとめにして1ダースというように,$6.0\times10^{23}$個をひとまとめにして1[mol]といっているのです.
化学反応式
は1個の$\ce{H2}$と1個の$\ce{I2}$を反応させると,$\ce{HI}$が2個発生する
という個数の関係を式に直したものです.これは個数が$1:1:2$であればいいので,$6.0\times10^{23}$個の$\ce{H2}$と$6.0\times10^{23}$個の$\ce{I2}$を反応させると,$\ce{HI}$が$2\times6.0\times10^{23}$個発生するということと同じです.
さらに,$6.0\times10^23$個のことを1[mol]というのでしたから,1[mol]の$\ce{H2}$と1[mol]の$\ce{I2}$を反応させると,$\mrm{HI}$が2[mol]発生するということと同じです.
このように,係数の比は個数の比であり,個数の比は物質量(mol)比ですから,「係数の比=物質量(mol)の比」は常に使えます.
例題
「あー,なんか『係数の比』って他にも等しいものあったりするけど覚えられへんねんな……」という人がいますが,むしろ「係数の比=物質量(mol)の比」以外を使うことはオススメしません.
まず,化学反応式から直接的に分かるのは,あくまで物質量(mol)の比なので必ず物質量(mol)を経由します.
次の問題を考えます.
標準状態で5.6[L]の$\ce{H2}$を,$\ce{I2}$と過不足なく反応させて$\ce{HI}$を発生させた.このとき発生した$\ce{HI}$の体積を求めよ.ただし,標準状態の気体の体積は22.4[L]であるとする.
この問題を見て,「『係数の比=体積比』って成り立ったっけ?」とは考えない方がいいでしょう.状況によって変わるので混乱してしまいます.
あくまで「係数の比=物質量(mol)の比」を使います.
$\ce{H2}$の物質量(mol)は,$\dfrac{5.6}{22.4}=\dfrac{1}{4}$より0.25[mol]である.
よって,化学反応式の係数比から$\ce{HI}$は$2\times0.25=0.5$より0.50[mol]発生する.
したがって,$\ce{HI}$は$22.4\times0.50=11.2$より11.2[L]発生する.
一度,$\ce{H2}$の体積を物質量(mol)に変換してから,「係数の比=物質量(mol)の比」を使って$\mrm{HI}$の物質量(mol)に変換して,体積に変換すればいいのです.
化学反応式において,「係数の比=物質量(mol)の比」はどんな場合でも正しいですから,ガンガン使ってください.
化学反応式では,物質量(mol)比を経由すると間違いはない.