物理では「加速度」は基本的な概念で,理解しておかなければなりません.
「加速度」は文字通り「加速の度合い」ですから,「速度」がどれだけ変化するかを表すものです.
さて,前回の記事では「速度が一定の運動」である「等速直線運動」を考えました.
今回の記事では「加速度が一定の運動」である「等加速度直線運動」を考えます.「加速度が一定」なので,速度が一定に変化する運動が「等加速度直線運動」です.
「加速度」を理解するには,具体例からイメージを掴んでしまうのが手っ取り早い方法でしょう.
この記事では,具体例から「加速度」のイメージを掴み,「等加速度直線運動」の説明をします.
一連の記事はこちら
【運動の基本1|「速さ」と「速度」の違いと等速直線運動】
【運動の基本2|加速度と等加速度直線運動】←今の記事
【運動の基本3|等加速度直線運動の3つの公式】
【運動の基本4|重力加速度とは?等加速度直線運動の具体例】
【運動の基本5|向きの決め方,向きを変えるとどうなるか】
加速度
平たく言えば,「加速度」とはどれだけ速度が増しているか/減っているかということを表すもので,きっちり書くと以下のようになります.
単位時間あたりの速度の増加量を加速度という.
それでは,具体例から加速度を考えてみましょう.
例1
東向きに速さ$1[\mrm{m/s}]$で運動している物体Aがあったとします.
ある人がこの物体を東向きに押して,
- 1秒後には東に速さ$2[\mrm{m/s}]$
- 2秒後には東に速さ$3[\mrm{m/s}]$
- ……
と速度が変化していくとしましょう.つまり,速度は1秒ごとに東向きに$+1[\mrm{m/s}]$ずつ変化しています.
よって,この物体は「東向き$1[\mrm{m/s^2}]$の加速度で運動する」ということができます.
例2
東向きに速さ$4[\mrm{m/s}]$で運動している物体Aがあったとします.
ある人がこの物体を西向きに押して,
- 1秒後には東向きに速さ$2[\mrm{m/s}]$
- 2秒後には速さ$0[\mrm{m/s}]$
- 3秒後には西向きに速さ$2[\mrm{m/s}]$(東に速さ$-2[\mrm{m/s}]$)
- ……
と速度が変化していくとしましょう.つまり,速度は1秒ごとに西向きに$+2[\mrm{m/s}]$(東向きに$-2[\mrm{m/s}]$)ずつ変化しています.
よって,この物体は「西向き$2[\mrm{m/s^2}]$(東向き$-2[\mrm{m/s^2}]$)の加速度で運動する」ということができます
最初の速度と加速度が逆向きなので,2秒後に速さが0になり,逆走し始めていることに注意してください.
加速度がある方向に$a[\mrm{m/s^2}]$であるとは,1秒ごとに速度がその方向に$a[\mrm{m/s^2}]$変化するということである.
等加速度直線運動
次に,「等加速度直線運動」の説明に入ります.
等加速度直線運動の定義
加速度が一定の運動のことを等加速度直線運動という.
「等加速度」という名前の通り,加速度が一定の運動のことを「等加速度直線運動」というわけですね.
上でみた2つの例はまさに等加速度直線運動の例になっていますね.
- 例1:加速度が速度と同じ向きで,物体の運動はどんどん加速しています.
- 例2:加速度が速度と逆向きで,物体の運動はどんどん減速して,一旦速度が0になり,逆向きに加速を始めます.
このように,加速度と速度が同じ向きの場合は分かりやすいですが,逆向きの場合では一旦速度が0になって逆に進み始めることになるので注意してください.
また,前回の記事で考えた等速直線運動は速度が変化しない運動,つまり加速度が0の運動なので,等速直線運動は加速度が0の等加速度直線運動と考えることができます.
【前回の記事:運動の基本1|「速さ」と「速度」の違いと等速直線運動】
物理的には「速さ」と「速度」は明確に異なる概念であり,この違いは確実に知っておかなければなりません.「等速直線運動」は「速度が一定の運動」のことで,「速さが一定の運動」とは異なります.
等加速度直線運動の具体例
等加速度直線運動の最も身近な例は,物体の落下でしょう.
物体から手を離して落下させるとき,手を離した瞬間の速度は0ですが,時間が経つにつれてどんどん加速して落ちていきます.
実は,このときの加速度は一定であり,地球上では1秒間に約$9.8[m/s]$ずつ加速して,すなわち,加速度の大きさが$9.8[\mrm{m/s^2}]$で落下していきます.
なお,この$9.8[\mrm{m/s^2}]$の地球に向かう加速度のことを重力加速度といい,これについては後の記事で説明します.
物体を投げ上げた場合にも,物体に重力加速度がはたらきます.
この場合には,投げ上げた瞬間の速度と重力加速度は逆向きなので,投げ上げてしばらくは真上に進みますが,どんどん速さが減少し,やがて空中で速度が0になり,加速しながら落ちてきます.
これは速度と加速度が逆向きの例になっていますね.
ただし,現実には空気抵抗があるため,物体の落下はわずかに等加速度直線運動ではないのですが,高校物理の多くの場合では空気抵抗を無視するので,等加速度直線運動とみなします.
【次の記事:運動の基本3|等加速度直線運動の3つの公式】
物体の運動を考えるときには,時間$t$,移動距離$x$,速度$v$を中心に考えることが多いです.等加速度直線運動については,これら「$t$と$x$の関係式」「$t$と$v$の関係式」「$v$と$x$の関係式」の3つの基本公式があります.
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