「等速直線運動」はその名の通り「同じ速度で(まっすぐ)進む運動」のことをいい,「等速直線運動」は物理の中で最も基本的と言ってよい運動の1つです.
小学校の算数でよくある「A君は分速50mでまっすぐ歩きます.3km歩くのに何分かかりますか?」といった文章題は等速直線運動の問題です.
等速直線運動を理解するためには,「速度」をきちんと物理的な意味で理解する必要があります.
我々は日常的には「速さ」や「速度」という言葉を使いますが,物理では「速さ」と「速度」は明確に異なる概念です.
このように,普段使っているからといって,「速さ」と「速度」の違いを意識せずに問題を解くと,誤りになってしまうことがあります.
この記事では,「速度」と「速さ」の違いを説明したあと,「等速直線運動」について簡単に説明します.
一連の記事はこちら
【運動の基本1|「速さ」と「速度」の違いと等速直線運動】←今の記事
【運動の基本2|加速度と等加速度直線運動】
【運動の基本3|等加速度直線運動の3つの公式】
【運動の基本4|重力加速度とは?等加速度直線運動の具体例】
【運動の基本5|向きの決め方,向きを変えるとどうなるか】
「速さ」と「速度」の違い
冒頭でも述べたように,物理では「速さ」と「速度」は明確に区別され,しっかり使い分ける必要があります.
平均の速さと瞬間の速さ
「速さ」には
- 平均の速さ
- 瞬間の速さ
の2種類があります.
平均の速さ
当然のことながら,マラソンでは最初から最後まで同じスピードで走るわけではなく,他の選手との駆け引きや,ラストスパートなどで速くなったり遅くなったりします.
常に同じスピードで走っているわけではなくても,「10kmマラソンを40分で走った」と聞くと「トータルすると分速250m」と考えることはよくあります.
つまり,最初と最後だけを見て,トータルのスピードを考えているわけですね.
このように,走っている瞬間瞬間のスピードは気にせず,トータルで見て考えるスピードのことを「平均の速さ」といいます.
瞬間の速さ
移動する物体を観察するとき,その観察時間が十分に短ければ,その間でスピードの変化は微小なので,ほとんど変化していないと言ってよいでしょう.
この観察時間は短ければ短いほど,その間のスピードの変化はないものと考えることができ,どんどん観察時間を短くしていけば,瞬間瞬間のスピードを考えていることになりますね.
このようにして考えた瞬間瞬間のスピードのことを「瞬間の速さ」といいます.
平均の速さを「長期的にみたスピード」というならば,瞬間の速さは「今みたスピード」ということができます.
最初と最後の時間差と移動距離だけを見て考える移動スピードを「平均の速さ」という.一方,瞬間瞬間の移動スピードを「瞬間の速さ」という.
速度
「瞬間の速さ」はあくまでスピードだけで,池の周りをグルグル回っていても「速さ」が一定ということはあり得ます.
一方,「速度」は瞬間の速さに加えて,移動の方向も考えます.
「瞬間の速さ」と「向き」を併せて考えたものを「速度」という.
例えば,「1kmをA君は分速50mの『速さ』で歩く」といえば,A君は普通に道を歩いて行った様子が思い浮かびます.
しかし,もし「1kmをA君は分速50mの『速度』で歩く」といえば,物理では「A君は道が曲がっていても関係なく,壁にぶつかろうが側溝に落ちようがお構いなしに,壁をぶち破ったり側溝の水の中をじゃぶじゃぶと,『まっすぐ』同じ速さで進む」ことになります.
よって,速度は「向き」と「大きさ」を同時に考えているので,ベクトルで図示することができますね.
物理では力や速度を表すために“矢印”を使います.この“矢印”は「ベクトル」と呼ばれ,適切に使えば視覚的に運動を考えられるようになります.この記事では,ベクトルの扱い方の基本を説明します.
速さの単位
時間の単位としては,
- 秒(記号はsecondの頭文字で“s”)
- 時間(記号はhourの頭文字で“h”)
が使われることが多く,距離の単位としては
- メートル(記号はmeterの頭文字“m”)
が使われることが多いです.
これらを用いると,例えば
- 時速3km→$3[\mrm{km/h}]$
- 秒速5m→$3[\mrm{m/s}]$
などとなります.
“/s”,“/h”がそれぞれ「1秒あたり」「1時間あたり」という意味であることは当たり前にしておきましょう.
等速直線運動
それでは,等速直線運動の説明に移ります.
最近,ウィンタースポーツの「カーリング」が有名になりつつありますね.
カーリングでは,氷と石の間の摩擦力はとても小さいので,石はほとんど減速せずスーッと一直線に滑っていきます.
ただ,とても小さいとはいえ摩擦力は0ではないのでいずれ静止しますが,もし摩擦力が完全に0であれば,石は同じ方向に速さ一定で進んでいきます.
この運動のことを「等速直線運動」といいます.
等速直線運動とは「同じ方向に,速さ一定で進む運動」のことをいう.
「速度」が瞬間の速さと向きによって決まることから,「速度が一定」であるとは「常に同じ向きに,同じ瞬間の速さで移動する」という意味になります.
ですから,等速直線運動は「速度が一定の運動」と説明することもできますね.
「速度が一定」といえば,運動の向きも同じとなるので「一直線上を同じ方向に動く」という意味が自然と含まれますね.
以下は,等速直線運動の公式です.
「速度$v$」の等速直線運動で,物体が「時間$t$」運動したとき,物体の「移動距離を$x$」とすると,$x=vt$が成り立つ.
例えば,
- 速度$v$で時間1進めば,移動距離は$v$
- 速度$v$で時間2進めば,移動距離は$2v$
- 速度$v$で時間5進めば,移動距離は$5v$
ですから,速度$v$で時間$t$進めば,移動距離は$vt$となりますね.
【次の記事:運動の基本2|加速度と等加速度直線運動】
等速直線運動の次に基本的な運動として「等加速度直線運動」があります.例えば,物体を自由落下させたときの運動は「等加速度直線運動」になります.