古文形容詞でよく問題になるのは
- 意味
- 活用
です.これらのうち「意味」は古文単語帳などに譲るとして,この記事では形容詞の「活用」について説明します.
現代語の形容詞の活用は1種類しかありませんが,古文の形容詞の活用には
- ク活用
- シク活用
の2種類があります.とはいえ,これら2種類の活用に本質的な違いはありません.
ですから,本質的に「ク活用」と「シク活用」の一方を覚えてしまえば,他方はそこから同様に理解することができます.
また,「ク活用」と「シク活用」のそれぞれに「本活用」と「補助活用(カリ活用)」があります.以下でも説明していますが,
- 補助活用(カリ活用)を用いるのは「命令形を使うとき」と「助動詞が続くとき」
- 本活用を用いるのはそれ以外
です.
「古典文法」の一連の記事はこちら
【古文動詞の基本1|9種類の動詞の活用の基本の総まとめ】 【古文動詞の基本2|紛らわしいア行,ヤ行,ワ行動詞の判別】 【古文形容詞の基本|ク活用,シク活用,本活用,補助活用】←今の記事 【古文形容動詞の基本|ナリ活用,タリ活用と使い分け】
形容詞の特徴
形容詞の特徴は
- 物事の状態などを表す
- 活用し,終止形の活用語尾が「し」または「じ」である
です.
「物事の状態などを表す」は現代語の形容詞と同じですね.
一方の「活用し,終止形の活用語尾が『し』または『じ』である」については,たとえば形容詞の終止形が
- やすし
- せんかたなし
- うつくし
- すさまじ
となっているということですね.
形容詞の活用の種類
冒頭でも述べたように,形容詞の活用は「ク活用」と「シク活用」の2種類あり,それぞれに「本活用」と「補助活用(カリ活用)」があります.
つまり,細かく分けると
- ク活用
- 本活用
- 補助活用(カリ活用)
- シク活用
- 本活用
- 補助活用(カリ活用)
と活用は全部で4種類あることになります.
形容詞が「ク活用」をするのか「カリ活用」をするのかは単語ごとに決まっています.
本活用と補助活用(カリ活用)の使い方は後に回し,ここではどのように活用するのかを説明します.
以下では
- ク活用の形容詞「やすし」「せむかたなし」
- シク活用の形容詞「うつくし」「すさまじ」
を例に考えます.
本活用
本活用は以下のように活用します.
形容詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
やすし | やす | く | く | し | き | けれ | × |
せむかたなし | せむかたな | く | く | し | き | けれ | × |
形容詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
うつくし | うつく | しく | しく | し | しき | しけれ | × |
すさまじ | すさま | じく | じく | じ | じき | じけれ | × |
本活用に命令形はありません.
補助活用
補助活用は以下のようにラ変型(ら/り/り/る/れ/れ)の活用をします.
形容詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
やすし | やす | から | かり | × | かる | × | かれ |
せむかたなし | せむかたな | から | かり | × | かる | × | かれ |
形容詞 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
うつくし | うつく | しから | しかり | × | しかる | × | しかれ |
すさまじ | すさま | じから | じかり | × | じかる | × | じかれ |
補助活用に終止形,已然形はありません.
この活用から「カリ活用」とも呼ばれますね.
形容詞がク活用するかシク活用するかは形容詞によって決まっている.また,どちらの活用にも本活用と補助活用がある.
形容詞の2つの注意点
形容詞で注意したいポイントは
- 形容詞がク活用なのかシク活用なのか
- 本動詞を使うのか補助動詞を使うのか
の2つです.
ク活用とシク活用の判別
それぞれの形容詞が「ク活用」なのか「シク活用」なのかは連用形が異なることを利用して判別します.
連用形は後ろに用言(例えば,動詞)を接続させた時に用いられる活用形ですから,形容詞に動詞「なる」を接続させると連用形になるので,
- 「〜しくなる」となれば「シク活用」
- それ以外は「ク活用」
と判別ができます.
たとえば,
- なつかし → なつかしくなる → シク活用
- すきずきし → すきずきしくなる → シク活用
- つらし → つらくなる → ク活用
- ところせし → ところせくなる → ク活用
というように判別できます.
なお,最後の「ところせし」については,「ところせしくなる」ではなく「ところせくなる」です.
このように,古文の活用に現代文の語感と異なる単語があることには注意してください.そのような単語は1つ1つ覚えるしかありません.
本活用と補助活用の使い分け
本活用と補助活用の使い分けですが,「補助活用」を用いるのは
- 形容詞を命令形で使いたいとき
- 助動詞を接続させるとき
の2通りです.これら以外では本動詞を使います.
形容詞を命令形で使いたいとき
そもそも形容詞の本活用に命令形はありませんし,命令形を使うなら補助活用のものを使うしかありませんね.
たとえば,百人一首の74番(源俊頼朝臣 作)
「憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものを」
の下の句の「はげしかれ」は形容詞「はげし」の補助活用の命令形ですね.
現代語訳は「激しくなれ」となります.
助動詞を接続させるとき
また,形容詞「たかし」に助動詞を接続させると,
- たかからず (未然形+打ち消しの助動詞「ず」)
- たかかりけり (連用形+過去の助動詞「けり」)
- たかかるべし (連体形+推量の助動詞「べし」)
などとなります.
なお,推量の助動詞「べし」は普通は終止形接続ですが,ラ変型の用言に接続する場合には連体形接続になります.形容詞の補助活用はラ変型なので,「連体形+べし」となっているわけですね.
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コメント
ク活用形容詞「たかし高し」の活用は、
たかからず(高がらず)
たかかりけり(高かりけり)
たかかるべし(高かるべし)
のはずです。
ご指摘をありがとうございます!
「たかし」は語幹が「たか」のカリ活用の形容詞で仰る通りの活用でした.
誤植を修正しました.