古文動詞は様々な種類の活用があるのでした.その際,
- 3つの変格活用 (カ変,サ変,ラ変)
- 上一段活用
- 下一段活用
は数が限られているため,これらの動詞を先に覚えてしまえばスムーズに活用による分類ができることを前回の記事で説明しました.
さて,このような「活用」による分類とは別に,「行」による分類もあります.行による分類の中でも
- ア行動詞
- ヤ行動詞
- ラ行動詞
も限られたものしかないので,これらも覚えてしまうのがよいでしょう.
また,これらの判別の仕方も大切なので,しっかり判断できるようになっておいてください.
一連の記事はこちら
【古文動詞の基本1|動詞の活用の基本の総まとめ】
【古文動詞の基本2|紛らわしいア行,ヤ行,ワ行動詞の判別】←この記事
【古文形容動詞の基本|ナリ活用,タリ活用と使い分け】
【古文形容詞の基本|ク活用,シク活用,本活用,補助活用】
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ア行,ヤ行,ワ行
50音順のア行,ヤ行,ワ行は次のようになっています.
ア段 | イ段 | ウ段 | エ段 | オ段 | |
ア行 | あ | い | う | え | お |
ヤ行 | や | い | ゆ | え | よ |
ワ行 | わ | ゐ | う | ゑ | を |
現代の日本語で省略されがちな部分を赤で表しています.
特に問題なのは今ではあまり見かけない「ゐ」と「ゑ」だと思いますが,これらはワ行にのみ現れますね.
ア行,ヤ行,ワ行の動詞
ア行,ヤ行,ワ行の動詞はほぼ限られているので,覚えてしまうのが得策です.特に,
- ア行の動詞は(複合動詞を除けば)「得」のみ
- ワ行の動詞も5個しかない
ということは意識しておいてよいでしょう.
ア行の動詞
ア行の動詞は複合動詞を除けば「得」に限り,これ以外にはありません.
活用は以下の通りです.
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
得 | (得) | え | え | う | うる | うれ | えよ |
前回の記事で説明したように,この「得」は「下二段活用」です.
【前回の記事:古文動詞の基本1|動詞の活用の基本の総まとめ】
現代の日本語で動詞の語尾が変化するように,古文でも動詞の語尾は変化します.このように,語尾が変化することを「活用する」といいますが,古文動詞は活用によって分類することができます.しかし,現代の日本語とは異なる活用をするため,古文用の活用を覚えなおす必要があります.この前回の記事では,古文動詞を覚えやすいようにまとめています.
さて,「複合動詞を除けば」と書きましたが,複合動詞とは「心得」や「所得」のような,「動詞の頭に言葉が付加されてできた動詞」を言います.
しかし,複合動詞の頭の部分は活用に全く関係しないので,活用はもともとの動詞の部分の活用に従います.
実際,「得」はいずれも「下二段活用」で,以下のような活用になります.
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
心得 | 心 | え | え | う | うる | うれ | えよ |
所得 | 所 | え | え | う | うる | うれ | えよ |
語感が変わっているだけで,活用語尾は「得」と全く同じですね.
ア行動詞は,複合動詞を除けば「ア行下二段活用」の「得」しかない.
ヤ行の動詞
ヤ行の動詞には,「上二段活用」,「上一段活用」,「下二段活用」があり,これらのうち
- 上二段活用は3語「老ゆ」,「悔ゆ」,「報ゆ」のみ
- 上一段活用は2語「射る」,「鋳る」のみ
です.ただし,下二段活用はたくさんあるので,覚える必要がありません.
とくに,「射る」,「鋳る」は,数少ない上一段活用の一つという点でも,覚えておかなければなりませんね.
さて,これらの活用は以下のようになります.
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
老ゆ | 老 | い | い | ゆ | ゆる | ゆれ | いよ |
悔ゆ | 悔 | い | い | ゆ | ゆる | ゆれ | いよ |
報ゆ | 報 | い | い | ゆ | ゆる | ゆれ | いよ |
射る | (射) | い | い | いる | いる | いれ | いよ |
鋳る | 鋳 | い | い | いる | いる | いれ | いよ |
「ヤ行」であることと併せて,上の3語は「ヤ行上二段活用」,下の2語は「ヤ行上一段活用」となります.
ヤ行はイ段が「い」,エ段が「え」であることに注意して下さい.「ゐ」や「ゑ」ではハッキリ間違いです.
ヤ行動詞は
- 「ヤ行上二段活用」の「老ゆ」,「悔ゆ」,「報ゆ」
- 「ヤ行上一段活用」の「射る」,「鋳る」
を覚える.また,「ヤ行下二段活用」はたくさんある.
ワ行の動詞
ヤ行の動詞には,「上一段活用」,「下二段活用」しかなく,
- 上一段活用に2語「居る」,「率る」
- 下二段活用に3語「植う」,「飢う」,「据う」
です.とくに,「居る」,「率る」は,数少ない上一段活用の一つという点でも,覚えておかなければなりませんね.
さて,これらの活用は以下のようになります.
語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
居る | (居) | ゐ | ゐ | ゐる | ゐる | ゐれ | ゐよ |
率る | (率) | ゐ | ゐ | ゐる | ゐる | ゐれ | ゐよ |
植う | 植 | ゑ | ゑ | う | うる | うれ | ゑよ |
飢う | 飢 | ゑ | ゑ | う | うる | うれ | ゑよ |
据う | 据 | ゑ | ゑ | う | うる | うれ | ゑよ |
です.これらは,「ワ行」であることと併せて,上の2語は「ワ行上一段活用」,下の3語は「ワ行下二段活用」となります.
ワ行はイ段が「ゐ」,エ段が「ゑ」であることに注意して下さい.「い」や「え」ではハッキリ間違いです.
ワ行動詞は
- 上一段活用に2語「居る」,「率る」
- 下二段活用に3語「植う」,「飢う」,「据う」
を覚える.他にはない.
ア行,ヤ行,ワ行の動詞の判別法
ア行の動詞,ヤ行の動詞,ワ行の動詞は紛らわしいことがありますが,判別はできなければなりません.
以下の2つが判別法になるでしょうか.
- ア行動詞,ワ行動詞を覚える
- 活用語尾の文字
なお,これらはどちらでも瞬時に判断できて欲しいレベルです.
判別法1
英単語を覚えるように,古文動詞も
- ア行動詞
- ヤ行動詞の「下二段活用」と「上一段活用」
- ワ行動詞(「上一段活用」と「下二段活用」)
は覚えてください.
とくに,ア行動詞とワ行動詞は合わせて6個しかないので,これらを覚えてしまえば判別ができますね.
判別法2
ヤ行,ワ行のイ/ウ/エ段には同じひらがなが含まれていないので,活用語尾を見れば判別ができます.
つまり,
- 活用語尾の中に「い/ゆ/え」があれば,ヤ行動詞
- 活用語尾の中に「ゐ/う/ゑ」があれば,ワ行動詞
となります.
まとめ
それでは,最後にア行の動詞,ヤ行の動詞,ワ行の動詞の分類表を書いて終わりにしましょう.
ア行 | ヤ行 | ワ行 | |
---|---|---|---|
上二段活用 | 老ゆ,悔ゆ,報ゆ | ||
下二段活用 | 得 | (多数) | 植う,飢う,据う |
上一段活用 | 射る,鋳る | 居る,率る |
このように表にして見ると,意外と覚えるものは少ないですね.
【次の記事:古文形容動詞の基本|ナリ活用,タリ活用と使い分け】
古文には2種類の活用(ナリ活用,タリ活用)をする形容動詞があります.いずれの活用もラ変型で似ているので,活用を覚えること自体は難しくないでしょう.形容動詞のいずれの活用にも連用形が2種類あり,それらをどのように使い分けるのかは大切なポイントです.
コメント
ヤ行上一段の他動詞「鋳る」の活用表、本来は
「い い いる いる いれ いよ」
のところ、
「い い い いる いれ いよ」
となっております。
ご指摘をありがとうございます.
ご指摘の通り,「鋳る」の終止形の部分に誤植がありました.
修正しました.
素早いご対応ありがとうございます。
大変参考になるサイトで、勉強させていただきました。
ご指摘あればこそですから,感謝申し上げるべきは私の方です.ありがとうございます.
これからもより良いサイトになるよう努力しますので,どうぞ応援をよろしくお願い致します.
誤植があります.
【誤】
上の3語は「ヤ行下二段活用」
【正】
上の3語は「ヤ行上二段活用」
【誤】
「ヤ行下二段活用」の「老おゆ」,「悔くゆ」,「報むくゆ」
【正】
「ヤ行上二段活用」の「老おゆ」,「悔くゆ」,「報むくゆ」
ご指摘をありがとうございます.
重大なミスですね…….記事を修正しました.