因数分解をするための方法として公式を用いることは一つの重要な方法ですが,公式を使えない場合には別の方法として[因数定理]を用いることになります.
[因数定理]を用いるためには,多項式の扱いにある程度慣れておく必要があり,特に「多項式の割り算」が重要になります.
他にも,「多項式の割算」は数学IIIの積分などでも必要になるなど,地味ではありますがとても便利な考え方です.
とはいえ,「多項式の割り算」はこれまでとは新しい考え方が必要なものではなく,小学校以来扱ってきた「整数の割り算」の考え方をもとに考えることができます.
この記事では,
- 整数の割り算
- 多項式の割り算
の対応を考えつつ,「多項式の割り算」をイメージから説明します.
一連の記事はこちら
【多項式の基本1|「展開」と「因数分解」の4つの基本公式】
【多項式の基本2|たすきがけ因数分解の公式の使い方】
【多項式の基本3|2次式の最小値・最大値は平方完成が鉄板!】
【多項式の基本4|2次方程式の[解の公式]の導出と使い方】
【多項式の基本5|2次方程式の判別式と,2次方程式の虚数解】
【多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】
【多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】←今の記事
【多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】
【多項式の基本9|[解と係数の関係]は覚える必要なし!】
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整数の割り算
小学校では「$7\div3=2$あまり1」と習います.
割り算を習いたての小学生にとっては,余りのある割り算はこのように表すものですが,数学的にみればこの表記法はあまり良くない表記です.
「$7\div3=2$あまり1」を言い換えると,「7は$3\times2$よりも1大きい」ということですから,式では
ということになりますね.
こう表すと一つの完全な等式になり,「~あまり……」という表記よりも扱いやすくなりました.
これを踏まえて,「整数の割り算」は次のように定義されます.
[整数の割り算] 正の整数$a$, $b$に対し,
- $a=Pb+Q$
- $0\leqq Q<b$
を満たす整数$P$, $Q$をそれぞれ
- $a$を$b$で割った商
- $a$を$b$で割った余り
という.
$a$は0以下の整数でも構わないのですが,簡単のため正の整数としています.
また,$Q<b$というのは,余り$Q$が割る数$b$より大きくてはマズイということであり,たとえば「$7\div3=1$あまり4」とするのがマズイということです.
「整数の割り算」は等式で表すことができる.
多項式の割り算
今みた「整数の割り算」の考え方を「多項式の割り算」に適用してみましょう.
[多項式の割り算] 0でない多項式$f(x)$, $g(x)$に対し,
- $f(x)=P(x)g(x)+Q(x)$
- ($Q(x)$の次数)$<$($g(x)$の次数)
を満たす多項式$P(x)$, $Q(x)$をそれぞれ
- $f(x)$を$g(x)$で割った商
- $f(x)$を$g(x)$で割った余り
という.
具体的に考えましょう.
$2x^3-x^2-6$を$x^2+x+1$で割ったときの商と余りを求めよ.
計算により,
となるから,商は$2x-3$で余りは$x-3$となります.
なぜ
と変形できるかはこの後の「多項式の割り算の計算」で解説します.
ともかく[多項式の割り算]の定義の2にもあるように,大切なことは
- 余り$x-3$の次数が
- 割る式$x^2+x+1$の次数より
小さくなっているということです.
例えば,
も正しい変形ですが,$-3x^2-2x-6$の次数が割る式$x^2+x+1$の次数より大きいので,$2x$は商でなく$-3x^2-2x-6$も余りではありません.
このことは,$7=3\times2+1$から「7を3で割った商が2,余りが1」は正しいですが,$7=3\times1+4$から「7を3で割った商が1,余りが4」が間違いなのと同じです.
「多項式の割り算」も最後まで割り切ることが大切である.
多項式の割り算の計算
実際に「多項式の割り算」を計算しましょう.「多項式の割り算」をする方法として「筆算」があります.
次の3つの例を考えます.
次の各場合の多項式の割り算の商と余りを求めよ.
- $2x^3-x^2-6$を$x^2+x+1$で割ったとき
- $x^3+2x^2+2x+3$を$x+1$で割ったとき
- $3x^4+x^3-2x^2+x+2$を$x^2-x+3$で割ったとき
筆算の例1
$2x^3-x^2-6$を$x^2+x+1$で割った商と余りを求めます.
Step.1
$x^2+x+1$に$2x$をかければ$2x^3+2x^3+2x$となるので,$2x^3-x^2-6$から引くと$-3x^2-2x-6$となります.
Step.2
$x^2+x+1$に$-3$をかければ$-3x^3-3x^3-3x$となるので,$-3x^2-2x-6$から引くと$x-3$となります.
下に染み出してきた「$x-3$の次数」は「$x^2+x+1$の次数」より小さいので,$x-3$はこれ以上$x^2+x+1$で割れません.
よって,最終的に上に立った$2x-3$が商で,下に染み出してきた$x-3$が余りとなります.
筆算の例2
$x^3+2x^2+2x+3$を$x+1$で割った商と余りを求めます.
Step.1
$x+1$に$x^2$をかければ$x^3+x^2$となるので,$x^3+2x^2+2x+3$から引くと$x^2+2x+3$となります.
Step.2
$x+1$に$x$をかければ$x^2+x$となるので,$x^2+2x+3$から引くと$x+3$となります.
Step.3
$x+1$に1をかければ$x+1$となるので,$x+3$から引くと2となります.
下に染み出してきた「2の次数」は「$x+1$の次数」より小さいので,2はこれ以上$x+1$で割れません.
よって,最終的に上に立った$x^2+x+1$が商で,下に染み出してきた2が余りとなります.
筆算の例3
$3x^4+x^3-2x^2+x+2$を$x^2-x+3$で割った商と余りを求めます.今までの例と同様に筆算をすれば,
となるので,$3x^2+4x-7$が商で,下に染み出してきた$-18x+23$が余りです.
多項式の筆算は当たり前にできるようにしておく.
多項式の割り算の筆算の仕組み
多項式の割り算を筆算を上で説明しましたが,なぜこれで多項式の割り算ができているのか疑問に思う人もいるでしょう.
そこで,この筆算がどのような式変形に対応しているのかをみます.
たとえば,上の例3では$3x^4+x^3-2x^2+x+2$を$x^2-x+3$で割った商と余りを筆算で求めましたが,この筆算がどのような式変形になっているのかを以下で見比べましょう.
[筆算]
[式変形]
式変形の$A(x^2-x+3)+B$の$A$の部分が筆算の上に順に立っていき,$B$の部分が引いたあとの数になっていますね.
無理矢理$x^2-x+3$を作り出して,余りの部分が1次ずつ減っているのが分かります.
このように式変形と筆算が対応しているわけです.
機械的に筆算ができるだけではなく,実際の式変形との対応を理解することも大切である.
【次の記事:多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】
[因数定理]と[剰余の定理]は「なんか便利で使えるけど,なんとなくよく分かっていない」という人が多い定理です.ところが,実はどちらもイメージがあれば成り立つのが当たり前な定理です.次の記事では,[因数定理]と[剰余の定理]をイメージから説明します.