前々回の記事で説明したように,たとえば$x^2-2x-2=0$のような簡単には因数分解できない2次方程式は,いったん解を求めることによって因数分解できるのでした.
では,3次式では因数分解するための公式や方法はあるのでしょうか?
3次の場合にも2次式の場合と同じく,3次方程式の解を求めて因数分解することはできます.
しかし,一般の3次式を解くのは少々手間がかかるので,原理的には可能でもあまり良い方法とは言えません.そして,4次以上になると,さらに因数分解は困難(もしくは不可能)になります.
そこで,この記事では公式で因数分解ができる3次式,4次以上の多項式をまとめます.
一連の記事はこちら
【多項式の基本1|「展開」と「因数分解」の4つの基本公式】
【多項式の基本2|たすきがけ因数分解の公式の使い方】
【多項式の基本3|2次式の最小値・最大値は平方完成が鉄板!】
【多項式の基本4|2次方程式の[解の公式]の導出と使い方】
【多項式の基本5|2次方程式の判別式と,2次方程式の虚数解】
【多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】←今の記事
【多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】
【多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】
【多項式の基本9|[解と係数の関係]は覚える必要なし!】
目次
解説動画
この記事の解説動画もアップロードしています.
- 高評価
- チャンネル登録
- コメント
でぜひ応援をお願いします!
こちらから【チャンネルページ】にとびます
3次式の展開と因数分解の公式
3次式の展開・因数分解について,
- 4つの基本公式
- 1つの知っておくとよい公式
を紹介します.
4つの基本公式
3次式の展開と因数分解では,次の4つの公式が基本的です.
は身に付ける必要があります.
$(x+a)^3$は因数分解された式で,$x^3+a^3$は展開された式ですが,はじめのうちはこの両者を混同しやすいので注意してください.
具体的には,
となります.
2次の場合と同じく,3次式に関するこれらの公式は必ず使えるようになっておく.
3文字の3次式の因数分解
次の公式は基本的ではないものの,よく問われるので知っておくとよい公式です.
これは実際に右辺を展開することで等しいことが分かります.
この式は対称式であるため扱いやすく,この等式はよく現れます.
ここで,「対称式」とは,$x$と$y$と$z$をどのように入れ替えても変化しない等式のことをいいます.
[解と係数の関係]などと絡んで自然に登場する対称式は,知らないととても面倒な計算をする羽目になることもあります.対象式の扱い方は是非とも身に付けてください.
なお,3次方程式の解を求めるための方法として「カルダノの方法」というものがありますが,「カルダノの方法」はこの因数分解に依っています.
興味のある人は是非とも調べてみてください.
対称式において,3文字の3乗の和があるときに$x^3+y^3+z^3-3xyz$を因数分解するとうまくいくことも多い.
4次以上の多項式の因数分解
一般に,4次以上の因数分解では,3次式よりもさらに因数分解がしにくくなります.
偶数次のみの多項式
例えば,$x^4-10x^2+9$や$x^6-1$といった偶数次の項のみもつ多項式では,比較的因数分解できる可能性があります.
次を因数分解せよ.
- $x^4-10x^2+9$
- $x^6-3x^4+3x^2-1$
- $x^6-1$
- $x^4-3x^2+1$
(1) $t=x^2$とおくと,
となる.
(2) $t=x^3$とおくと,
となる.
(3) $t=x^2$とおくと,
となる.
(4) $x^4-2x^2+1=(x^2-1)^2$に注意すると,
となる.
3次以上の多項式の中でも,偶数次の項のみもつ4次以上の多項式は比較的因数分解できる場合が多い.
(n乗)-(n乗)の多項式
$a^n-b^n$が
と因数分解できます.
これは,右辺を実際に展開することで,ほとんどの項が足し引きで消えて$a^n$と$b^n$だけが残って左辺になります.一度は自分の手を動かして確かめてみてください.
さて,この公式は$n=2$, $n=3$の場合である
- $a^2-b^2=(a-b)(a+b)$
- $a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)$
から連想すれば納得しやすいですね.
例えば,$n=4$の場合には
であり,$n=5$の場合には
となります.
このように$n$が1増えるに従って,$a^{n-1}+a^{n-2}b+\dots+b^{n-1}$の部分が増えているのが見て取れますね.
$a^n-b^n$は因数分解できることを意識する.特に,$a^2-b^2$や$a^3-b^3$からの連想で考えれば納得しやすい.
(n乗)+(n乗)の多項式
$n$が奇数のとき,$a^n+b^n$は
と因数分解できます.
$a^n-b^n$の場合と同じく,右辺を実際に展開することで,ほとんどの項が足し引きで消えて$a^n$と$b^n$だけが残って左辺になります.
一方,$a^n-b^n$の場合と違うのは,実数の範囲では$n$が奇数の場合にしか因数分解ができないことです.
これは,$a^2+b^2$は実数の範囲では因数分解できませんが,$a^3+b^3$は
と因数分解できることから連想できますね.
$n=5$の場合には
となります.
$a^{n-1}-a^{n-2}b+\dots-ab^{n-2}+b^{n-1}$の部分で$+$と$-$が交互に出てくるので,最後が$+$になるために$n$が奇数でないといけないわけですね.
$a^n+b^n$は$n$が奇数のときに因数分解できる.これは$a^3+b^3$の因数分解から連想すればよい.
【次の記事:多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】
ここまでで因数分解ができる場合を多く扱ってきましたが,因数分解ができない場合には[多項式の割り算]を使うことが多いです.[多項式の割り算]は多項式の変形の中でも重要なので,しっかり計算できるようになってください.