小学校までの「算数」と中学校からの「数学」との大きな違いの1つとして,「文字」を使うか使わないかということが挙げられます.
そのため,「数字」ではなく「文字」のまま計算することが数学では大切です.
とくに,文字の計算において「多項式の展開」と「多項式の因数分解」は数学のいたるところに現れ流ので,これらの計算ができることは数学を学ぶ上では必須といえます.
この記事では,
- 展開
- 因数分解
- 展開と因数分解の図形的な理解
を説明します.
一連の記事はこちら
【多項式の基本1|「展開」と「因数分解」の4つの基本公式】←今の記事
【多項式の基本2|たすきがけ因数分解の公式の使い方】
【多項式の基本3|2次式の最小値・最大値は平方完成が鉄板!】
【多項式の基本4|2次方程式の[解の公式]の導出と使い方】
【多項式の基本5|2次方程式の判別式と,2次方程式の虚数解】
【多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】
【多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】
【多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】
【多項式の基本9|[解と係数の関係]は覚える必要なし!】
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展開と因数分解
例えば,$(x+2)(x-4)$を展開すると,
となります.
このように,計算することで括弧をなくすことを展開といいます.
展開では分配法則を用いてただ計算をして括弧を外すだけですから,それほど難しいことではありません.
逆に,初めに$x^2-2x-8$という展開された式があって,これを$(x+2)(x-4)$に戻すことは簡単でしょうか?
展開された式を掛け算の状態に戻すことを因数分解といいますが,こちらは簡単にいかない場合が多くあります.
たとえば,$x^2-x-2$は慣れれば
と簡単に因数分解できるようになりますが,$x^2-2x-2$を因数分解すると
となります.
さらに,$x^2-x+1$に至っては実数の範囲では因数分解ができません.
このように,係数が少し変わるだけで途端に因数分解が難しくなることがあるため,展開と違って因数分解はそれほど簡単とは言えません.
そこで,まずは$x^2-x-2=(x-2)(x+1)$程度の公式から簡単にできる因数分解を身に付けましょう.
展開と因数分解は逆の操作である.
展開と因数分解の4つの基本公式
最初に習う基本公式は,展開と因数分解についてそれぞれ4つづつあります.
展開の4つの基本公式
展開についての,基本的な4つの公式を書きます.
これらは,左辺を実際に展開すれば導くことができるので,一度は自分で計算してみてください.
さて,4つの公式があるとはいえ,ひとまずは一番上の公式
を使えるようになりましょう.というのは,この一番上の公式から他の3つの公式を作ることができるからです.
この展開公式のポイントは,$(x+a)(x+b)$の$a$と$b$を見て,「積$ab$が定数,$a+b$が1次の係数」というところです.
そのうち,公式として覚えていなくても当たり前のように展開できるようになって欲しいところですが,初めのうちは
「積が定数,和が1次」
と標語的に覚えても良いでしょう.
[問] 次を展開せよ.
- $(x+2)(x+3)$
- $(x+2)^2$
- $(x-3)^2$
- $(x+5)(x-5)$
「積が定数,和が1次」を意識してください.
(1) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a=2$, $b=3$だから,
(2) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a=2$, $b=2$だから,
(3) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a=-3$, $b=-3$だから,
(4) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a=5$, $b=-5$だから,
全て公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$を用いましたが,(2)-(4)はそれぞれ$(x+a)^2=x^2+2ax+a^2$, $(x-a)^2=x^2-2ax+a^2$, $(x+a)(x-a)=x^2-a^2$の公式を用いるとより速く計算できます.
(2) 公式$(x+a)^2=x^2+2ax+a^2$で$a=2$だから,
(3) 公式$(x-a)^2=x^2-2ax+a^2$で$a=-3$だから,
(4) 公式$(x+a)(x-a)=x^2-a^2$で$a=5$だから,
展開の計算は当たり前にできるようになってください.
基本は$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$であり,形としては「積$ab$が定数,$a+b$が1次の係数」となっている.慣れれば,他の3つの公式も使えるようになりたい.
因数分解の4つの基本公式
因数分解についての,基本的な4つの公式を書きます.
これらは展開の4つの基本公式で右辺と左辺を入れ替えたものですから,本質は展開のときと全く変わりません.
やはり意識するべきことは$(x+a)(x+b)$の$a$と$b$を見て「積$ab$が定数,$a+b$が1次の係数」になっているといる点です.
[問] 次を因数分解せよ.
- $x^2-x-20$
- $x^2+18x+81$
- $x^2-12x+36$
- $x^2-49$
やはり「積が定数,和が1次」を意識してください.
(1) 公式$x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)$で$a+b=-1$, $ab=-20$だから,$a=-5$, $b=4$ととれば良いので,
(2) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a+b=18$, $ab=81$だから,$a=9$, $b=9$ととれば良いので,
(3) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a+b=-12$, $ab=36$だから,$a=-6$, $b=-6$ととれば良いので,
(4) 公式$(x+a)(x+b)=x^2+(a+b)x+ab$で$a+b=0$, $ab=-49$だから,$a=7$, $b=-7$ととれば良いので,
展開のときの具体例と同じく,全て公式$x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)$を用いましたが,(2)-(4)はそれぞれ$x^2+2ax+a^2=(x+a)^2$, $x^2-2ax+a^2=(x-a)^2$, $x^2-a^2=(x+a)(x-a)$の公式を用いるとより速く計算できます.
(2) 公式$x^2+2ax+a^2=(x+a)^2$で$a=9$だから,
(3) 公式$x^2-2ax+a^2=(x-a)^2$で$a=-6$だから,
(4) 公式$x^2-a^2=(x+a)(x-a)$で$a=7$だから,
慣れてくれば,別解のようにパッと答えを出せるようになります.
展開と同じく,基本は$x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)$であり,形としては「積$ab$が定数,$a+b$が1次の係数」となっている.
展開と因数分解の図形的意味
公式$x^2+(a+b)x+ab=(x+a)(x+b)$については,次のように図形的に考えるとイメージとしても理解できます.
この図で,全体の面積は
- 縦の長さが$x+a$,横の長さが$x+b$の長方形の面積は$(x+a)(x+b)$
- 分けられた4つの部分の面積の和で考えると,長方形の面積は$x^{2}+ax+bx+ab=x^{2}+(a+b)x+ab$
と2通りで考えることができます.
これらは,どちらも同じ長方形の面積を表しているので,
が従います.
他の3つの公式についても同様に考えられるので,是非紙に書いて考えてみてください.
展開の公式と因数分解の公式は,長方形の面積を考えればイメージとしても理解できる.
【次の記事:多項式の基本2|たすきがけ因数分解の公式の使い方】
この記事で説明した展開・因数分解の2次式において,2次の係数は全て1でした.2次の係数が1でない$2x^2-3x-2$のような場合の因数分解には,[たすきがけ因数分解]と呼ばれる公式があります.