3次以上の多項式の因数分解を考えるとき,以前の記事で説明したような因数分解公式が使えれば簡単ですが,公式を適用できないことも多くあります.
そのような因数分解公式が使えない場合には[因数定理]による因数分解を考えるのが定石です.
[因数定理]という名前を聞くと難しそうに感じてしまう人が少なくありませんが,実は決して難しいものではなく一度分かってしまえば「当たり前」にすら思えるはずです.
また,似た定理として「1次式での割り算の余りを求める」のに便利な[剰余の定理]があります.
[因数定理]のイメージがつかめていれば[剰余の定理]も同様に考えることができ,[剰余の定理]もやはり当たり前に思えることでしょう.
この記事では
- 因数定理
- 剰余の定理
がどのように当たり前なのかを説明し,具体例からこれらの定理の使い方をみます.
一連の記事はこちら
【多項式の基本1|「展開」と「因数分解」の4つの基本公式】
【多項式の基本2|たすきがけ因数分解の公式の使い方】
【多項式の基本3|2次式の最小値・最大値は平方完成が鉄板!】
【多項式の基本4|2次方程式の[解の公式]の導出と使い方】
【多項式の基本5|2次方程式の判別式と,2次方程式の虚数解】
【多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】
【多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】
【多項式の基本8|[因数定理]と[剰余の定理]は当たり前!】←今の記事
【多項式の基本9|[解と係数の関係]は覚える必要なし!】
目次
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因数定理
まず,確認しておきたいのは次の[事実1]です.
[事実1] 多項式$f(x)$と定数$a$を考える.$f(x)$が$x-a$を因数にもつとき,$f(a)=0$となる.
言い換えれば,多項式$g(x)$を用いて
と表せるとき,$f(a)=0$となる.
たとえば,$f(x)=(x-1)(x^2+x+1)$のとき,$x=1$で$x-1=0$となるので$f(1)=0$ですね.
このように,「$f(x)=(x-a)g(x)$と表せていれば$f(a)=0$となる」という[事実1]は当たり前ですね.
さて,[因数定理]はこの[事実1]の逆です.
[因数定理] 多項式$f(x)$と定数$a$を考える.$f(a)=0$となるとき,$f(x)$は$x-a$を因数にもつ.
この[因数定理]は,$f(a)=0$となるとき,
となる多項式$g(x)$が存在する,とも言い換えられますね.
多項式$f(x)$に$a$を代入して0になるなら,そりゃあ$f(x)$は$x-a$を因数にもっていそうですよね.
[因数定理]はただこれだけのことなのです.
「多項式$f(x)$が$f(x)=(x-a)g(x)$と表せるなら,$f(a)=0$が成り立つ」は当たり前である.この逆の「多項式$f(x)$が$f(a)=0$を満たすなら,$f(x)=(x-a)g(x)$と表せる」が[因数定理]である.
因数定理の例1
3次以上の多項式を因数分解するときは,最初に公式で因数分解できないかを考えます.
公式を使って因数分解できない時に因数定理を使うのが定石です.
【前々回の記事:多項式の基本6|3次以上の展開と因数分解の公式の総まとめ】
3次以上の多項式に対しても,いくつか展開と因数分解の公式があります.前々回の記事では,3次以上の多項式に使える展開/因数分解の公式をまとめています.
具体例を考えましょう.
$x^3-6x^2+11x-6$を因数分解せよ.
この3次式に$x=1$を代入すると
となるので,[因数定理]より$x^3-6x^2+11x-6$は$x-1$を因数にもつことが分かります.
$x^3+4x^2-5$を$x-1$で割ると
なので,商は$x^2-5x-6$,余りは0となります(既に$x-1$を因数にもつことが分かっているので,余りが0なのは当たり前です).すなわち,
が成り立ちます.
さらに,2次式$x^2-5x-6$は
と因数分解できます.以上をまとめて
と因数分解ができました.
なお,多項式の割り算については前回の記事で説明しています.
【前回の記事:多項式の基本7|[多項式の割り算]を考え方から理解しよう】
例えば,$7\div3$は2あまり1ですが,これは数学的には$7=3\times2+1$と表すことができます.多項式の割り算もこの整数の割り算と同じ考え方に基づいて考えることができます.
因数定理の例2
もう1問,因数分解しましょう.考え方は例1と全く同じです.
$3x^3-7x^2-7x+3$を因数分解せよ.
この3次式に$x=-1$を代入すると,
となるので,[因数定理]より$3x^3-7x^2-7x+3$は$x+1$を因数にもつことが分かります.$3x^3-7x^2-7x+3$を$x+1$で割ると
なので
です.さらに,2次式$x^2-5x-6$は
因数分解できるので
が分かります.
$f(a)=0$となる数$a$を具体的に見つけることで,[因数定理]から$f(x)$が$x-a$を因数にもつことが分かる.
因数定理の証明
[因数定理]の証明はとても簡単で,多項式の割り算が分かっていればすぐに導出できます.
[因数定理(再掲)] 多項式$f(x)$と定数$a$に対して$f(a)=0$となるとき,$f(x)$は$x-a$を因数にもつ.
$f(x)$を$x-a$で割った商を$g(x)$とし,余りを$c$とする(1次式で割った余りは定数となるから,$c$は定数である).このとき
だから,仮定$f(a)=0$と
を併せて$c=0$を得る.よって,$f(x)=(x-a)g(x)$が成り立つ.すなわち,$f(x)$は$x-a$を因数にもつ.
剰余の定理
次に,[剰余の定理]の説明に移ります.
[因数定理]は[事実1]の逆なのでした.
[事実1] 多項式$f(x)$と定数$a$を考える.$f(x)$が$x-a$を因数にもつとき,$f(a)=0$となる.
言い換えれば,多項式$g(x)$を用いて
と表せるとき,$f(a)=0$となる.
この[事実1]と同様に,以下の[事実2]も当たり前です.
[事実2] 多項式$f(x)$と定数$a$, $c$を考える.$f(x)$を$x-a$で割った余りが$c$であるとき,$f(a)=c$となる.
言い換えれば,多項式$g(x)$を用いて
と表せるとき,$f(a)=c$となる.
[事実1]と[事実2]の違いは,余りが0なのか$c$なのかという点ですね.
そして,[因数定理]が[事実1]の逆であったように,[事実2]の逆にも名前がついておりこれが[剰余の定理]です.
[剰余の定理] 多項式$f(x)$と定数$a$, $c$を考える.$f(a)=c$となるとき,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$c$である.
この[剰余の定理]は,$f(a)=c$となるとき,
となる多項式$g(x)$が存在する,とも言い換えられますね.
「多項式$f(x)$が$f(x)=(x-a)g(x)+c$と表せるなら,$c=f(a)$が成り立つ」は当たり前である.一方,この逆の「多項式$f(x)$が$f(a)=c$を満たすなら,$f(x)=(x-a)g(x)+c$と表せる」が[剰余の定理]である.
剰余の定理の例1
1次式で割ったときの余りを求める問題では「剰余の定理」は非常に強力な武器になります.
具体的に以下の問題を考えましょう.
$x^3-6x^2+4x+3$を$x-5$で割った余りを求めよ.
[剰余の定理]より,$x-5$で割った余りは$x^3-6x^2+4x+3$に$x=5$を代入したものに等しく
である.
[剰余の定理]を使わなくても,具体的に$x^3-6x^2-4x+3$を$x-5$で割って
としても余りが$-2$であることは分かりますが,代入してすぐに求まる[剰余の定理]の方がよっぽど楽ですね!
剰余の定理の例2
次のも問題も「1次式で割った余り」なので,例1と同様に解けますね.
$3x^4-4x^2-2x+7$を$x-2$で割った余りを求めよ.
[剰余の定理]より,
である.
あっという間ですね!
多項式を1次式で割ったときの余りを求める際には,[剰余の定理]が非常に強力である.
剰余の定理の証明
[剰余の定理]は[因数定理]を用いれば,簡単に証明できます.
[剰余の定理(再掲)] 多項式$f(x)$と定数$a$, $c$に対して$f(a)=c$となるとき,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$c$である.
$F(x)=f(x)-f(a)$とする.
$F(a)=f(a)-f(a)=0$だから[因数定理]より$F(x)$は$x-a$を因数にもつので,$F(x)=(x-a)g(x)$が成り立つ.左辺は$f(x)-f(a)$だから,$f(a)$を移項して
となるから,$f(a)$を移項して$f(x)=(x-a)g(x)+f(a)$を得る.
すなわち,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$f(a)$である.
要は,[剰余の定理]は$f(x)-f(a)$に[因数定理]を適用した場合に相当するというわけですね.
因数定理と剰余の定理の関係
この記事では
- 先に[因数定理]を証明し,[因数定理]を用いて[剰余の定理]を証明しましたが,
- [剰余の定理]を先に証明し,[剰余の定理]を用いて[因数定理]を証明することも
できます.
おまけとして,[剰余の定理]→[因数定理]の順の証明を書いて終わります.
[剰余の定理(再掲)] 多項式$f(x)$と定数$a$, $c$に対して$f(a)=c$となるとき,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$c$である.
$f(x)$を$x-a$で割った商を$g(x)$とし,余りを$b$とする.このとき,
だから,
となって,$c=f(a)$を得る.よって,$f(x)=(x-a)g(x)+f(a)$が成り立つ.すなわち,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$f(a)$である.
次に,[剰余の定理]を用いて[因数定理]を証明します.
[因数定理(再掲)] 多項式$f(x)$と定数$a$に対して$f(a)=0$となるとき,$f(x)$は$x-a$を因数にもつ.
[剰余の定理]から,$f(x)$を$x-a$で割った余りは$f(a)$なので,$f(a)=0$のときは$f(x)$を$x-a$で割った余りは0となる.
すなわち,$f(a)=0$のときは$f(x)$は$x-a$を因数にもつ.
要は,[因数定理]は[剰余の定理]の余りが0の場合に相当するというわけですね.
このことが分かっていれば,[剰余の定理]も[因数定理]が密接に関わっていることが納得できますね.
[剰余の定理]は$f(x)-f(a)$に[因数定理]を適用した場合に相当する.一方,[因数定理]は[剰余の定理]の余りが0の場合に相当する.
すなわち,[因数定理]と[剰余の定理]は同じことを述べている.
【次の記事:多項式の基本7|[解と係数の関係]は覚える必要なし!】
2次方程式$ax^2+bx+c=0$が解$\alpha$, $\beta$をもつとき,[解と係数の関係]とよばれる$\alpha+\beta=-\frac{b}{a}$, $\alpha\beta=\frac{c}{a}$が成り立ちますが,このことは覚えていなくても瞬時に導けます.同様に,3次以上の方程式でも[解と係数の関係]は覚える必要はありません.