無限級数の発散条件|発散する無限級数の3つの具体例

極限
極限

数列$\{a_n\}$の項を初項から順に

    \begin{align*}a_1+a_2+a_3+\dots+a_n+\dots\end{align*}

と無限に足していくとき,この和を$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$と表し,数列$\{a_n\}$の無限級数というのでした.

無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$のきちんとした定義は,初項から第$n$項までの和の極限$\lim\limits_{n\to\infty}(a_1+a_2+\dots+a_n)$でした.

前回の記事では無限級数の具体例として,一般項が$a_n=\dfrac{1}{2^n}$の数列の無限級数が

    \begin{align*}\frac{1}{2^1}+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{2^3}+\dots+\frac{1}{2^n}+\dots=1\end{align*}

と$1$に収束することをみましたが,無限級数はいつでも収束するとは限りません.むしろ発散する無限級数はたくさんあります.

一般には無限級数の収束・発散の判定は簡単とは限りませんが,一発で発散することが判定できる無限級数もあります.

この記事では

  • 無限級数の基本の発散条件
  • 発散する無限級数の具体例

を順に説明します.

無限級数と数列の収束・発散

無限級数の基本の発散条件の証明のためには次の定理が重要です.

無限級数が収束するときの数列の極限

数列$\{a_n\}$に対して,無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$が収束すれば,$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=0$が成り立つ.

無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$の第$n$項までの部分和を$S_n$とする.すなわち,

    \begin{align*}S_n=\sum_{k=1}^{n}a_k\end{align*}

とする.このとき,$a_{n}=S_{n}-S_{n-1}$であり,$S_{n}$, $S_{n-1}$はともに$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$に収束するから,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}S_{n}=\lim_{n\to\infty}S_{n-1}\end{align*}

が成り立つ.よって,

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}a_{n} &=\lim_{n\to\infty}(S_n-S_{n-1}) \\&=\lim_{n\to\infty}S_n-\lim_{n\to\infty}S_{n-1} =0\end{align*}

が従う.

この証明でよく「$S_{n-1}$と$S_n$は同じとは限らないが,$\lim\limits_{n\to\infty}S_{n}=\lim\limits_{n\to\infty}S_{n-1}$となるのはなぜか?」という質問を受けます.

そもそも極限というのは「どこに近付くか」ということを表すものであって,「何になるか」ではないことが大切です.つまり,$\lim\limits_{n\to\infty}S_n$は「$n$を大きくしていくときの$S_n$の『近付き先』」という意味なわけですね.

いま無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$が収束することから,$S_n$も$S_{n-1}$も同じ値に近付くので$\lim\limits_{n\to\infty}S_{n}=\lim\limits_{n\to\infty}S_{n-1}$が成り立ちます.

無限級数の発散条件

この定理は対偶を考えて,次の形で用いることも多いです.

[無限級数の発散条件]0に収束しない数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$は発散する.

つまり,無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$をみたとき,数列$\{a_n\}$が0に収束していなければ,その瞬間に発散する無限級数であることが分かるわけですね.

$a_n$が$0$でないところを無限にさまよっていては,無限級数も収束しなさそうなことは直感的にも分かりますね.

無限級数が収束しない例

いくつかの発散する無限級数を考えましょう.

例1

一般項が$a_n=\dfrac{n}{n+1}$の数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$が発散することを示せ.

数列$\{a_n\}$の極限は

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty}a_n =\lim_{n\to\infty}\frac{n}{n+1} =\lim_{n\to\infty}\frac{1}{1+\frac{1}{n}} =\frac{1}{1+0} =1\end{align*}

だから,数列$\{a_n\}$は$0$に収束しない.

よって,[無限級数の発散条件]から無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$は発散する.

十分大きい$n$に対しては$a_n\approx 1$ですから,この無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$はほとんど$1$の項を無限に足し続けることになります.

そう考えると確かにどこかの値に収束することはなさそうですね.

例2

一般項が$a_n=(-1)^n$の数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$が発散することを示せ.

問題の数列$\{a_n\}$は

  • $n$が奇数のとき$a_n=-1$
  • $n$が偶数のとき$a_n=1$

だから,数列$\{a_n\}$は$0$に収束しない.

よって,[無限級数の発散条件]から無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$は発散する.

実際に$a_n=(-1)^n$の初項から第$n$項までの部分和$S_n$を考えると,

  • $S_1=a_1=-1$
  • $S_2=a_1+a_2=0$
  • $S_3=a_1+a_2+a_3=-1$
  • $S_4=a_1+a_2+a_3+a_4=0$
  • ……

と$0$と$-1$を往復することが分かります.詳しく書けば,

  • $n$が偶数のとき,$S_n=-1+1-\dots+1=0$
  • $n$が奇数のとき,$S_n=-1+1-\dots-1=-1$

と部分和$S_n$は$0$と$-1$の間を行き来するので,無限級数$\sum\limits_{k=1}^{n}a_k$は振動するということになります.

確かに無限級数$\sum\limits_{k=1}^{n}a_k$が発散していることが分かりましたね.

例3

一般項が$a_n=\dfrac{1}{n}$の数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$が発散することを示せ.

この問題の$a_n$の極限がどうなるかを考えると

    \begin{align*}\lim_{n\to\infty} a_n =\lim_{n\to\infty} \dfrac{1}{n}=0\end{align*}

となっています.したがって,この問題では[無限級数の発散条件]を適用することはできません.

しかし,次のように発散することが証明できます.

任意の$k=1,2,\dots$に対して,$a_{2^k+1}$から$a_{2^{k+1}}$をまとめて足し合わせると

    \begin{align*}\sum_{n=1}^{\infty}a_n =&\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\bra{\frac{1}{3}+\frac{1}{4}}+\bra{\frac{1}{5}+\dots+\frac{1}{8}} \\&+\bra{\frac{1}{9}+\dots+\frac{1}{16}}+\bra{\frac{1}{17}+\dots+\frac{1}{32}}+\dots \\>&\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\bra{\frac{1}{4}+\frac{1}{4}}+\bra{\frac{1}{8}+\dots+\frac{1}{8}} \\&+\bra{\frac{1}{16}+\dots+\frac{1}{16}}+\bra{\frac{1}{32}+\dots+\frac{1}{32}}+\dots \\=&\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\frac{1}{2}+\dots =\infty\end{align*}

と発散することが分かる.

つまり,任意の$k=1,2,\dots$に対して

    \begin{align*}\frac{1}{2^k+1}+\frac{1}{2^k+2}+\dots+\frac{1}{2^{k+1}}>\frac{1}{2}\end{align*}

となることを用いているわけですね.

積分を用いても発散することは証明できます(数学IIIの重要な基本問題です)が,少しテーマが変わるのでここでは省略します.

ここで「$\lim_{n\to\infty}a_n=0$なのに発散するのは[無限級数の発散条件]と矛盾してない?」と思う方もいらっしゃるかもしれません.

結論から言えば矛盾していません.もう一度[無限級数の発散条件]を確認してみましょう.

[無限級数の発散条件(再掲)]0に収束しない数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$は発散する.

[無限級数の発散条件]は$\lim\limits_{n\to\infty}a_n\neq0$のときの話であって,$\lim\limits_{n\to\infty} a_n=0$のときに無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$の発散・収束については何も言っていないということに注意してください.

そして,この例3の数列$\{a_n\}$は「$\lim\limits_{n\to\infty}a_n=0$を満たすが,無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$が収束しない例」になっているわけですね.

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