前回の記事で説明したように,数列$\{a_n\}$の項を初項から順に
と無限に足していくとき,この和を$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$と表し,数列$\{a_n\}$の無限級数というのでした.
きちんとした定義は
でしたね.すなわち,部分和$\sum\limits_{k=1}^{n}a_k$で極限$n\to\infty$をとったもの無限級数というのでした.
前回の記事では,発散する無限級数を主に取り扱い,無限級数は簡単に発散してしまうことを説明しました.
さて,一般に無限級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_k$の収束・発散の判定は簡単でない場合も多いのですが,数列$\{a_k\}$が等比数列の場合には簡単に収束・発散が判定できます.
このように,等比数列の無限級数は性質が分かりやすく重要なので,無限等比級数と名前が付いています.
この記事では,
- 無限等比級数とは何か?
- 無限等比級数の収束・発散の判定方法
- 無限等比級数の具体例
を順に説明します.
「極限」の一連の記事
無限等比級数とは
無限等比級数を導入しましょう.
無限等比級数の例
冒頭でも簡単に書きましたが,[無限等比級数]は以下のように定義されます.
数列$\{a_n\}$が等比数列のとき,$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$を無限等比級数という.
初項$a$,公比$r$の等比数列$\{a_n\}$の一般項は$a_n=ar^{n-1}$と表せますから,無限等比級数は
と表せますね.
$\sum\limits_{n=1}^{\infty}ar^n$も無限等比級数ですね(この場合は$ar$が初項).
たとえば
- $1+2+4+8+\dots+2^{n-1}+\dots$
- $\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{4}+\dfrac{1}{8}+\dots+\dfrac{1}{2^n}+\dots$
- $2-\dfrac{2}{3}+\dfrac{2}{9}-\dfrac{2}{27}+\dots+2\bra{-\dfrac{1}{3}}^{n-1}+\dots$
はいずれも無限等比級数で,それぞれ
と表すこともできますね.
なお,等比数列について詳しくは,以下の記事を参照してください.

最初の一歩は等差数列と等比数列!


等比数列の和の公式を具体例から理解する
なぜ無限等比級数が重要なのか
そもそも数列とは数の並べたものことなので,分かりやすい規則があろうがなかろうが数が並んでさえいればそれは数列です.
そう考えると,素性のよく分からない数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$を考えるのは難しいでしょうし,逆によく分かっている数列$\{a_n\}$の無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$は考えやすいものになりそうですね.
一般に無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$の収束や発散の判定は難しいことが多く,
といった単純そうに見える無限級数でさえ,収束や発散の判定は面倒です.
$\sum\limits_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2}$は収束しますが,$\sum\limits_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n}$は$\infty$に発散します.
前者の$\sum\limits_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2}$の極限値を求める問題はバーゼル問題と呼ばれています.現代では様々な方法が知られていますが,レオンハルト・オイラーが$\dfrac{\pi^2}{6}$となることを証明するまでは未解決問題でした.
無限級数の中でも,無限等比級数は非常に分かりやすいもので,
- 収束するための必要十分条件
- 収束する場合にはその極限値
がよく分かっています.これが無限等比級数が重要な理由です.
無限等比級数の収束・発散条件
それでは,無限等比級数の収束・発散条件(収束するための必要十分条件)を解説します.
[無限等比級数の収束・発散条件] 初項$a$,公比$r$の等比数列$\{a_n\}$に対して,無限等比級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_n$が収束するための必要十分条件は
- $a=0$
- $-1<r<1$
のいずれかを満たすことである.また,無限等比級数$\sum\limits_{k=1}^{\infty}a_n$が収束するとき
となる.
前回の記事で説明したように,無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$が収束するには,少なくとも数列$\{a_n\}$は$0$に収束していなければならなかったことを思い出しましょう.


無限級数の発散条件と収束しない3つの例
初項が$0$でない等比数列$\{a_n\}$の公比が$r<-1$または$1<r$であれば等比数列$\{a_n\}$は発散するので,無限等比級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$は問答無用で発散することが分かります.
また,$r=1$であれば等比数列$\{a_n\}$は$a$に収束しますが,$a\neq0$ならこの場合もやはり無限等比級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$は発散しますね.
一方,$a=0$または$-1<r<1$であれば,等比数列の和の公式から直接極限を求めることができるので収束することが分かります.
この考え方さえ分かっていれば瞬時に導出できるので,覚えるのではなく理解して使えるようにしてください.
きちんと証明の形にすると次のようになります.
数列$\{a_n\}$の一般項は$a_n=ar^{n-1}$と表せる.
[1] $a=0$のときは,任意の正の整数$n$に対して$a_n=0$だから
と収束する.
[2] $-1<r<1$のときは,等比数列の和の公式より
である.$-1<r<1$より$\lim\limits_{n\to\infty}r^n=0$だから,
と収束する.
[3] $a\neq0$かつ「$r<-1$または$1<r$」のときは,数列$\{a_n\}$が発散するから$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$も発散する.
[4] $a\neq0$かつ$r=1$のときは,数列$\{a_n\}$は$a$に収束するので$\sum\limits_{n=1}^{\infty}a_n$も発散する.
[1]-[4]より,収束するための必要十分条件は$a=0$または$-1<r<1$であり,このとき
と収束する.
無限等比級数の具体例
最後に先ほど挙げた次の3つの無限等比級数を具体例として収束・発散を考えましょう.
次の無限級数の極限の収束・発散を調べよ.また,収束する場合はその極限値も求めよ.
(1) 無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}2^{n-1}$は初項$1$,公比$2$の等比数列の無限等比級数である.
初項$1$が$0$でなく,公比$2$が$1<2$を満たすから発散する.
(2) 無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{2^n}$は初項$\dfrac{1}{2}$,公比$\dfrac{1}{2}$の等比数列の無限等比級数である.
公比$\dfrac{1}{2}$が$-1<\dfrac{1}{2}<1$を満たすから収束し,
である.
(3) 無限級数$\sum\limits_{n=1}^{\infty}2\bra{-\dfrac{1}{3}}^{n-1}$は初項$2$,公比$-\dfrac{1}{3}$の等比数列の無限等比級数である.
公比$-\dfrac{1}{3}$が$-1<-\dfrac{1}{3}<1$を満たすから収束し,
である.
「極限」の一連の記事
=0.999\dots$が成り立つ話
「$1$と無限小数$0.999\dots$は等しい」と聞いたとき,この主張に対してどう思うでしょうか?
実は$1=0.999\dots$は数学的には正しい等式で,きちんと証明することができます.
$0.999\dots$のような無限小数は小学校で学ぶものですが,実はきちんと無限小数を理解するには無限級数の知識を必要とします.
以下の記事では,$1=0.999\dots$がどうして成り立つのかを直感的に説明したのち,厳密な無限小数の定義も説明しています.



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