数学では「仮定」が何で,「結論」が何かということを意識するのは非常に重要です.
これを間違えるとまったく意味のない議論になってしまい,すべてが破綻することもあります.
たとえば,「$p$であるとき,$q$を証明せよ.」という問いで,証明の中で$q$を使ってしまうという誤りがよくあります.
これは「まだ$q$が成り立つか分かっていないのに,$q$が成り立つ前提で話を進めてしまっている」というのが間違いです.
この記事では,論理関係の基本として
- 条件とは何か
- 必要条件と十分条件の違い
について具体例を用いて詳しく説明します.
一連の記事はこちら
【論理と集合1|「集合」は数学の共通語!集合の基礎知識】
【論理と集合2|補集合の計算は「ド・モルガンの法則」】
【論理と集合3|「必要条件」「十分条件」は論理のド基本】←今の記事
【論理と集合4|命題を集合を使って考える超便利な方法】
【論理と集合5|対偶はどういう時に使う?対偶の性質】
命題と条件
必要条件,十分条件について説明する前に,「命題」と「条件」の概念について整理しておきます.
しかし,この節はあまり深く考えるとよく分からなくなる恐れがあるので,ある程度読み飛ばして次の「必要条件と十分条件」の節に進んでしまっても構いません.
命題
まずは「命題」について説明します.
正しいか正しくないかが明確に決まる主張を命題という.また,命題が正しいとき命題は真であるといい,命題が正しくないとき命題は偽であるという.
少し曖昧な感じがする人はその感覚は正しいです.
しかし,厳密に命題というものを定義するには「数理論理学」という数学を学ぶ必要があるので,詳しくはここでは触れません.
要は
- 彼の身長は180cm以上ある
- 2は偶数である
- 5は4で割り切れる
など正しいか正しくないかが決まる事柄を命題というわけですね.
一方,
- 彼女は頭が良い
- 彼は背が高い
など判断する人の主観に依存する事柄は命題とは言いません.
また,
- 「2は偶数である」は真
- 「5は4で割り切れる」は偽
ですね.
条件
次に「条件」について説明します.
文字$x$を含んだ文や式において,文字のとる値を変えると真偽が変わるものがある.このような文字$x$を含んだ文や式を,$x$の条件という.
たとえば,
- $x$は整数である
- $x$は3以上の奇数である
は$x$が変わるごとに真偽もそれに対して決まるので「$x$の条件」ですね.
命題と条件
命題は条件$p$と$q$を用いて「$p$ならば,$q$である」の形で書かれることが多くあります.
たとえば,条件$p$と$q$を
- $p$:$x$は4の倍数である
- $q$:$x$は偶数である
と定めると,「$p$ならば,$q$である」は「$x$が4の倍数ならば,$x$は2の倍数である」ということになり,これは真の命題です.
また,条件$p$と$q$を
- $p$:三角形Xは二等辺三角形である
- $q$:三角形Xは正三角形である
と定めると,「$p$ならば,$q$である」は「三角形Xが二等辺三角形ならば,Xは正三角形である」ということになり,これは偽の命題ですね.
命題$p\Ra q$が真であるとは,$p$が成り立つときに必ず$q$が成り立つことをいう.
必要条件と十分条件
それではこの記事の本題の
- 必要条件
- 十分条件
について説明します.
必要条件と十分条件の定義
[必要条件,十分条件] 条件$p$, $q$に対し,命題「$p$ならば,$q$である」を,
と書く.命題$p\Ra q$が真であるとき,
- $p$は$q$の十分条件である
- $q$は$p$の必要条件である
という.また,命題$p\Ra q$と命題$q\Ra p$がともに真であるとき,$p$は$q$の必要十分条件である,または$p$と$q$は同値であるという.
$p$が$q$の必要十分条件なときは,$q$は$p$の必要十分条件でもありますね.
さて,すでに「命題の真偽」については少し説明しましたが,ここでもう一度触れておきます.
先ほど[ポイント]で「命題$p\Ra q$が真であるとは,$p$が成り立つときに必ず$q$が成り立つことをいう.」と書きましたが,この「必ず」という部分が重要です.
つまり,$p$が成り立っているのに,$q$が成り立たない場合が1つでもあれば,命題$p\Ra q$は偽であるということになります.
具体例
それでは具体例を考えてみましょう.
次のそれぞれの場合において,命題$p$, $q$はそれぞれ他方の必要条件か,十分条件か.
- $p$;A君はX高校の生徒である
$q$:A君は高校生である - $p$:$x$は偶数である
$q$:$x$は4の倍数である - $p$:$x$は6の倍数である
$q$:$x$は2の倍数かつ3の倍数である
(1) [$p\Ra q$の真偽] 「$p$:A君はX高校の生徒である」とするとき,必ず「$q$:A君は高校生である」でしょうか?
これは必ず正しいですから,命題「$p\Rightarrow q$」は真です.
したがって,$p$は$q$の十分条件です.
[$q\Ra p$の真偽] 「$q$:A君は高校生である」とするとき,必ず「$p$:A君はX高校の生徒である」でしょうか?
たとえば,A君はY高校の生徒かもしれませんし,Z高校の生徒かもしれませんから,$p$が必ず成り立つとは言えません.
したがって,$p$は$q$の必要条件ではありません.
以上より,「$p$は$q$の十分条件だが必要条件でない」と分かりました.
また,
- 「$p$が$q$の十分条件である」と「$q$が$p$の必要条件である」は同じ
- 「$p$は$q$の必要条件でない」と「$q$が$p$の十分条件でない」は同じ
ですから,「$q$は($p$の)必要条件だが十分条件でない」ということでもありますね.
(2) [$p\Ra q$の真偽] 「$p$:$x$は偶数である」とするとき,必ず「$q$:$x$は4の倍数である」でしょうか?
たとえば,$x=6$は$p$をみたしますが,$q$はみたしていません.
したがって,$p$は$q$の十分条件ではありません.
[$q\Ra p$の真偽] 「$q$:$x$は4の倍数である」とするとき,必ず「$p$:$x$は偶数である」でしょうか?
$x$が4の倍数であるとき,$x$は整数$m$によって
と表すことができ,$2m$は整数ですから$x$は偶数となりますね.
したがって,$p$は$q$の必要条件です.
以上より「$p$は$q$の必要条件だが十分条件でない」と分かりました.また,これは「$q$は$p$の十分条件だが必要条件でない」ということでもありますね.
(3) [$p\Ra q$の真偽] 「$p$:$x$は6の倍数である」とするとき,必ず「$q$:$x$は2の倍数かつ3の倍数である」でしょうか?
$x$が6の倍数であるとき,$x$は整数$m$によって
と表すことができ,$2m$は整数ですから$x$は3の倍数,$3m$は整数ですから$x$は2の倍数となりますね.
したがって,$p$は$q$の十分条件,$q$は$p$の必要条件です.
[$q\Ra p$の真偽] 「$q$:$x$は2の倍数かつ3の倍数である」とするとき,必ず「$p$:$x$は6の倍数である」でしょうか?
$x$が2の倍数であるとき,$x$は整数$m$によって$x=2m$と表せます.さらに,$x=2m$が3の倍数であれば,$m$が3の倍数でなければなりませんから,$m$は整数$n$によって$m=3n$と表せます.
よって,$x=6n$となり$x$は6の倍数です.
したがって,$p$は$q$の必要条件,$q$は$p$の十分条件です.
以上より「$p$は$q$の必要十分条件である」,「$q$は$p$の必要十分条件である」と分かりました.
問題集ではさらっと解答が書かれていることが多いのですが,必要条件,十分条件を調べるときは,いつでも上の解答のように$p\Ra q$, $q\Ra p$の真偽をみなければなりません.
このとき,
- 真の場合は証明をし
- 偽の場合は反例を見つければ
良いというわけですね.
条件$p$, $q$に対して,$p\Ra q$の真偽で$p$の十分性が,$q\Ra p$の真偽で$p$の必要性が分かる.また,真の場合には証明を,偽の場合には判例を見つければよい.
次の記事では,実は命題$p\Ra q$は集合を用いて考えることができることについて説明します.